クラスのみんなが全集中! 体育科・授業マネジメントのポイント10 <後編>
クラス全体を素早く集中させたい、落ち着きのない子や発達に課題がある子にも集中してほしい、そんなときに役立つ授業マネジメントのポイントを、東京都公立小学校指導教諭の岩田純一先生に伺いました。前編では、先生も子供たちもお互いに気持ちがよく、クラス全員を集中へと導く効果的な指導のコツを5つ紹介しました。今回は、6から10の後編です。体育の授業はもちろん、普段の学級活動にもご活用ください。
監修/東京都公立小学校指導教諭・岩田純一、アップ研究会
目次
6 紹介で学びの価値拡散
広げたいことは意図的に紹介しよう!
運動を止めて例を見せても、無計画だと効果なし。
(もっと上手な動きにさせたいなぁ)
みんな先生の動きを見て、こういう感じにやってよ。
? やっているけど。
それ、やりたくないからいいや。
運動を止めるからには確実に学びに変えよう!
(今日はこの動きを引き出したい)
(Kさんが求めていた動きをしている)
Kさん、あとで紹介したいけどいい?
いいよ。
みんな見て! すごい友達を発見したよ!
Kさん、ちょっとやって見せて!
なるほど、そうやってやるのか、やってみようっと。
すぐに取り入れて運動している子がいるよ! 天才!
教師が見本を示すと、正解はその1つだけになる傾向があります。まず子供にしてもらい、ねらいに合った動きの子を紹介すると「この子みたいになりたい!」「ぼくにもできるかも!」と他の子も刺激を受け、ほめられた子の意欲もアップ! そのよさが何倍にもふくれあがります。よいモデルを映像として示すことで、発達に課題のある子にも伝わりやすくなります。紹介したい子には「あとで見せてね!」と事前に予約することも大事です。体育以外でも考え方や漢字練習の仕方など子供のキラッと光るものを発見したら、スポットライトを当てて紹介しましょう!
7 まずは楽しいことから!
楽しいことから始めてやる気スイッチON!
「まずポイントを伝えます」は誰も聞かない。
初めに動きのポイントを伝えるよ!
……。
楽しいことから始めよう!
(音楽再生)音楽をかけて、準備運動しちゃうよー。
わーい!
いきなりリレー、やっちゃおー!
えっ? もう?
はーい。試合しちゃいまーす。
よっしゃー!
どうやったら、うまくできるかな?
技能を身に付けることはさておき、まずは楽しいことからやってみましょう! やってみないと分かりませんし、楽しくなければ学びにもつながりません。特に発達に課題のある子は、興味・関心に偏りが見られることがあるので、楽しいことから始めて活動へ興味をもたせましょう。運動意欲が満たされると子供たちのやる気スイッチがONになるはず! 多少うまくいかなくても、そこからどうすれば成功するかなどの思考が始まります。子供自身が技能の必要性を感じるようになることで、やがて技能を身に付けようとします。
8 楽しさの波紋
気持ちが向いていない子を無理矢理振り向かそうとしない
焦らないで!
O君が全然遊びに入ってこない……。O君やっていることが違うよ!
先生、早く始めようよ!
待って、O君が違うことやっているから。
えー、早くしてよO君!
楽しさはやがて広がっていく。
よーし! みんな始めるよ!
やった!
楽しい!
ぼくはやらなーい。
よーし! もう1回やろうぜ!
(チラチラ見ている)
(心が向いた瞬間を見逃さず)O君やってみる?
O君、一緒にやろう!
う、うん、やる。
(一緒にやろうと誘ってくれたRさん、いい子だな)
楽しさが波紋のように広がっていくことで、最初はやりたがらなかった子にも興味が広がっていきます。焦らず、やりたくない子を深追いせず、それとなく様子を見ておきましょう。その子が興味をもつ様子を見せたら、タイミングを逃さず活動に誘いましょう。特に発達に課題のある子は授業の最初から興味・関心をもつことはむずかしいかもしれません。無理に活動に誘うのではなく、興味をもったときがチャンスと考え、心が向く瞬間を見逃さないように見守ることが大切です。
9 ほめるは呼吸
ほめられたら誰でもうれしい!
呼吸をするようにほめ続けよう
「指示」と「注意」は苦手を生み出す。
ボール蹴りをしよう!
やった! いくぞー!(ボールを蹴り始める)
R君、どこに蹴っているの? ゴールはあそこだよ! よくねらって!
S君、友達にパスしなよ! 近くに仲間がいたよ。よく見て!
「ほめる」は得意を生み出す。
ボール蹴りをしよう!
やった! いくぞー!(ボールを蹴り始める)
R君、思い切り蹴っていてかっこいいね! ねらっているんだね!
やった! ほめられた!(特にねらってなかったけど、いっか)
S君、いいところに走るね! いつでもパスがもらえそうだね!
(みんなうまくなったと思い込んでいる! それでいいのだ!)
「すごい!」「いいね!」などひと言のほめは、呼吸のペースくらいの頻度で伝えましょう! 発達に課題のある子は、普段の生活で注意されることが多く、ほめられる経験が少なくなってしまいがちなので、特に意識してほめることが大切です。「ほめる」は「指示」にもつながります。してほしいことがあまりできていなくても、まずはほめることで、クラス全体を望ましい姿へと方向付けることができます。
10 近くを攻める
直接伝えず、間接的な仕掛けで気付かせよう
攻めるところが違う。
T君、寝っ転がっていないで体育座りしてね。
(聞いていない)
正しくしてほしい子の一番近くにいる
正しくしている子をほめる!
(T君はきちんと座っていないな……隣のU君はいい座り方!)
U君の座り方すてき! 先生の目を見て聞いてくれてうれしい!
(やった! もっといい座り方しちゃうぞ!)
(あわてて座り方を直し、私もその座り方していますけどー)
(あわてて座り方を直す。私たちもですけどー)
あら! 気付いたらみんないい座り方になっているね!
改善したい姿の子に直接注意するのではなく、近くの正しくしている子をほめましょう! ほめられた子もうれしくなり、それを見た周りの子も自然と正しい姿になっていきます。低学年の子供たちには特に有効です。大切なのは、すぐに効果が出なくても指導の仕方を変えないこと。特に発達に課題のある子は変化に時間がかかる傾向にあります。クラス全体でも「2~3か月で効果が出てくればよい」という気持ちで、焦らず根気強く続けていきましょう。
取材・文・構成/太田久子、浅原孝子 イラスト/フジコ