GIGAスクール時代にこそ見直したい書字指導の重要性と指導アイデア

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いわゆるGIGA端末が導入されたことで、学校では以前より手書きによる学習活動が減っているのではないでしょうか。携帯端末を持つことが常識になった現代では「それも時代の流れ」と思わぬではありませんが、それでよいのでしょうか。今回は、長年国語教育に携わってこられた秋田大学附属小学校京野真樹先生に、デジタル時代だからこその手書きによる書字の必要性と、整った字を書くための効果的な指導方法についてお話をいただきました。

今回の取材先

京野真樹先生(秋田大学附属小学校副校長)

手書きの重要性には2つの側面がある

学校もタブレットの時代になり、小学校低学年でもタイピング能力の必要性が言われるようになりました。もちろん重要なことです。ただ、それでも私は自分の手で鉛筆やペン、筆を使って文字を書くことは、非常に重要だと思っています。

一つには、形を認識する力が弱い子がいること。もう一つは、文字を書くときに必要な力(筋力・形の認識力など)は生きるために必要な力だということです。文字を手で書くことの指導は、さまざまな教育効果があると私は思っています。

形の認識ができるようにする

1年生を担任して痛感したのが、「子供たちは漢字が好き」ということです。知らない漢字でも読みたがりますし、知っている子は尊敬されます。

ただ、当然苦手な子もいました。その特徴は、形から特徴を理解する力が弱いということです。私はそのことを、図工の時間に気づきました。パターン模様から図形を発見する活動の際、三角形や四角形を見つけることができなかったのです。

そこで、形をなぞって色を塗る、交差する線を描かせてから図形を数える、といった活動をさせました。そうすると自然に、形の認識ができるようになり、漢字も認識できるようになったのです。

もちろん、こうした活動を行っても認識が難しい子はいるでしょう。しかし、このような指導を経れば、子供たちの様子がよりはっきり分かります。

手の筋肉を鍛える

子供の手の筋肉が弱いことは、ずいぶん前から指摘されていました。手の筋肉が弱いから、鉛筆をジャンケンの「ぐー」のように握ってしまいます。この持ち方では、指先の巧緻性を発揮できませんから、字形が整いにくくなります。

鉛筆を「ぐー」で握ってしまっている子

ふだん大人は意識しませんが、文字を書くには、特有の筋肉、手の動かし方があります。

私が書字指導を行っていたとき、払う動きが苦手な子がいました。文字の練習をしていても、なかなか上手になりません。あるとき、その子が給食の時、おたまですくって盛り付けるのに苦労している姿を見かけました。私は「ああ、てのひらを上に返す動きが苦手なのだな」と気づきました。

筋肉がない子に、ひらがなの訓練を強いるのは酷なことです。誤った持ち方も、その時その子が一番力を伝えやすい方法を選択した結果だからです。そこで、子どもが自ずと適切な持ち方を選択していけるように、様々な訓練方法を開発しました。

ぬりえで訓練

訓練として最初に取り組んだのは、ぬりえです。子どもが飽きないように、無意味な図形よりは、アンパンマンやドラえもんなど、円を中心にしたキャラクターなどが適しています。円の内側をなぞるには、筆記具を軽く握り、弧を描くようにして往復させます。この時の手首の返しが後々上方へはらう動きにつながるからです。

さらに、はみ出ないように塗るには、集中力と調整力が必要です。集中して取り組むことができれば、知らず知らずのうちに手首の返しが上達します。

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箒とおたまでトレーニング

箒がけでも筋力トレーニングができます。箒を使う時、手首を強く返すとゴミは遠くへ散らばります。優しく柔らかく手首を使って掃くと、ゴミをコントロールすることができます。

何も教えないと、子供たちは、ゴミの行き先はゴミに聞いてくれと言わんばかりな掃き方をします。だから、清掃指導でも練習が必要です。

私は、色紙を細かく裁断して床に散らし(子供にやらせると喜んでやります)、それを何分でどれくらいきれいに掃きとるか、競争するという遊びを定期的にやりました。何度か繰り返していると、箒の使い方が上手になるだけでなく、手首の使い方が上手になります

給食の配膳の際、おたまを上手に使う方法を教えるのも有効です。おたまで盛り付ける際、汁をこぼす子は、おたまをぎこちなく使い、椀の方へ持っていきます。だからこぼれます。

おたまに汁をすくったら、その下にお椀を持っていきます。あとは、お椀を持った手をくるりと返すだけです。

1年生でも、1か月もすれば、10分もかからずに30人分くらいは上手に盛り付けられるようになります。そして、いつの間にか手の筋肉がついています。この効果は給食の配膳だけでなく、多方面にわたります

呼吸に注意を向ける

文字を正しく書くには、筋力だけでなく呼吸も大事です。文字が乱れている子の息づかいを観察していると、息が乱れている場合が多くあります。

呼吸が大事というのは、スポーツなどでもよく言われることです。物事に集中するとき、人は自然と息を殺します。箒やおたまが上手に使えるようになってきたとき、「息を止めて集中していたね」などと呼吸に注意を向けさせると、呼吸と仕事の関わりについて意識的になります。

「しもんむ」を教える

手首が上手に使えるようになってきたら、文字の書き方を練習します。そのとき、ポイントとなるのは「しもんむ」の4文字です。これらの文字を書くときは、すべて下から上に動かす必要があります。これまで説明してきたトレーニングを経ていれば、字形を意識した書字指導が可能です。

字形を意識するときれいな文字を書くことができるということは、以前から言われてきたことですが、それも筋力があって初めてできることです。この前提を忘れてはいけません。

一人一台時代だからこそ手書き指導を

こうした字形を意識した指導は、パソコンが当たり前になった今こそ重要ではないでしょうか。手首を動かす筋肉を鍛え、指先の巧緻性を高めれば、国語の学力にとどまらず、子供の様々な力を上げると私は思います。

筆順の学習も、手の巧緻性の点で重要です。「これが正しい筆順」と強制してはいけませんが、筆順の原則を身につけることで整った文字を書くことができます。私の実感では、整った文字が書けるようになってくると、他の教科の成績も上がります。考え方も柔軟になります。

最初は誰でも筋肉は十分ではありません。正しく書けなくて当然です。徐々に練習していきましょう。タブレットを使う時でも、指ではなくペンを使うようにすると練習になります。無理なく訓練することをお勧めします。

取材・文/村岡明

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