クラスのみんなが全集中! 体育科・授業マネジメントのポイント10 <前編>
体育の授業中、素早く整列してほしいのに動いてくれない子がいる……。そんなお困りの場面はありませんか? 今回はそんなお悩みを解決する、落ち着きのない子や発達に課題のある子も集中でき、クラス全体を効果的に導く授業マネジメントのポイントを、東京都公立小学校指導教諭の岩田純一先生に伺いました。体育の授業はもちろん、学級活動にも応用可能! 先生も気持ちよく、子供たちも意欲的になれるいいことずくめのマネジメント術をぜひご活用ください。まずは1からの前編です。
監修/東京都公立小学校指導教諭・岩田純一、アップ研究会
目次
1 アテンションプリーズ!
合図や合言葉で子供が動き出す
先生、大きな声を出して疲れませんか?
いつまで話しているのですか? 早く並びなさい。
やる気がないなら出ていきなさい!
先生また怒ってる……。
合図や合言葉を決めておく!
決めたら変えずに定着させよう。
先生が手を輪の形にしたら集まって。
A君、集まるのが早いね!
ぼくだって次は負けないぞ。
先生が手を3回たたいたら、みんなは「聞―いて!」と言って座るよ(手をたたく)。
聞―いて!(座る)
やった! 先生にほめられた!
(声を出さずに伝わって、すごく楽!)
教師が注目してほしいときに、言葉で注意するのではなく、合図・合言葉を決めておきます。合図・合言葉は学期はじめなど事前に決めておきましょう。大事なのは合図を決めたら変えないこと。いつも同じルールで使用することで発達に課題のある子にも理解しやすくなり、クラス全体に定着させることができます。また、できている子をすかさずほめることも大切です。ほめられた子を見て、他の子の意欲もアップ! 落ち着きのない子も自然とその気になって、クラス全体をスムーズに動かすことができます。
2 がんばったらお得!
がんばっている子が得をする仕組みに
授業前、早く集合した子が待ちぼうけ……。
どうしてがんばっている子が損をするの?
先生早く始めようよ。
まだ全員集まっていないね。着替えるのが遅い子がいます。
いい姿勢で座って待っていてえらいね。
早く来た子がお得!
がんばった子が得をする活動をしよう。
早く着替えて校庭にいる人から遊んじゃおう!
いえーい! 鬼ごっこやろうぜ!
わーい! 待て待てー!
(だらだら着替えて校庭へ)えっ? もうやってる? ぼくもやるー! 入れてー!
みんなが集まったから、授業始めるよー。
できていない子に合わせたり、注意をしたりするのではなく、がんばっている子が得をするようにしましょう。がんばった子が喜ぶ姿を見て、他の子にも「次はがんばろう!」と思ってもらえたらしめたものです。発達に課題のある子に手をかけすぎるのではなく、時と場合によってはがんばっている子の楽しそうな姿を見せることで、少しずつ行動が変わるよう導くことも大切です。
3 説明は短く!
説明が長いほど子供のやる気は低下する
その説明、もはや誰も聞いていない……。
次の遊びの説明をするからよく聞いてね。
はーい(どんなことをやるのかな)。
5歩鬼。まず5歩しか歩けません。そして鬼がいて、それで次は……(長い)。
(家帰ったら、ゲームして遊ぼ~っと)B君、今日遊べる?
説明すらも遊びに変えよう!
動きながらの説明ですぐ始める!
今日は5歩鬼をやるよ!
5回手をたたくよ。せーの。
(5回手をたたく)
5回足踏みをするよ。せーの。
(5回足踏みをする)
今度は5歩進むよ。せーの。
(5歩進む)
絶対に友達にぶつからないように5歩進むよ。せーの。
(絶対に友達にぶつからないように5歩進む)
5歩で鬼ごっこするよ。先生にタッチされたら、一緒に鬼になるよ。せーの。
落ち着きのない子をじっとさせるのではなく、説明すらも動いて遊べる楽しい活動にしましょう。発達に課題のある子にとって多くの情報は処理が困難な場合があります。「1指示1動作」で分かりやすく伝えることが大切です。子供のやる気やわくわく感には鮮度があるので、「もうやるの?」と驚かれるほどすぐに始めて、わくわく感を満たしましょう。説明の全部が伝わらなくてもまずは体験が優先! 体験後に補足説明、また後半の体験というような構成がおすすめです。素早い授業展開で子供たちの集中力もアップ! 次第に先生のスピード感に合っていき、子供たちが自然とスピード感に乗って生活ができることにつながります。
4 後追いしない
言うのを忘れた……
「もう1回聞いて!」は最大の自滅
言い忘れたそのときはあきらめよう。
分かったかな? よし、じゃあやってみよう!
いえーーい! やるぞー!
あ、待って、言い忘れちゃった! 戻ってきてー。
えー。
ここがこうで、こうして、こうで、OK?
……。(すでに聞いていない)
指示はタイミングが大事!
準備はしっかり、後追いはやめよう。
(くぅ~言い忘れた……。今回はあきらめて、次に集めたときに伝えるようにしよう)
活動開始後の中断は子供たちの意欲を下げてしまいます。伝え忘れたことは活動している中で拡散していきましょう。特に発達に課題のある子は一旦集中が途切れてしまうと、落ち着くまでに時間がかかってしまい、元の活動に戻りにくくなってしまう場合があります。
一度の伝達で欲張らずに、伝えきれなかったことは次の機会に伝えるなど1つずつ学習を積み重ねる気持ちで進めます。授業の前に先を読んで話す内容を決めておき、言い漏らさないよう明確な授業イメージをもつことが大切です。
5 自己決定
自分で決められる楽しさ!
選択できる楽しさを子供に与えよう!
先生に言われてやらされている感がすごい。
今日はこのボールを使って、この線の上で2人でパスをします。
パス!
パス!
自分で決めること、選ぶことで意欲アップ!
好きなボールを使ってやってみよう!
柔らかいボールでやってみようっと。
小さいボールでやろうっと。
何だか捕りづらいぞ。
次は大きいボールでやってみようっと。
体全部で捕らないと捕れないわ!
もっと距離を伸ばしてやってみようぜ!
授業のねらいとして外せない部分は教師が決め、子供に任せられる部分は子供に選んで決めてもらいましょう。発達に課題のある子のなかにはこだわりが強いことがあり、教師がこうしてほしいということがむずかしい場合もあります。そういった子も自分で決められる部分があることで欲求が満たされ、落ち着いて活動できることにつながります。また自由な発想で活動することで子供たちの興味・関心が高まり、授業への集中力が高まります。体育以外でも、例えば文章をまとめるときに「ノート・画用紙・PowerPointから選ぶ」など、その子の能力やこだわりに合う物を子供自身が選んで決められるようにすることもよいでしょう。
取材・文・構成/太田久子、浅原孝子 イラスト/フジコ