ジグソー法を取り入れ、授業と評価のつながりがより直接的で明確な授業 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #3】
前回は、11月15日、16日に埼玉県で開催される全国英語教育研究団体連合会の全国大会で、中学校の実演授業を行う、さいたま市立原山中学校の黒﨑輝教諭に、自身の単元・授業づくりの考え方について聞きました。今回は、全国大会で公開する予定の授業にも関わる、前々回紹介した授業を含む単元構成や全国大会との関係などについて聞いていきます。(全英連埼玉大会の開催要項は以下URLでご確認下さい)http://www.zen-ei-ren.com/wp/file/da0be747c549b721f7231ce965883272.pdf
目次
「教材文作成時、生成AIなど自分が使えるツールは使ってみては』という提案
前々回紹介した授業の単元構成について改めて尋ねると、黒﨑教諭はその意図や具体的な取組とともに、11月の全国大会で公開する予定の授業とも関連させながら、次のように説明します。
「単元の構成については、市のフォーマットに沿ったもので、スティービー・ワンダーやキング牧師についての文章を読んで学んだ上で、そこで学んだことを基にしながら、新しくALTが来るから、その人に自分や世界に影響を与えた音楽について伝えるという形になっています(資料参照)。
【資料】単元計画
最初に紹介した授業(3/10)は、その教材文を基に生成AIを使って作成したものです。もし教材文を分割して読んだ後に、教材文全体を読むことにすると、『最初から教科書の文章でいいじゃん』と子供たちは思うでしょう。ですから、生成AIでリライトさせて同じような内容ながら違う文を作り、それを2年生の実態に合わせて私が単語や文章に手を入れて調整したものを読ませています。その学習過程で、教材文の内容に関するイメージをつかみ、苦手な子でもその後の教材文に取り組みやすくなるようにしているわけです。
ちなみに先にも説明した通り、これは初任者研修用の授業でもあったので、初任者に向けて、『自分で教材文全部を書いていくのがむずかしければ、生成AIなど自分が使えるツールは使ってみてはどうですか』という提案をする意味もあったのです」
少し余談にはなりますが、こうしたジグソー法を取り入れた学習に初めて取り組む子供たちのために、学習過程をイラストで説明している部分のイラストも、生成AIを使って作成したものだと黒﨑教諭は話します。その上で、全国大会で公開する授業について次のように説明します。
「この授業は、先のような意図もあって行った授業であるため、ジグソー法を取り入れた授業と、ゴール部分のパフォーマンステストが、直接強くつながっているかというと、そうではありません。ですから、今回の全国大会では同様にジグソー法を取り入れた授業を行うのですが、その単元では授業で学んだことを基にしながら、自分たちには何ができるだろうかということについてプレゼンテーションを行うパフォーマンステストを行うよう、授業と評価のつながりがより直接的で明確なものにしてあります」
「必然性をもって英語を使ってやり取りする授業が可能なのではないか」
さて、ではこのような単元や授業を公開することを通して、全国の英語の先生方に何を伝えたいと考えているのでしょうか。黒﨑教諭は次のように話します。
「これは私の偏見かもしれませんが、これまで全国大会で公開されてきた授業は、すばらしい先生がすばらしい生徒と共に、レベルの高いことをされているイメージがあったのです。そこで、本校のような本当にごく普通の公立学校で、英語の力も多種多様な子供が混在する空間の中でも、必然性をもって英語を使ってやり取りする授業が可能なのではないかということを提案したいのです。そこを見ていただければ、原山中学校だからできるというのではなく、『どの学校でも日頃から取り組んでいけば、必ずできるようになる』と思えるのではないかと思います。
もちろん、この学年(黒﨑教諭の担任学級・学年でもある)は、1年次から自分たちで考えて、行動する場面を多く設定していたので、こういう授業を行ったときに、どんどん自分たちでより良い行動を考えて学習を進めていく雰囲気があることも大きいと思います。加えて、学年の教員全体の雰囲気であったり、教員と子供の関係性であったりといった環境が、プラスに働いていることも大きいと思います。
学習形態の工夫として提案はしているのですが、その環境が整っていなければ、この授業の形式だけ真似てやっても上手に機能するかどうかは分かりません。言い換えるなら、より効果を高く出すには、そうした環境の整備も重要だろうと思うのです。ただし、意欲をもちにくい子供たちがいる学級で、学習規律だけを厳しく言っても、子供が主体的に学ぶことはできないでしょう。まず、このような学ぶ必然性のある方法を取ってみると意外に、子供たちの学ぶ姿勢が違ってくるのではないかとも思うのです。ぜひそこを見て、感じていただきたいと思います。
『以前はこうやっていたから、こういう方法でよい』という考え方は、子供たちが出ていく社会でも、その子供たちを育てる私たち教員にとっても通用しない時代になってきていると思います。だからこそ、ぜひこの授業を見てチャレンジしてみてほしいと思います」
「four skills から skill integration へ、そして competency の育成へ」
さらに遠藤敏恵校長は、全国大会では次のような点に注目してほしいと話します。
「ジグソー法を取り入れた授業は、授業までの準備の段階がとても大変なのです。ただ、当日の授業を見ただけでは、子供の姿しか分からないので、ぜひ翌日に行われる分科会での発表も見て、その背景まで理解していただければと思います」
最後に、「高校へつなぐ」というテーマに沿って遠藤校長に話を聞くと、次のように話してくれました。
「過去の高校英語では、リーディングはリーディング、スピーキングはスピーキングと分かれているイメージがあったかもしれません。しかし、今回の全国大会のサブタイトル『four skills から skill integration へ、そして competency の育成へ』は高校側から出てきたものです。
これまで中学校では、読み取ったことを基に書いたり、話したりする活動が意識して行われてきましたが、先日、高校の(全国大会に向けた)中間発表で提示された授業を見ると、そのような中学校の取組に近いものがありました。そのように今、求める力の育成において、高校の授業と中学校の取組にギャップがなくなってきているようですので、学習指導要領に沿って、今の取組に改善を重ねていけば、必ず高校や将来につながると考えています」
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は9月20日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之