樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯8 東京都葛飾区立清和小学校「『鳥獣戯画』を読む」の授業

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樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」!~
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カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第8回。今回のカバTは、東京都葛飾区を訪れました。

カバTこと樺山敏郎先生

執筆/樺⼭敏郎  KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)

【第8回】東京都葛飾区立清和小学校
「『鳥獣戯画』を読む」(光村図書第6学年) 

授業者:佐藤麻野 指導教諭(全8時間中の第7時)
訪問日:令和6(2024)年10月7日(月) 

訪問の概要
本連載第6回でも登場した葛飾区立清和小学校。同校は、令和4・5年度葛飾区教育研究指定を受け、研究主題「ICT機器を活用した協働的な学びの実現」の解明に取り組むなど、長年にわたる研究校として区内外からその取組に注目が集まっています。令和4・5年度の研究では、国語科のみならず他教科等においても“ラーニング・マウンテン”が活用されていました。そうしたご縁もあり、小生は本年度の年間講師として同校の研究推進に関わっています。国語科に特化した研究推進は、引き続き新たな指定校としてのミッションも託されており、同校の士気は高まっています。
同校の研究主題は、「目的に応じて読みを深め、自分の考えを表現できる児童の育成~説明的文章の学習を通して~」です。
今回は、第6学年の校内授業研究会でした。授業者の佐藤先生は、葛飾区内にお二方しか任命されていない国語科の指導教諭です。本時は、単元(全8時間)の終盤第7時で、『鳥獣戯画』の教材に掲載されていない新たな絵を用いた学習指導が展開されました。
  
東京都葛飾区立清和小学校
 

Good Practice ~授業の花まるポイント(全8時間中の第7時) 

「『鳥獣戯画』を読む」の授業をする佐藤麻野先生
授業者の佐藤麻野先生

シーン1:“本教材”(習得)から“関連教材”(活用)へとつなぐ単元構想

単元名は、「読み手を引き付ける『表現の工夫』を読み、筆者になりきって『鳥獣戯画』の簡単な解説文を書いて伝えよう」でした。教科書教材に掲載された絵の解説(鑑賞)の仕方を習得し、それを同じ『鳥獣戯画』の中から選択した他の絵の解説(鑑賞)へとつなぐ単元構成となっています(写真1)。

ラーニング・マウンテンの第3ステージでは、課外において図工との関連を図り、名画の解説にも挑戦する段取りです(校内展覧会で発表)。

本単元では、文章と絵を結び付けて、筆者の「表現の工夫と効果」や「構成の工夫と効果」を読むことを重点としていました。そこで習得した、とりわけ「表現の工夫」を生かして、新たな絵を解説するという全体の流れが子どもたちの学習意欲を喚起し、その持続化が図られていました。

写真1 単元全体のまとまりの中で本時の位置づけが明確になるラーニング・マウンテン
写真1 単元全体のまとまりの中で本時の位置づけが明確になるラーニング・マウンテン

ラーニング・マウンテンの大きな特長は、こうした単元の一連の流れを可視化し、見える化することです。マウンテンの頂上には、教師が身に付けてほしい(教えるべき)内容が明記され、それを子どもと共有することができていました。こうした学びの文脈を子どもと共に創っていくことが、伴走する教師の指導力として今後一層求められていくと考えています。

シーン2:教科書教材『鳥獣戯画』の構成や表現の工夫の分析

子どもたちが、第3ステージにおいてそれまでに習得してきた能力を駆使して、『鳥獣戯画』の新しい絵を解説(鑑賞)するためには、どのような単元を展開するとよいでしょうか。
『鳥獣戯画』を熟知している筆者のように上手に解説(鑑賞)できるのでしょうか。そのレベルはどのように求めたらよいでしょうか。

佐藤先生は、ラーニング・マウンテンの頂上に立つ子どもたちに書いてほしい解説(鑑賞)のレベルを相当に研究していました。それを”簡単な解説文“という言葉にして子どもたちと確認していました。
その”簡単“の内実が問われることになるわけですが、それを検討する際、中核に置くべきは、やはり取り上げる指導事項です。

説明的な文章として教科書に掲載された『鳥獣戯画』の解説(鑑賞)の内実を捉えていくためには、文章と絵を結び付けながら読んでいくことが必要です。そこでは、文章の構成と表現の工夫、その効果を捉えていくことが重要になります。このような点をベースに置くことで、第3ステージへと点と点が結ばれていくことになります。

佐藤先生は、『鳥獣戯画』の文章全体の構成を、①絵を見てのストーリー・背景、②絵の描き方・事実、③絵に対する説明・感想・評価の三つに分けて捉えさせていました(写真2)。この三つに分けるために、丁寧で確かな教材分析が展開されていました(写真3)。

写真2 教科書教材『鳥獣戯画』の解説(鑑賞)の構成を三つに整理した模造紙
写真2 教科書教材『鳥獣戯画』の解説(鑑賞)の構成を三つに整理した模造紙
写真3 文章全体の構成の工夫を分析した板書
写真3 文章全体の構成の工夫を分析した板書

シーン3:『鳥獣戯画』の新たな絵での解説(鑑賞)に挑戦

先に述べたとおり、佐藤先生は解説(鑑賞)の構成を三つに分け、それに基づいて子どもたちが新たな絵で解説(鑑賞)するという単元構成にしていました。これに即して、子どもたちは実によく書き込んでいました(写真4)。

子どもたちが書いた解説(鑑賞)の構成を三色にして視覚的に分かりやすく示し、それをオクリンクというツールを使って交流していました。表現の工夫については、①会話、②省略、③比喩、④強調、⑤体言止めなどを用いるように指導していました。これまでの学習の成果を感じることができました。

写真4 新たな絵の解説を三部構成で書き、オクリンクで交流
写真4 新たな絵の解説を三部構成で書き、オクリンクで交流

Advice 〜エールを込めてアドバイス

本教材「『鳥獣戯画』を読む」は、第6学年に配当されるだけあって、なかなか読みごたえのある内容です。結局のところ、この教材を通して、どのような国語の力を付けるのか、それが最も重要な視点になります。こうした点を踏まえ、佐藤先生に対して、①読者は筆者へどこまで迫れるか、②問いかけをしながら鑑賞から解説へとつなぐ、この2点について助言しました(写真5)。

写真5 稿者が指導助言した板書

① 読者は筆者へどこまで迫れるか

国語科は、言語で表出された内容(言語内容)と形式(言語形式)を捉えることが重要です。その意味において、読者には、筆者がある意図をもって書いた文章の言語内容と言語形式を捉えることが学習の中心にあることを自覚させていきたいものです

言語内容とは、簡単に言えば、“何が書かれているか”です。言語形式とは、それらを“どのように工夫して書いているか”です。国語科では言語内容と言語形式を一体的に捉えていくことを重視することにより、“教材を教える”ことから“教材で教える”ことへの意識が高まると考えます。題材主義や内容主義に傾斜しないということです。

本単元では、読者である子どもたちが筆者へ迫るためには、読者も筆者のような観察眼をもって絵を読み解いていくことが重要となります。本教材の筆者は、全体を通して“話し言葉”という形式をとっています。そうであるならば、筆者(話者)が絵をどのように見ているか、どこに注目しているか、それをどのように見えると伝えているか、あるいはどういう様子なのだと言っているかなどを、同じような見方で体験していくことが大切です。絵の見方とその解説(鑑賞)の仕方が問われることになります。

本教材の筆者は、まずは絵の中心で何が行われているかを端的に伝えた上で、その中心の細部や周辺の様子を細部にわたって描写しています。大まかには、全体から部分へと観察の眼を動かしています。
そして、それらがどのように絵柄として描かれているか(描かれ方)を丁寧に解説(鑑賞)しています。

そうした筆者の観察眼を追体験していくことが、読者から筆者への転換を図ることにつながっていくのです。筆者は、絵の描写が実に巧みです。説明ではなく描写です。その描写が、表現技法になるのです。教科書を離れ、新たな絵を解説(鑑賞)するとき、読者から筆者への転換はこうした流れを丁寧にたどっていくことが重要です。

② 問いかけをしながら鑑賞から解説へとつなぐ

本教材は、鑑賞文なのか、解説文なのかは議論が分かれるところです。
鑑賞の定義を、作品の特長(特徴でなく、よさ)や価値を伝えることとする場合と、それは一人の鑑賞者として独自性の強い主観的なものと認識する場合とでは、その用語の捉えが異なってくるのです。

解説の定義は、事柄の表面的な事実のみならずその背景や意味などを一段高い位置から相手がよく分かるように伝えていくことであるとすると、本教材は解説文に近いのかもしれません。

本教材の筆者は、絵に対する解釈と評価を加えていますし、効果的に読者に呼びかけや問いかけをし、絵の世界へ誘っています。つまり、筆者は絵について一定の知識をもっていることには間違いないのです。

佐藤先生は、“簡単な解説文”としていましたので、そうした意味合いを理解していましたが、一歩足りなかったのは、『鳥獣戯画』に対する知識をなんらかのかたちで獲得することが不十分だったことです。解説するためには、一定の知見が必要です。主観だけでは、解説にはなり得ていないのです。一定の知見に基づいていないのであれば、“鑑賞文”と呼んだほうが賢明ではないかを思いました。

『鳥獣戯画』の絵の世界を読み解いていくための情報検索の時間が用意されることを期待したところです。

〜旅のこぼれ話〜
冒頭で紹介したとおり、同校は昨年度までICT活用を全教科等で積極的に推進してきました。佐藤先生もICTを積極的に活用していました。下記は、生成AIが作成した「鳥獣戯画」の解説文です。この解説文と教材文との比べ読みを行ったところ、子どもたちは大いに盛り上がったとのことです。
ぜひ、こうした取り組みも積極的に展開していきたいものだと思いました。

【生成AIが作成した解説文】
相撲を取っている兎と蛙
『鳥獣人物戯画』は、平安時代後期の絵巻物で、動物たちが人間の振る舞いを模した姿を描いた作品です。その中の一枚に、相撲を取る兎と蛙が描かれています。
兎と蛙は、まるで力士のように力一杯の姿勢で相撲を取っています。兎は両手を大きく広げ、体を低くして力強く相手に挑んでいます。一方の蛙は、後ろ足を大きく開き、上半身を前に乗り出すようにして、兎に立ち向かっているのが印象的です。
この絵の中には、人間の社会を微笑ましく伝えるユーモアが感じられます。力強く相撲を取る動物たちの姿は、まるで本物の相撲取りのようです。兎と蛙が、人間の世界を真剣に演じ分かりやすく表現しているのが特徴的です。
当時の人々にとって、動物たちの人間らしい姿は新鮮で面白い光景だったに違いありません。そうした人々の目を楽しませるべく、作者は動物たちの愛らしい姿を丁寧に描き上げたのだと思われます。
この一枚の絵から、平安時代の人々の生活様式や感性を垣間見ることができるのです。動物たちが織り成す人間模倣の世界は、私たちにも親しみやすい魅力的な作品と言えるでしょう。

「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“山登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。
「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。そして、マウンテンの頂上に⽴つ⼦どもたちの学びは、教師が教えたいことを越えていく可能性を秘めているのです。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して、最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。

 ※この連載は、月に数回更新予定です。どうぞお楽しみに!

イラスト/大橋明子

樺山敏郎教授の顔写真

かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。

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