樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯11 北海道千歳市立みどり台小学校 「すがたをかえる大豆」「食べ物のひみつを教えます」(第三学年)の授業
カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第11回。今回のカバTは、北海道千歳市を訪れました。
執筆/樺⼭敏郎 KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)
目次
【第11回】 北海道千歳市立みどり台小学校
「すがたをかえる大豆」「食べ物のひみつを教えます」(光村図書3年)
授業者:大根田 博 教諭
訪問日:令和6(2024)年11月18日(月)
訪問の概要
千歳市立みどり台小学校は、筆者の科学研究費助成事業(略称、“科研”)において研究調査の協力をお願いしている学校の一つです。同校と共に取り組んでいるテーマは、「国語科における読解を経由する記述力の向上」です。研究実践は令和4年度よりスタートし、今回は3年目の成果を確認し合うことを目的とした授業公開を参観してきました。
同校の授業実践を本連載で取り上げるのは、2回目になります。今回の授業者である大根田先生は、千歳市内外の国語科教育を推進するリーダー的な存在です。研究3年間を総括するに値する、実にきめ細やかで、提案性の高い実践が行われていました。
Good Practice ~授業の花まるポイント~
ラーニング・マウンテンで学びの足跡を残す
今回の教材は、第3学年「すがたをかえる大豆」という説明文です。この教材の読みを生かして、「食べ物のひみつを教えます」という書くことへ繋げる単元構想です。いわゆる複合単元という位置付けです。全13時間を配当した本単元のゴールは、“全員が説明王になる”というものでした(下写真1)。
説明王になるために、ラーニング・マウンテンに単元全体の学びの足跡を残していくような工夫がありました。
写真を見ると、単元の導入段階において学級全体で作成したラーニング・マウンテンに加えて、もう一つのマウンテンがあります。そのマウンテンは子どもたちによる手書きのもので、大まかな学習の流れ<①中みを読みとる(だんらく、問いと答え、筆者の主張、型…)、②しらべる(他のしょくひんメモを書く)、③作文を書く>が示されています。マウンテンの両側には、それまでの学習で習得してきた内容が簡潔に明記されています。
ラーニング・マウンテンは、子ども(学習者)の文脈を大切にし、学びを可視化、見える化することができます。“可視化”とは、学びのゴールをイメージし、全体のプロセスを俯瞰的に視認することです。
一方、“見える化”は、ゴールに向けたプロセスにおける動的な状況を視認することです。
ラーニング・マウンテンを活用すれば、導入段階で見通した学習(登山)計画がどのように進捗しているかを常に確認することができるのです。時に、計画は当初の通りには進行しないものです。随時、調整することも重要です。
このような意味で、ラーニング・マウンテンを活用して学びの足跡を残しながら学習の調整を図ろうとした、大根田先生の発想には大変提案性がありました。
“読むこと”から“書くこと”への橋渡しとなる例示(サンプル)の工夫
複合単元を構想する際、“読むこと”から“書くこと”への接続が鍵を握ります。
最終的な“書くこと”では、教科書教材で習得した読む能力を活用させていくことになりますが、それを具体的にどのように活用していけばよいかは大変難しい課題です。
そこで、大根田先生は、“麦”を取り上げ、それがどのように姿を変えていくかを例示していました(上写真2)。写真2を見ると、説明文の完成形ばかりでなく、その構成表も提示されていることが分かります。構成表を目にした子どもたちは、本の中から必要な情報を取り出し、順序を表す言葉(まず、次に、さらに)やまとめる言葉(このように)を使って、一文一文を丁寧に作成していくことの重要性を十分に理解していました。
“読む能力”を“書く能力”へ転移させていこうとする意識
複合単元においては、“読む能力”を“書く能力”へ転移させていくことが重要であり、そのことを子どもが実感として捉えていくことが重要です。これに関して、大根田先生の授業では、視覚に訴えた構造的理解を促進する工夫がありました。
まずは、教科書教材を丁寧に構造化してまとめていました(下写真3)。写真3を見ると、5観点(①文章全体の組み立て、②段落の組み立て、③言葉の使い方、④写真の使い方、⑤事例のじゅんばん)に即して、構造と内容を把握していったことが分かります。そのことを踏まえて、書くことへ繋げるために、子どもたちに配布したワークシートも同様な観点を意識したものになっていました(下写真4)。ワークシートは、色使いまで配慮されており、マス目を使って正しい表記で丁寧に書きまとめていく子どもたちの様子が印象的でした。
Advice 〜エールを込めてアドバイス
本単元のポイントを二つ挙げます。一つは、「文章の“中”の事例を挙げる順序とその説明の仕方」です。もう一つは、「“読み手(受信者)”から“書き手(発信者)”への転換」です。
一つ目の「文章の“中”の事例を挙げる順序とその説明の仕方」については、本単元の大きなねらいです。教材文にあるように、“中”の事例には「いろいろ手をくわえて、おいしく食べるくふう」が書かれています。その最初の工夫の説明は、「いちばんわかりやすいのは」から始まっています。つまり、説明の順序として、“分かり易い”から“難しい”ものへと移行していくことになります。別の表現にすると、“姿を少し変えるもの”から“姿を大きく変えるもの”へ、“原型が残るもの”から“原型が残らないもの”へ、“手間が余りかからないもの”から“手間がとてもかかるもの”へ、“単純(作業)”から複雑(作業)へ、といった認識となります。
実は、こうした順序ばかりを気にしていると、大事な認識を見失ってしまいます。大事な認識とは何でしょうか。
ある原料が単に様々に姿を変えていき、ある食品になるという姿の変化だけでなく、それらは全て“おいしく食べる”工夫になっているという認識です。“おいしくする”とは、“食べやすくする”、“他のものと組み合わせる”、“栄養に配慮する”などを含む説明になっているのです。
こうした事例の挙げ方の順序は“分かり易い”から“難しい”ものへと移行しているか、また、段落のまとまりを構成する一文一文の説明の仕方は“おいしく食べるくふう”として相手に十分に伝わるか否かを検討することが重要です。“難しい”ものへと移行する場合、自ずと説明を詳しくする必要性があります。
もう一つ、「学習者の“読み手(受信者)”から“書き手(発信者)”への転換」については、本教材のみならず、教科書教材に頻出する“複合単元”を構想する際の重要な視点です。
説明文を読む際の学習者は、まずは読み手(受信者)になりますが、その後は書き手(発信者)という学習者に立たされることになるわけです。その転換は、容易ではありません。そこには、大きな壁があり、それを乗り越えていく指導を十分検討する必要があります。
指導のポイントは3つです。
①教科書教材の筆者は、説明の内容を熟知しているが、学習者はそこへは十分には至れない。
②説明の内容の検索や収集へのこだわりよりも、説明の形式(書き方)に指導の重点を置きたい。
③“読む”から“書く”への移行については、読む能力を一連の書く過程の中のどこで発揮させるのかを吟味する。
「すがたを変える大豆」の筆者の国分牧衛は、農学者でダイズやイネの研究家です。その知見に基づいて、小学3年生にも分かるように説明した文章を書いています。その説明文を読んでいく学習者(読み手)には様々な発見や驚きがあります。複合単元を構想する際、読み手(受信者)は国分牧衛のような説明文を書くことはできません。つまり、“国分さんのような書き手(発信者)になろう”という働きかけには無理があるのです。そこに迫るためには、多くの調査や研究が必要であることは自明です。食べ物について書かれた本を一冊読んだだけでは、説明する内容を真に理解できたとは言えないのです。その食べ物についてある一定の知識を得ようとするのであれば、多くの時間を用意し、複数の資料を読んで、理解を深めることができるといいのですが…。複合単元にそうした時間を割くことは難しいことを考慮すると、説明する形式(書き方)に指導の重点を置くことが第一義だと捉えることが重要でしょう。
大根田先生が“麦”の説明文(サンプル)を例示したことはとても有意義でした。
このとき、教師は収集した資料(図鑑や科学読み物等)の中の情報をどのように取り出してきたのか、それをどのように取捨選択しながら、“中”の事例の順番を検討したのか、それぞれの事例を説明するために、資料の中のどの言葉や文をどのように組み合わせ、あるいは自分の言葉を足して文章化していったのかなどを、子どもたちに丁寧に例示していくことが重要と考えます。
このことを、“モデリング”(一つの模型を作る)と呼びます。学習指導要領的には、“思考し判断したことを表現する”、“見方や考え方を伝える”といったことに重なります。
こうしたモデリングを行う際には、単元において設定した読む能力を十分に咀嚼し、該当学年の発達段階に配慮していくことが大切です。“読む能力”の“書く能力”への転移には、習得した読む能力を活用することが肝です。
複合単元は、書くことの単元でありません。一連の書く過程を丁寧にたどることができないわけですから、書く能力はできるだけ精選していくことが重要です。
〜旅のこぼれ話〜
本連載(第2回)で同校を取り上げた際、小生の講演記録を掲載しましたが、今回も同様に掲載することにします(下写真5)。
この記録は、同校の松本さおり教諭によるものです。これは、“グラフィックレコーディング”(ミーティングの内容や提案を絵や図形などのグラフィックを用いてリアルタイムでまとめること)という、記録の取り方です。松本先生は、筆者の講演を聞きながら即時に大切な内容を捉え、イラストも交えながら構造化してまとめ上げていました。本当に感心しました。
こうした才能は、まさしく“聞く力”としての“メモ力”であり、ぜひ教材化したいものです。松本先生のその極意をいつか伝授してもらおうと思っています。研修会後、前回同様にこの記録を写真撮影する方々であふれていました。
「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“山登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。
「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。そして、マウンテンの頂上に⽴つ⼦どもたちの学びは、教師が教えたいことを越えていく可能性を秘めているのです。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して、最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。
※この連載は、月に数回更新予定です。どうぞお楽しみに!
イラスト/大橋明子
かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。