学習指導要領【わかる!教育ニュース #55】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第55回のテーマは「学習指導要領」です。
目次
次期学習指導要領に関する議論の柱の1つは「授業時数を増やさない」
どの学校でも一定水準の教育ができるよう、教えるべき最低限の内容を示した学習指導要領は、社会の変化を踏まえ、おおむね10年に1度改められます。前回の改訂から7年。次の指導要領がどうなるか、関心が高まっています。
これからの教育課程や学習指導などのあり方を議論してきた文部科学省の有識者会議がこのほど、次期指導要領に関する議論のベースになる論点をまとめました(参照データ)。様々な角度で論じていますが、柱の1つは、今以上に授業時数を増やさないよう提案したこと。学ぶ内容や授業時数を増やしてきた近年の改訂の見直しです。
まず現状を踏まえて、今後の学校教育に求められることを説きました。不登校、特別支援教育の対象、外国籍など、子供の多様性が顕著になったと指摘し、多様化した子供たちを包み込み、個々の強みを伸ばし、資質や能力を育むことが重要だとしています。
資質や能力を育む視点として「主体的・対話的で深い学び」を掲げた現行の指導要領については、「知識の質」という考え方を提起した、と一定の評価をしています。ただ、指導要領に曖昧な言葉があって分かりにくい面があること、教員の多忙化やなり手不足などの問題点があると指摘。現場の負担感が大きいという懸念に向き合い、過度な負担感を生じさせない仕組みを検討するよう促した上で、「総授業時数は、現在以上に増やすことがないよう検討するべきだ」と訴えました。
教員の裁量を広げ、工夫が生きる授業ができるようにしたい
指導要領は教育の方針や目標、学ぶ内容を示した「本文」と、各教科等で養う力やどの学年で何を教えるかなどを定めた「解説」があります。社会状況に応じて、子供たちにどんな力を身に付けさせたいかが描かれていて、教科書や学校の指導計画も、指導要領に沿って作られます。
戦後初めて出た指導要領は、1947年の「試案」で、教員の手引きの位置付けでした。ところが、基礎学力の充実をうたった1958~60年改訂で「手引き」は「基準」に変質。以後、学ぶ内容は過密化し、小学校の授業は1085コマになりました。
ところが、「詰め込み教育」批判が高まり、1977~78年改訂でゆとり路線に転換。「総仕上げ」とされた1998~99年の改訂で、授業は945コマに減りました。すると今度は学力低下論争が起き、脱ゆとりに。2008~09年改訂で授業は980コマに増え、「主体的・対話的で深い学び」を掲げる今、1015コマになりました。
今回の論点整理はそんな「増やす改訂」からの見直しを唱えていますが、単に学ぶことや授業時数の多寡を論じるものではないように思います。子供たちが、学んだ知識を現実と結び付けて考え、時にその知識を疑いながらも、自分なりの答えを見付ける。これからの学びは、そんな深さや質が問われます。そのためにも、教員の裁量を広げ、工夫が生きる授業ができるようにしたいものです。
【わかる! 教育ニュース】次回は、10月30日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子