「遠隔教育特例校」とは?【知っておきたい教育用語】

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過疎地域における児童生徒の減少、感染症や災害による休校措置など、さまざまな要因で学校運営が困難になった場合の教育手段として。あるいは、何らかの理由で登校ができなくなった児童生徒に教育の機会を保証するための方法として、全国的に進展しているICTを活用した「遠隔教育」の在り方が検討されています。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

「遠隔教育特例制度」による遠隔授業とは

【遠隔教育特例校制度】
学校教育法施行規則第77条の2の規定に基づいて、生徒の教育上適切な配慮がなされている場合、授業を、多様なメディアを高度に利用し、当該授業を行う教室など以外の場所で、受信側に当該の教員免許を持つ教員がいなくても授業を履修したと認める制度。

令和元年8月から中学校などで、一定の基準を満たしていると文部科学大臣が認める場合、受信者側が中学校教員免許等の資格を持っていなくても遠隔授業を行うことができる「遠隔教育特例校制度」が始まりました。

その後、令和6年4月からは、文部科学大臣の指定がなくても都道府県等の自治体教育委員会の関与のもと、十分な体制が整えば遠隔授業を実施できるよう法改正されました。例えば、数学科の教員が授業を行い、それをオンラインなどで発信します。

特別非常勤講師など、数学科の免許を持っていない教員等の配置によって、生徒は受信する別の教室でも数学の授業を受けられるというしくみです。

遠隔教育の推進の経緯

平成30年に、文部科学省は「遠隔教育の推進に向けた施策方針」を出しました。そこには、少子化が進むなか、小規模の学校の増加を想定した場合の教育活動の充実、不登校児童生徒や病気療養児などの学習機会の保証の方策として、距離に関係なく情報の発信・受信のやりとりができる、ICTの強みを生かす遠隔教育の推進に向けたタスクフォースが示されています。

また、令和元年12月、文部科学省はGIGAスクール構想を提起し、学校のICT環境整備を本格的に取り組んでいく計画を示しました。その翌年には、新型コロナウイルス感染症の拡大があり、GIGAスクール構想を前倒しして、児童生徒1人1台端末の環境整備が急ピッチで進められました。休校の間に児童生徒の教育をどう保証するか、コロナ禍は、遠隔教育の必然についての学校現場の意識を高める契機となり、各校の実態に応じた試みも進みました。

令和3年1月の中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」においても、非常時に休校した場合でも学びを持続できるよう、ICTを用いて全ての家庭で積極的に遠隔教育を受けることができる環境整備を提案していることが取り上げられています。

また、同年2月の「感染症や災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対する学習指導について(通知)」がコロナ禍の学校に向けて発出されました。そこでは、上記の答申の内容にふれながら、非常時に児童生徒が登校できないとき、指導計画や児童生徒の学習状況の把握と評価などについて適切な配慮がなされている場合には、オンライン上での学習で当該科目の履修がなされたと認める旨のことが示されました。

コロナ禍を経て、遠隔教育が学校教育に位置づく流れが進み、令和6年3月29日に「義務教育段階における質の高い教育の実現に向けた遠隔教育の活用(新規)」が出されました。この通知では、ここまで示してきたことを整理したうえで、令和元年度の「遠隔教育特例校制度」に関わる国の通知を廃止し、都道府県等の自治体の関与で遠隔教育特例校の指定を可能とすることになりました。

遠隔教育特例校の現状と課題

これまで見てきたように、社会の変化に伴う多様な学びの保証という観点から、遠隔教育の必要性が今後も高くなることがわかります。

例えば、令和6年3月の遠隔教育特例校に関する法改正と同時に、「今後の夜間中学校の設置・充実に向けた取組の一層の推進について(依頼)」のなかでも、夜間中学校の受講者が自宅や公民館でICTを活用したオンライン授業を受けることができるようにする学びの保証について触れています。特例校の指定であるかにかかわらず、遠隔教育がこれからの学校教育の在り方を検討する際の重要なファクターとなることを示しているといえます。

この遠隔教育特例校制度の大きな転換期ともいえる、令和6年度以前のデータ(「令和4年度遠隔教育特例校一覧」)を見てみます。令和4年度に文部科学省の認可で指定された学校は全国で12校でした。そのうち8校が、それぞれ社会科、音楽科、技術・家庭科、外国語科でこの制度を活用しました。全国の学校を対象にして、その趣旨から必要性も高いと考えられる制度であるにもかかわらず、指定校数が少ないのが現状です。

さらに、活用地域は限定的で、遠隔教育の重要性が教育のさまざまな場面で強調されているにもかかわらず広まっていない状況が今後の取り組み課題の多さを示しています。令和6年度の法改正以降の指定校の増加という明らかな数字に表れていくことを願いたいものです。

また、その際、質の高い教育をすることが重要であり、急速に進化するICTを有効に活動できる教師のスキルアップと、その環境整備が喫緊の課題となっています。それから、教育活動は教師と児童生徒、児童生徒同士が相手の表情や身振りを受け止める直接的な関係性のなかで行われてこそ、学校教育の意味があるという考え方も強くあります。

感染症や災害による休校にかかわる場合はともかく、通常時の学校教育における「多様な学びの保証をどう構築していくか」「教育のDX化、学校のDX化をどう進めるべきか」を、「教育の不易と流行」「予測困難な社会のなかの学校教育」という視点からの柔軟でクリエティブな発想と検討が今後の大きな課題の一つです。

▼参考資料
文部科学省(PDF)「文部科学省令第四十七号
文部科学省(ウェブサイト)「遠隔教育特例制度(令和6年4月1日~)
文部科学省(PDF)「遠隔教育の推進に向けた施策方針」平成30年9月14日
文部科学省(ウェブサイト)「感染症や災害の発生等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒の学習指導について(通知)」令和3年2月19日
文部科学省(PDF)「義務教育段階における質の高い教育の実現に向けた遠隔教育の活用について(新規)」令和6年3月29日
文部科学省(PDF)「今後の夜間中学の設置・充実に向けた取組の一層の推進について(依頼)」令和6年3月29日
文部科学省(PDF)「令和4年度遠隔教育特例校一覧

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