子供たちに、できる喜びと考える楽しさを味わってほしい 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #6】
前回まで、福井県の数学の「授業名人」である、福井県公立中学校の片谷祐樹教諭に、自身の考え方を象徴する数学の単元や授業について聞いていきました。今回は、そのような単元・授業のバックボーンとなる、考え方(授業観や教育観)について聞きました。
目次
苦手な子でも「できる喜び」を感じられるような授業に
片谷教諭に、単元づくり・授業づくりをする上で、最も大事にしていることは何ですかと聞くと、まず次のように話してくれました。
「私が若手の頃から、授業づくりを考えるときに一貫して意識しているのは、子供たちにできる喜びと考える楽しさを味わってほしいということです。数学は他教科と比べて『できない』ことがはっきりする教科なので、『できない』から『楽しくない』『嫌い』『苦手』となってしまいます。ですから、得意な子だけではなく、苦手な子でも『できる喜び』を感じられるような授業展開にしたいと思っています。
ただし、苦手な子だけに焦点を合わせると、どうしてもスローステップな授業になってしまって、得意な子供たちがつまらなくなってしまいます。ですから、1つの題材・教材で、得意な子供も苦手な子供も考える楽しさが味わえるような授業づくりをしたいという思いが根底にあり、いつも模索しています。
実は私は小学校に7年間勤務していた経験があるので、どんなにていねいに授業をしても小学校段階でつまずく子供がいることも分かっています。しかし、分からないことだらけで学ぶのでは楽しいとは思えませんし、できる喜びも味わうことができません。ですから、授業の中で必ず前時の学習のふり返りから入るようにしていますし、子供たちのつまずきも踏まえて、前学年の学習や必要に応じて小学校の同系統の内容も含め、スパイラルでふり返りを入れていくようにも意図しています。
そうやってスパイラルに学ぶことで、算数ができなかったような子供でも、1年間一緒に学習していった後で、『数学、楽しかったです』と言ってくれる子供が少しでも増えてくれるといいなと思っています」
学ぶ意味や意義を感じられる単元構成に配慮
考える楽しさという点では、(前回紹介した単元のように)学ぶ意味や意義を感じられる単元構成に配慮していると片谷教諭。
「苦手な子供たちからよく聞くのが、『何のためにするのか分からない』ということです。
実は私自身も、中学校のときには問題に向き合って解ける喜びを感じ、数学が好きだったのですが、高校時代はあまり好きではありませんでした。進学校に進んだため、授業のペースも早く、余裕がない中でやることはこなすけれども、『何のためにこれをやっているのか分からない』と感じて楽しくなかったのです。しかし、大学に進むと、数学で学んだことが身の回りのことに使えることが分かり、『ああ、こんなふうに数学的に考えると、この世界が見えてくるんだ』と、再び楽しさを感じられるようになりました。
そのため、中学生から『何で数学やるんですか?』『世の中に出て使いませんよね?』『連立方程式って使うことあるんですか?』と聞かれると、自分もそうだったので、『やはり(学ぶ意味や意義を感じられるような)動機がないと主体的には取り組めないよな』と思うのです。
ですから、やってみたい題材や身近なテーマを使って、子供たちと数学をつなげてあげられると、子供たちが『やってみたい』とか『こんなふうに数学は使われているのか』と感じられて、数学が少しでも好きになれるのではないかと思います」
自分たちが描いた図形について考える過程で、学ぶべきことを学ぶことができるという、前回紹介した単元は、まさに子供と数学をつなぐ題材と言えるのではないでしょうか。
数学がつながる身の回りのことや考えを教える
最後に、高校へつながる力、将来へつながる力ということについて聞くと、片谷教諭は次のように話してくれました。
「私の中では、数学という系統だったもののつながりを子供たちに意識させたいということがまずあります。小学校の算数から中学校の数学へのつながりによって学び(やそこにある概念)が拡張されていることもあるし、そこで終わりではなく、高校や大学ではさらに広がった数学の世界があるということを伝えようとしてきています。そのような数学の世界としてのつながりが1つです。
それから社会の中での数学というのももう1つ大事なものだと思っています。数学は見えないけれども、その裏側に数学の世界が広がっているということです。加えて考える力の題材の一つとしての数学もあるでしょう。それもやはり見えないものですが、必ず将来につながる力になると思っています。
そのため授業の中で、教科書の中身はもちろんきちんと教えますが、それがつながる身の回りのことや考えを教えてあげるのです。そうすると、『ああそうなんだ』と子供たちの目が輝きます。
実際に最近、2年生の授業をやっているときに高校で学習する2進法の話をしたことがありました。文字式を使うときに、『2桁の整数を何で10a +bで表せるの』という話をしたときに、『10の位が10倍だから…』という10進法の話が出てくるわけですが、そこで『でもそれは当たり前ではないんだよ』と話し、『数学の世界は見えないところにもあって、みんなが楽しく遊んでいるネットゲームやパソコンの世界は…』と、2進法の話をしたのです。
さらに時計の話に触れて、みんなが当たり前だと思っていた10進法の世界だけでなく、60進法の話をしていくと、子供たちは『ああ、そういうふうな世界があるのか』というわけです。それまで当たり前だと思っていた世界だけでなく、違うことが当たり前の世界があるという話になっていったのです。
あるいは関数の学習のときには、子供たちは小学校で習った直線のグラフだとか、反比例の双曲線のグラフが当たり前だと思っているから、そのイメージしかないのです。ですから2次関数のグラフが『どうなると思う?』と問いかけると、なかなか直線や双曲線のイメージから離れられません。
そこで、丸いグラフや星型など多様なグラフが存在し、高校や先の学習では出てくるんだと話し、『小学校までは直線か双曲線が当たり前だったから、そういう想像しかしないけど、もっともっと違う世界があるから簡単に結論には至れないんだよ』と話すのです。子供たちはついつい知っている世界の中で結論を急いでしまうので、『それは今までの自分の常識の世界でしかない』と、雑談がてら話をしています」
そのようにして、学んでいることの裏側にある世界を伝えながら、将来に向け、子供たちの概念拡張のイメージづくりをすることが、子供たちの将来につながっていくのだと片谷教諭は話してくれました。
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は10月11日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之