インタビュー/水流卓哉さん|「子供の声を聞く」学級経営で、人と繋がって生きる価値を伝えたい【注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」vol.9】

連載
注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」

「子供と一緒に学級をつくっていく教師でありたい」という現在教職9年目の水流卓哉先生。学級の未来の理想像を子供たちと共有し、具現化する方法を模索していく“バックキャスト思考”と、場面に応じて適任者がリーダーとなる“シェアド・リーダーシップ”の導入で、子供たちの主体性が発揮される「自治的な集団」づくりを実践しています。その実証的な研究を進める水流先生に、実践の根底にある思いと、これから目指す学級経営、学校経営について語っていただきました。


愛知県豊橋市立富士見小学校教諭
水流 卓哉(つる・たくや)

1994年長野県生まれ。上越教育大学教職大学院 学校教育実践研究コース 学級経営・授業経営領域修了。子供たちの社会的自立能力育成に向けて自治的集団について実証的な研究を進め、校内研修や講座等では主に学級経営に関する講師を務める。小学館主催「第58回『実践! わたしの教育記録』(2022年度)」入選。赤坂真二氏との共著「シェアド・リーダーシップで学級経営改革」(明治図書出版、2024年)ほか、月刊「道徳教育」、月刊「授業力&学級経営力」(いずれも明治図書出版)など、執筆記事多数。

「理想のゴール」を共有して皆がリーダーシップを発揮する自治的な集団づくり

教室で子供と共にある姿が容易に想像できる、穏やかで優しい印象の水流先生が最も大切にしていることは、子供たちと一緒につくる「自治的な集団」を軸にした学級経営です。

「初任時代、『先生やるなら、ちゃんとやらなきゃな』というくらいの気持ちで、手始めに本を2冊だけ買ったんです。そのうちの1冊が、赤坂真二先生の本でした。その頃から、授業ももちろん大事だけれど、クラスがあったかい感じであれば授業もうまくいくんだろうな、と漠然と考えるようになりました」

学級経営に重きを置いて、あたたかいクラスを作りたい。赤坂先生の本の影響を受け、目指すクラスづくりには「学級活動」や「集団づくり」、「クラス会議」や「話合い活動」が重要だと思い至った水流先生は、試行錯誤しながら“バックキャスト思考”を取り入れた話合い活動を実践。

“バックキャスト思考”とは、過去の実績や現状を起点に実現可能なものを積み上げて未来の目標に近づけるのではなく(フォーキャスト思考)、「ありたい姿/あるべき姿」のようなゴールを描き、そこから逆向き設計で実現手段を考える思考法のことです。例えば以下のようなイメージです。

フォーキャスト(フォアキャスト)思考
現時点の課題感から、「何をするか?(手立て)」を考えていく
(例)掃除が静かにできていない。→静かに掃除ができる方法を考えよう。

バックキャスト思考
理想のゴールを明確にして、「そこから逆算して、どう実現するか?」を考えていく
(例)○年生として、どういう姿で掃除をしたい?→下級生の見本になる姿で、誰にとっても居心地のよい教室にしたい!(ゴールの設定)→そのための方法を考えよう。

バックキャスト思考のメリットは、参加者のブレが少なくなることです。ゴールを明確にしないままに進めると(フォーキャスト思考)、目的に対する共通認識がズレていき、やがて話し合いや行程にもブレが生じてきます。逆に、バックキャスト思考で初めにゴールを明確化すると、自分たちのありたい姿が共有されているため、合意形成を図りやすくなるのです。

「どんなゴールに設定するのかは、教師が子供たちに『どんな姿に育ってほしいか』という信念をベースにまとめていきます。『こういう人間に育ってほしい』『こんな学級経営をしていきたい』という教師の願いと、現代の社会的な文脈の中で求められている姿が合致していれば、とてもよいと思います。そして、その教師の信念に基づいた価値観をベースに、日々、地道に声をかけたり、適切な行動が見られたらフィードバックして価値づけたりしていきます。

世の中、キラキラ見える手立てはたくさんあります。でも、最も大事なのは、『子供たちを幸せにしたいという教師の信念』だと思うんです。そして、“価値”を日々伝え続けること。子供の実態を見て、よい行為を見付けたら、必ずフィードバックして価値づけていく。そんな『日々の声かけ』という地道な積み重ねが大切なのだと思います

とはいえ、水流先生も最初のうちはうまくいかず、試行錯誤しながら「これはいい」と思えるものを取り入れてきました。若いうちは、失敗ありきで捉えていくことも大切だと語ります。

「一番気をつけているのは、『子供の声を聞くこと』。先生って、”教えてあげないといけない感”とか、”責任感”とかがあると思うんです。でも、それによって独りよがりになってはいけないと思います。ですから、学級を子供と一緒に作っていくというスタンスでいることを、私はすごく大事にしています。具体的には、何か問題が起きたときも、教えてあげる』という意識ではなく、『みんなは、どうしたらよいと思う?』と問う姿勢です

何か気になることが起きたときは、クラス会議に限らず、“コンパクトに、マメに”話し合いの場を作るそう。朝の会や帰りの会などを利用して、子供同士で考えさせることによって、「よい学級は自分たちでつくっていくのだ」という当事者意識を芽生えさせていきます。

年度初めの4月頃は、先生が先頭に立ち、学級に定着するまで決まりごとや約束事を繰り返し伝え、夏休み前後から徐々に子供たちに委任していく。リーダーとしてのバトンを自分(先生)から子供たちへ渡し、教示的なリーダーシップから委任的リーダーシップに変換していくイメージです。

「そして、一緒に活動し、子供たちがうまくできたら必ず価値づけのフィードバックをして、子供と共に喜びます」

水流先生が赤坂真二先生と共著で出版した「シェアド・リーダーシップで学級経営改革」(写真下)には、最初は受け身の子供たちに、徐々に主体性を持たせていく学級経営のヒントが詰め込まれています。

「よくあるリーダーシップは、リーダーがひとりで、その他の人たちがフォロワーに回るという形ですよね。でも、シェアド・リーダーシップでは、誰でもリーダーになれて、誰でもフォロワーになれる。その時々に応じて、リーダーの座をシェアするイメージです。みんなのそれぞれのよさや強みを活かして、誰かがリーダーシップを発揮しているときは、それ以外の人はフォロワーに回ります

それには、自分自身や友達のよさ、強みを知ることが第一歩。算数が得意な子、社会科が得意な子、この場面ではこの子⋯⋯と、その時々でリーダーが変わっていく。それぞれが自分の強みを生かしながら学級集団づくりに参画していく、自治的な集団を目指していきます。

一方、トラブルを未然に防ぎたい、保護者の目が厳しいなどの理由から、主体性が発揮しづらい管理的な体質、体制の学校や学級も少なくありません。これでは、人の指示を仰がないと動けない子供を社会に送り出してしまうことにもなりかねませんが――。

「今の子たちは、”良い子”が多いんです。派手に暴れたりはしない反面、無気力・無関心だったり、先生に隠れていじめをするなどというケースが目立ちます。それはなぜか?

先生との信頼関係もありますが、私は子供たちの受け身な姿勢に起因すと思っています。つまり、学級は自分たちでつくっていくんだという当事者意識が育っていないのです。

当事者としての意識をみんながもっている状態。つまり『自治的な集団』と『シェアド・リーダーシップ』は似ていると思います。近年、学級経営が難しくなってきていると言われていますが、私は自治的な集団をこれからも目指したいと思っていますし、そのための知識を体系化して発信していきたいと思っています」

教師にとって最大の教師は子供たち

「自分のクラスがあったかくて、みんなが成長できたらいいな」と漠然と思っていた新任時の気持ちには、甘さがあったと水流先生は言います。しかし、「正直、うまくいかなかったらやめればいいや、くらいに思っていた」水流先生を、劇的に変える出来事が起こります。

「初任時代に、研究授業で大失敗したんです。自分なりに準備はしたつもりでした。それでも前日緊張していた私に、ある男の子が『先生、大丈夫だよ。きっと、うまくいくよ』と言ってくれたんです。 当日も、子供たちは私の思いに応えようと、とても頑張ってくれていました。ところが、結果は大失敗。自分としては全く思い通りではないものでした。

ですが授業後、全然うまくいかなかった、失敗した、と激しく落ち込んでいた私の元に、また同じ男の子がやって来て、『先生、うまく行ったね!』と言ってくれたのです。 

その一言を聞いたとき、私はこの子たちの期待を裏切れない、と意を決しました。まさに、人生の記憶に残るワンシーンでした

また、別の研究授業後のことですが、学級委員だった女の子が、授業が終わった後に私の元に来て『私、先生になるって決めたわ!』と言ってくれたんです。『私は、先生よりいい授業ができるようになるから!』とも言ってましたね(笑)。そんな素敵な子供たちと一緒に紡いできたドラマの中で育てられて、ここまで来ることができました」

水流先生と学級の子供たち
水流先生と学級の子供たち

子供と関わる中で、「子供に変えてもらった」と言う水流先生。

「自分に力がないからこそ、子供と一緒につくっていけたらいいな、と思っていたのが逆によかったのかもしれません。徹底的に子供が主役。自分は脇役に回りながら、子供と絆をつくっていくことを心がけています」

子供に「人と繋がって生きることの価値」を伝えたい

人との繋がりを感じにくくなってきている世の中だからこそ、人と繋がることのよさを伝えたいと水流先生は語ります。

「“人と繋がるよさ”、“人と繋がって生きることの価値”を伝えることは、常に意識しています。子供のそういう瞬間を見逃さないようにして、その瞬間に一緒に喜ぶこと。勇気を出した子を見付けて、『頑張ったね!』と、必ず価値づけること。昔は感覚的にやってきた部分もありましたが、今は、言語化して、理論化することが大事だと思っています」

昨今は、何かにつけて教師に質問しに来る子、挑戦することを避ける子が多くなっていると感じるそうです。それは、「自分がやったことを周りがどう見ているか?」が気になるからなのでは、と水流先生は分析します。子供たちの間では、どんどん不安傾向が強くなり、小さな失敗が許されない社会になってきているのかもしれません。それを変えられるのは先生です。でも、どうしても先生に心を開かない子供もいるのでは⋯⋯?

「どうしても先生が苦手な子もいますよね。そういうときは、無理にその子と繋がろうとするんじゃなくて、その子と仲の良い子と繋がるようにしています。友達が仲良くしてる人だから、コイツもいいところあるのかな?って思ってもらえますよ(笑)」

職員室でもシェアド・リーダーシップを実践したい

様々な場に対応する技をもっていても、「あの先生だからできるのでは」や、「たまたまうまくいったのでは」と言われるようではダメだと思った水流先生。教職7年目となった頃、自身のこれまでの実践を言語化し、より多くの先生に役立つ再現性のあるものにするため、上越教育大学教職大学院に進みました。2年間みっちりと赤坂真二教授の元で学び、現在は教育現場で「学級経営」を「学校経営」に応用していくことにも取り組んでいるそう。

「自分が学級でやってることをシェアして学年で足並みを揃えるだけでなく、次のステップとして学校全体で足並みを揃えることに取り組みたいと思っています。『こんな子供を育てたい』という目的意識を学校の教師、全体で共有していくことが大事だと思っています。まさにバックキャスト思考ですね

「なんでもできる“スーパーティーチャー”カリスマ性で引っ張っていくのではなく、“普通の先生”が大切なことをコツコツとやり続け、それが学校全体に広がることの方が持続性が高い」という水流先生の考え方は現実的で、今の時代にもフィットしているように思えます。

職員室で、先生たち同士でもシェアド・リーダーシップを実践していきたいですね。それぞれのよさを知り、得意なところを出し合って、苦手なことは任せていく。お互いに助け合いながら目的に向かっていければと思います」

そして、志ある先生方に向けて、水流先生は次のように語りかけます。

「学校を変えていきたいと思っているのは、あなただけではありません。ひとりで頑張らず、同じ価値観をもっている先生を味方にして、小さなチームから働きかけ、徐々に仲間を増やせば、きっと学校は変わっていきます。ぜひ、共に頑張りましょう」

学級づくりの責任が担任教師ひとりの肩にかかるのではなく、先生たちそれぞれが強みを活かし、スキルを共有し、学級経営や学校経営にシェアド・リーダーシップを実践していく時代かもしれません。

まずは、先生同士が繋がること。先生たちのその姿から、自然と子供たちも人と繋がるよさを学んでいくのではないでしょうか。子供だけでなく、先生にも優しい手を差し伸べてくれそうな水流先生でした。

取材・構成・写真/田口まさ美(Starflower inc.)

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第58回 2022年度 「実践! わたしの教育記録」入選作品 水流卓哉さん(愛知県豊橋市立二川小学校教諭) 

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