「書くこと」ができていれば「読むこと」もできている 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #8】

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全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり 第8回
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前回は、2023年度の全日本中学校国語教育研究協議会の香川県大会で授業公開を行い、同県の国語教育研究会もその授業力を高く評価する、三豊市立高瀬中学校の白川健太教諭に、「走れメロス」の単元構成について紹介をしてもらいました。今回は、その単元構成の意図について聞いていきます。

白川健太教諭
香川県三豊市立高瀬中学校・白川健太教諭

「文章量の多い作品を読むのが嫌い」だから国語が嫌い

白川教諭は、前回のような単元構成を工夫する意図について、次のように説明します。

「前回、単元を紹介した『走れメロス』は、国語の教科書の中に載っている文学的な文章の中では、ドラマチックで比較的読みやすい文学作品だと思います。その理想を描いた演劇のようでおもしろい文章ですら、最初の通読の時間から諦めてしまう生徒たちがいるのです。

実際に私が担当する生徒たちにアンケートを取ったところ、『国語の授業が嫌い』と答えた生徒の約8割が『文章量の多い作品を読むのが嫌いだから』と答えています。そこには高度情報化が進み、情報媒体が多様化しているこの社会において、文章を読み味わう時間をもつことが困難になってきているという現実があるでしょう。実際に『1ページ以上、文章が読めない』という子供も少なくないのです。そういう子供たちが、いかに文章を読みたくなるようにするか、という仕掛けを私はいつも考えています。

先に紹介をした実践は、自分の中で出たその答えの1つで、原作を読み切ることがむずかしい生徒もいることを考え、まずまんがから入ったのです。ただ、原作を読ませずにまんがから入ることに抵抗感のある先生は少なくないだろうし、国語の教員ならなおさらだろうと思います。実際に原作至上主義のような考え方はあり、この提案授業に対しても『まず原作を読まずして、どうして改変作品を読むのか』という意見もあったのです。

しかし、今の生徒たちはいきなり原作の文学作品から入っていく子は非常に少なく、まず興味をもたせることからスタートしないと、授業についてこられる生徒のほうが少数派になってしまうでしょう。もちろん、興味・関心を惹くことばかりを重視しすぎてもだめですが、言葉に向かわせる前段階のハードルを下げることを考えないと、なかなか全員が参加できる授業にはならないと感じています。

ですから、私はよくまんがやアニメのようなサブカルチャーを取り入れたり、歌詞を教材として使った授業をしたりもしています(次回、紹介)。そこで考えているのは今の子供たちのニーズに合致するところと、教えるべき内容や育むべき力の折衷案というところなのです」

授業風景1
教材文への入り口でサブカルチャーなどを取り入れることによって、ハードルを下げる。

「書く力」を育むとともに、そこから自己修正力を育む

このように、単元構成を工夫することで目指すべき力の育成を図っているという白川教諭。教材を活用して習得した力を活用して身近な教材を読むことは、より直近の高校入試にもつながる力となるのでしょうか?

「国語の力を付けるときには、高校入試という問題もあるわけです。現時点で、それに対する明確な答えがあるわけではないのですが、子供たちに学校で付けるべき力には、『話すこと』『聞くこと』『書くこと』『読むこと』があります。その中でも、今の子供たちにとって最もハードルが高くかつ重要なのは、『書くこと』だと思います。読んで書けないと、身近な高校入試もクリアすることはできません。

もちろん、『話すこと』『聞くこと』を軽視するつもりはありませんが、特に国語では、ちゃんと『読むこと』ができた上で、『書くこと』ができないと、身近な高校入試だけでなく、将来仕事をしていく上でも困ることになるでしょう。難易度が高いのは『書くこと』なのですが、『書くこと(output)』ができていれば『読むこと(input)』もできていると考えられます。ですから、いかに『書く力』を子供たちに付けさせるか、3年間の計画の中で最も重視をして取り組んでいるところです。

授業風景2
授業の中で、自分の考えを「書く」子供たち。

そのため、最近ではパフォーマンス課題のようなこともよく行っています。私は単元の最後に、単元を通した問いに対する答えや意見文とふり返りをセットで、50分かけて書くような取組を行っています。それは生徒たちにとっては、苦しい、しんどいことなのですが、書くトレーニングになっていると思いますし、実際に時間の中で書き切れたら達成感も感じるようで、『達成感が好きだ』という子も結構いるのです。

加えて、ノート指導に力を入れており、ワークシート類は思考の補助材料を用意するような場合を除き、ほぼ使わないようにしています。私の授業では、ノートを書いたもので評価するようにすることで、少しでも書く力を育もうと考えているのです。ちなみに現在、担任している子供たちはその指導を3年間受けてきているので、ほぼ9割以上の子供が、単元の問いに対する答えをノート1枚以上書けています。

そのようにして、高校入試にも対応できるような『書く力』を育んでいるわけですが、『高校入試や大学入試の記述問題=学力なのか?』という疑問もあるでしょう。学習指導要領の力を適切に身に付けていても、高校入試の1つの問題ができない場合だってあります。しかし、まず『書くこと』ができていれば、どこが間違っていたのかを確認することができます。問題なのは何も書かない子供で、文字で表出されないと、問題が理解できていないのか、読みが間違っているのか、考え方に問題があったのかも分かりません。しかし、何かを書いていれば(本人自身にとっても教師にとっても)修正の可能性が生じるので、書かせるようにしているのです。

それでも入試のようなテストと授業が最も離れているのが、国語という教科ではないかとも思うのです。現実に、入試に確実に答えられるようにしたければ、過去の問題を解いたり、学習塾のように問題の解き方を教えたりすれば、よいのかもしれません。しかし、そのような受験対策で、本当に将来にわたって生きていく国語の力が付くのかと言えば、疑問もあります。だからこそ、まず『書く力』を育むとともに、そこから自己調整や自己修正をしていく力を育むようにしていきたい、と考えているのです」

今回は、白川教諭の授業づくりの考え方を紹介していきました。次回は、その白川教諭の考え方を象徴する他の単元構成などについて紹介していきます。

【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は10月25日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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