「通級による指導」とは?特別支援学級と通級・特別支援教室~シリーズ「実践教育法規」~

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シリーズ「実践教育法規」
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早稲田大学大学院教育学研究科教授

髙橋あつ子

田中博之

教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、教育にまつわる法律や制度を分かりやすく解説していく本連載。第16回は「特別支援学級と通級・特別支援教室」について。特別支援教育の対象となる児童生徒は、年々増加しています。その課題点や、自治体で行われている対策についても解説します。

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執筆/髙橋 あつ子(早稲田大学教職大学院教授)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)

【連載】実践教育法規#16

特別支援教育の全体像

2007年度に、それまでの障害の種別や程度によって「特別な場」で行われていた特殊教育から、教育的ニーズに応じて適切な指導や必要な支援を行う特別支援教育に転換されました。対象は「知的な遅れのない発達障害」にも拡大され、通常の学級においても行われるものとなりました。

その支援の場は、特別支援学校、特別支援学級に加え、通級による指導、通常の学級でも行われることとなります。少子化に逆行し、特別支援教育の対象者は増加し続け、この10年で特別支援学級、通級による指導の対象者は2倍に膨れ上がっています(文部科学省「特別支援教育の充実について」)。

特別支援学級とは

学校教育法第81条2項で、小中学校・義務教育学校に加え、高等学校や中等教育学校にも設置できるとされているのが特殊学級で、2006年の改正で「特別支援学級」と名称が変更されました。当初は知的障害、肢体不自由、身体虚弱、弱視、難聴、その他だった種別に、言語障害、情緒障害(その後、自閉症・情緒障害に)が追加されました。障害の状態や体制にもよりますが、対象となるのは、特別支援学校ほどではないものの特別な教育課程が組まれ個別の指導計画のもとに指導を受けるのが適当と認められる者とされ、障害種ごとの基準も明記されています。

特別な教育課程には、「自立活動」が取り入れられ、「下学年の目標や内容への代替え」や「特別支援学校の教育課程を参考に」実態に応じた編成が可能になっています。それを実現するために、1学級の児童生徒数は8人以下(特別支援学校は6人、通常の学級では40人)とされています。さらに、インクルーシブ教育を進める上でも、通常の学級との間で「交流及び共同学習」の取り組みが推奨されています。

通級による指導とは、通常の学級に在籍しながら、「障害に応じた特別の指導を行う必要があるもの」に対し、年間35~280単位時間まで認められている指導です(学校教育法施行規則第140条)。その対象は、言語障害、自閉症、 情緒障害、弱視、難聴、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他の障害とされ、特別支援教育への転換を受けて利用者は急増しています(文部科学省「令和4年度 通級による指導実施状況調査結果)。さらに高等学校においても2018年度から制度の運用が開始され、約2000人が利用しています(2022年)。

特別支援教室

特別支援学級は、地域差もありますが、全ての小中学校に設置されているわけではありません。そのため、学区を越えて通う必要があり、設置校であっても通常の学級から学籍を変える必要もあります。通級による指導でも在籍級の授業を抜けて通級指導教室に送り迎えする必要があります。これらの負担や制約を減らし、「できる限り一般の教育システムで」(障害者の権利に関する条約)という理念を実現するためにも、全小中学校の通常の学級に籍を置きながら必要な指導を校内で受けられる「特別支援教室(仮称)」(文部科学省、2003)の実現が期待されます。

その具現化は、地域により異なりますが、東京都では、通級による指導を行っていた教員が所属校(拠点校)から担当地域の複数校を巡回し指導する方式をとることで、児童生徒が自分の学校で指導を受けられるようにしました。なお、特別支援学級や通常の学級で受ける支援がより充実するよう、特別支援教育支援員を活用している地域もあります。また学校内の人員に加え、より専門的な相談や助言が受けられるよう、地域に巡回相談員や専門家チーム等を置き、充実を図っています。いずれにせよ、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校という「連続性のある多様な学びの場」を柔軟に活用し、ニーズに応じた質のいい教育ができるだけ制約の少ない環境で受けられることが求められます。

『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正

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