特別支援教育【わかる!教育ニュース #54】

連載
中澤記者の「わかる!教育ニュース」

先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第54回のテーマは「特別支援教育」です。

採用後10年以内に、特別支援教育に関する経験を2年以上していない教員が80.0%

少子化で学齢期の子供が減少傾向の中、特別支援学校に通う子や、通級で指導を受けている子は増えています。特別支援教育へのニーズが高まっているものの、実際にどのぐらいの教員が携わっているのでしょうか。
採用されてから10年以内に、特別支援教育に関する何らかの経験を2年以上していない小中高校の教員が、2023年度で80.8%に上ることが、文部科学省の調査で分かりました(参照データ1参照データ2)。「何らかの経験」とは、通級指導、特別支援学級の学級や教科の担任、特別支援学校での勤務、特別支援教育コーディネーターのことです。どれも経験がない教員を学校種ごとで見ると、小学校は85.5%、中学校が63.6%、高校で92.9%。少ない中でも経験者が最も多かったのは、中学校の特別支援学級の教科担任ですが、それでも29.2%です。その他は、どれも10%にも届いていません。
「すべての教師が、特別支援教育に関する理解を深め、専門性をもつことが重要」。文科省は2022年3月、各教育委員会などにそう訴え、新規採用者はおおむね10年以内に、特別支援教育を複数年経験するよう、人事での対応を促しました。けれど、今回の調査結果で、まだ浸透していないことが浮き彫りになりました。

「日本では機械的に『平等』にするケースも目立つ」

近年、特別支援教育を受けている子は増えています。文科省によると、義務教育段階では、12年度で約30万2000人と全体の2.9%。それが、22年度には約59万9000人(6.3%)とほぼ倍増です。
文科省の有識者会議が21年にまとめた報告では、すべての教員に特別支援教育に関する知識や、合理的配慮への理解が必要だと説きました。その後も養成段階を含め、教員の専門性を向上させる方策を検討。どの学級にも様々な障害や特性のある子供がいるという前提で、文科省が「採用10年以内に全教員が経験を」と打ち出したのも、そんな経緯を踏まえています。
一方で、国連の障害者権利委員会は22年9月、障害がある子供が分離されているとして、特別支援教育の中止を日本に勧告しました。でも、会見で見解を尋ねられた当時の永岡桂子文科相は、個々の教育的ニーズに応じた学びの場を設けていること、特別支援学校や特別支援学級に通う子が増えていることを挙げ、「特別支援教育の中止は考えていない」と語り、勧告の趣旨を踏まえ、通級指導を着実に進める考えを示しました。
それぞれの障害や特性に応じた教育にも利点はあるのでしょう。一方で、限られた教員が障害や特性のある子と接する状態がよいかは疑問です。以前、障害者福祉の専門家に取材をした際、「日本では障害や特性への理解が不十分なまま、機械的に『平等』にするケースも目立つ」と指摘していました。いろいろな障害や特性のある子供とじかに接し、本当の「平等」につなげる支援を考える機会は、どの教員にも必要だと思います。

【わかる! 教育ニュース】次回は、10月15日公開予定です。

執筆/東京新聞記者・中澤佳子

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
中澤記者の「わかる!教育ニュース」

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました