数学の多様な領域の学習に活用できるアプリGeoGebra 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #12】
前回は、東京都の中学校数学研究会で研究部長を務め、指導教諭でもある、江戸川区立葛西中学校の秋葉養(まもる)教諭に授業(単元)づくりの考え方について聞いていきました。今回は、初回に紹介した「数と式」とは異なる「図形」の領域の授業実践例を紹介していただきながら、授業づくりの考え方を聞いていくことにします。
目次
1年生の単元「空間図形」の授業
前回、授業づくりの考え方を聞く中で、子供たちが学び合う授業づくりに力を入れていることや、そのために教材を工夫すると同時に、学び合いやすくなるように多様な教材やアプリを活用しているというお話を聞きました。そこで、今回は実際にそのような教材やアプリも活用しながら学び合っていった、1年生の「空間図形」の単元の授業について紹介してもらいます。秋葉教諭は、「空間図形」の単元の12/20時で、立体図形をアプリ上で自由に動かすことができるアプリを使った授業を紹介してくれました。
「授業冒頭、まずこの授業での問題となる立方体を示し、小学校時代に学んだ立方体の性質について1問1答形式で質問し、子供たちに立方体の性質を出させていきます。そうして、『これまで学習してきた立方体ってこういうものだったよね』と確認し、苦手な子供も基本的な知識を再確認します。
そのベースとなる知識の共有ができたところで、『全員が空間における長さの関係などを、数学的な表現でわかりやすく説明できるようにする。』という目標を板書して確認し、本時の問題となるワークシートを配付して、学習をスタートしていきました(資料1、2参照)。
【資料1】
【資料2】
ワークシートには、見取り図上に2つの辺の長さが示されているものが示されており、『その長さが同じなのか?』ということを考えていく学習です。子供たちに『見た目と実際の長さが違うものがあるといけないので、一緒に確認していこうか』と投げかけ、授業を展開していきます。子供たちは、辺の長さが同じとか、異なるといったことを考えた経験はありますが、その理由を説明するということは、これまでしてきていないので、最終的に『理由を自分なりに説明してみようか』という流れになっていきます。
そこから、子供たちは自由に立ち歩き、対話しながら考え始めていったのですが、次第に子供たちの間から、『実物が見たい』という声が出てきたところで、実際に立方体の12辺だけで構成された模型(ポリドロン)を出して自由に使えるようにしたり、GeoGebraという数学学習用のアプリの中で、空間図形を3次元的な画像で見て動かすことのできるツールを使って多様な角度から見ながら考えたりできるようにしました。
ちなみに、最初からそのような教材やアプリを出さなかったのは、最初から出してしまって、そればかりを見てしまう子供ばかりになることを防ぎたかったからです。そこで、必要感に応じて、そのような教材やツールも使いながら、子供たちは学び合って、『空間における長さの関係について、数学的な表現でわかりやすく説明』することに取り組んでいきました。
なお、子供たちにとっては、GeoGebraのアプリで画面を通して見るよりも、実物の模型(ポリドロン)を使いながら、『ここはこうだよね』と言って考えていくほうが分かりやすかったようです。この6つの問題では、最後は図の中の3つの対角線に沿って切った断面の三角形の3つの角度が60度になることを考えさせる授業だったのですが、説明する力はまだ十分に身に付いていないなりに、友達同士で『ああ、ここはこうなんだな』と話し合いながら、考えていました。
授業の最後に、各問題の説明を子供たちが行いました。ただ、『数学的な表現で説明する』といった課題が少しむずかしすぎたようで、子供たちなりに『説明』はしたのですが、理想とはほど遠いものもありました。そのため、私自身、あまりよいとは思わないのですが、事前に私が作っておいたプレゼンテーションを黒板に投影して、『こういった説明がよいのではないか』というように、授業を進めていきました」
アプリも活用しながら、子供たちが主体的、協働的に学習を進める
この授業でもそうですが、子供たちの必要感に応じた上で、子供たちが自由に活用できる道具を増やしているという秋葉教諭。例えば、先の実践例で出てきたGeoGebraという数学学習用のアプリは、図形だけでなく、関数や確率、統計など多様な領域の学習に活用することができると言います。このようなアプリを使うことで、各自が適宜、思考を支える道具として使いながら子供たちが学習を進めていくのだと秋葉教諭は話します。
「私は最近、関数の授業で変域の学習をするときにも、GeoGebraを活用し、子供たちが自由に使って考えさせるような授業もしました。変域について私が教えてしまってもよいのですが、子供たちが自分でアプリケーションをいじれるような状態にしておけば、自分たちで関数の定数を変えたり、変域を変えたりしながら考えることができるわけです。
このように適宜、数学用アプリも活用しながら、子供たちが主体的に、かつ学び合いながら協働的に学習を進めていけるようにしてきています。それは前回も少しお話をしたように、全員が理解できるようにするという公教育の目的の実現に向けたものでもあり、他者とコミュニケーションを取り、必要に応じては力を借りながら問題解決をできるという、子供たちの将来にとっても必要な力を育むためなのです。
ただし、前回お話をした通り、私自身、同じことを繰り返していくのはおもしろくないと思っていますから、将来はもっと違ったスタイルで授業を進めるようになっているかもしれません。ですから、この方法はあくまで現時点での私にとっての理想の授業の形ということになります」
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は11月22日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之