教科書教材を使って習得し、身近な教材で活用する 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #7】

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全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり 第7回
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2023年度の全日本中学校国語教育研究協議会の全国大会は、香川県で開催されました。そこで今回からは、香川県大会で授業公開を行い、同県の国語教育研究会もその授業力を高く評価する、三豊市立高瀬中学校の白川健太教諭に、単元・授業づくりや、その考え方について聞いていきます。

白川健太教諭
香川県三豊市立高瀬中学校・白川健太教諭

「走れメロス」の単元でまんが版と原作とを比較しながら読む

まず初回となる今回は、白川教諭が全国大会で公開した「走れメロス」の単元構成について紹介をしてもらいます。

「全国大会での提案発表にあたり、私たちの支部が最も意識したのは習得と活用に視点を当てた単元構想です。なおかつ大事にしたのは活用の部分で、教科書教材で習得した力を日常の教材(子供たちに身近な教材)で活用することでした。

そこで日常の教材で何がよいかと考えたのですが、今は子供たちが貪るように本を読む時代ではありません。ですから、まんがやアニメといったものから切り込むほうが子供も授業に乗ってくるだろうし、学んだことが社会生活にも生かされるだろうと考え、単元を構想しました(資料参照)。

【資料】「走れメロス」の評価規準と単元計画

評価規準と単元計画
当初の単元計画では、原作を読むことから入る予定だったが、実際にはまんがを読むことから入っている。

この『走れメロス』の単元では、高芝昌子さんのまんが版『走れメロス』と、原作を比較しながら読んでいく構成にしています。ちなみに『走れメロス』をまんが化した作品は10作品以上あるのですが、その多くは原作と比較しても大きな差異は見られません。私が選んだ高芝版『走れメロス』は、原作の流れを大きく変えてはいませんが、作者の解釈に基づいた追加描写が多数入れ込んであり、登場人物が美化されています。そのため、原作を読んで比較したときに、生徒たちが違和感を感じるだろうと考えたのです。

例えば、メロスは原作とは異なる理想的な正義漢として描かれており、いじめられている少女を助ける場面からスタートしています。冒頭の『メロスは激怒した』という文章(に関わる描写)もなく、メロスは、セリヌンティウスを助けた過去があるとされています。さらにセリヌンティウスも自ら王に処刑を申し出ており、途中のメロスに関する描写を読みながら、『本当に身代わりとして人質になる価値のある人物なのか?』というような疑問も生まれません。高芝版は、友情や努力や勝利といったものが強調されており、いかにもスッキリとまんがに落とし込んだ作品という感じなのです。

だからこそ、単元の最初にまんがを読んでから原作を読んだときに、生徒たちは『あれあれっ?』『こんなところ、あったっけ?』『こんな人物だったっけ?』と違和感を感じるし、『こいつ(メロス)は本当に良いヤツなんだろうか?』という意見も出てきます。そのように、高芝版には高芝さんの解釈の上での人物設定があるからこそ、この作品を選んだわけです。この高芝版を読んでから、『じゃあ原作ではどうなんだろう?』と、原作と比較しながら読んでいくことで、単元の目標である主題や人物設定に関わる内容について学習することができると考えました。

実際に、この導入以降は、原作と高芝版を読み比べながら、異なる部分を見付け、その違いを登場人物ごとに整理した上で、人物設定について考察をしていきます。そこから、全国大会で公開した授業では、原作と高芝版の『二人のメロスは同一人物であるか』という問いについて考えていきました」

先にまんがを読むことで、原作を読むときの集中力が違う

公開授業風景
「走れメロス」の授業公開を行う白川教諭。

ちなみに、習得と活用を大事にしているとのことでしたが、これまで取り組んできた多くの単元では、まず教科書教材を使って習得し、それを身近な教材で活用するという単元構成が大半だと白川教諭。しかし、この単元では通常は活用の対象となるまんが版の「走れメロス」を読むことから入っていったと話します。

「例えば、後で紹介をする1年生の、『飛べかもめ』『さんきち』とアニメーション『透明人間』を比較しながら読んでいった単元でも、教材文の2作品を読んで習得した力を、『透明人間』で活用するような単元構成にしてあります。

それが、この『走れメロス』の単元では、まずまんがを読むことから始めており、もちろん原作を読むことは重要ですので、そこから原文を読んでいきました。それは多くの子供たちが長い文章を読むことに抵抗感をもっているからです(次回、その意図について説明)。

実際にこの単元では、先にまんがを読むことで、明らかに原作を読むときの生徒たちの集中力が違いました。まんがを読んでいるときに、すでに集中力が落ちている子もいたのですが、まんがと原作の内容が明らかに違うところがあり、それによって『あれっ? 違う』と言いながら、まんがや原文に線を引きながら読み比べている子供もいました。そのおかげで、何とか集中力を保ちながら読めていたようですし、内容の理解に関しても、既存の学習スタイルよりも定着をしていたと思います。

このように子供の実態に沿って、適宜、構成を考えながら習得した力を活用できるような単元構成に取り組んできているのです」

今回は、全国大会で授業公開を行った「走れメロス」の単元構成について紹介をしてもらいました。次回は、白川教諭がこのような単元・授業づくりに取り組んできている意図について、紹介をしていきます。

【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は10月18日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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