廊下にて……全員の作品を掲示する意味って何?【連載|管理職を楽しもう #10】

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元北海道公立中学校校長

森万喜子

前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生に管理職の楽しみ方を教えていただくこの連載。いま管理職の先生も、今後目指すかもしれない先生も、自分だったらどんなふうに「理想の学校」をつくるのか、想像しながら読んでみてくださいね。
第10回は、<廊下にて…>です。

執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子

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9月です

みなさんこんにちは。夏休みが終わり、子どもたちの笑顔や歓声が聞こえる日常が始まっていることでしょう。多くの方が言及されているように、夏休み明けの子どもたちの心身の健康が気がかりです。追い詰められていたり、絶望していたり、孤立していたりしていないか、事務的なお仕事や提出物を大人も抱えているこの時期ですが、なにより子どもたちの安心安全を第一に気にかけたい、そんな9月です。

良い学校の見分け方

20年近く前、「わが子の教育に関心の高い親御さん向け」雑誌がいくつか創刊されました。当時は自分の子どもも小学生だったこともあり、時々買って読んでいました。私は地方に住んでいるので、いわゆる「お受験」は選択肢にない。それらの雑誌は家庭で子どもの知的好奇心を伸ばすことの記事が多かったようでした。リビングのテーブルで勉強をするとか、家庭に地図や子ども向け百科事典や辞書をすぐ手に取れるように置いておこうとか、そんな内容です。ある時、その雑誌の中に「お子さんが入学予定の学校がこんなだったら要注意」というような記事があり、職業柄気になって読んでみました。そこには、学校に行って、まずごみが落ちていたり、壊れた場所がそのままだったり、落書きが消されていなかったりするような学校はNG、あと、廊下の掲示物も注意して見ましょう。期限切れの告知ポスターがいつまでも貼られているとか、画びょうが1個外れて、ひらひらしているような学校は要注意ですよ! と書かれていました。なるほど。
さっそく、校内を見てみると……ああ、結構ありました。まずは「いつ書かれたの? 貼られたの?」という古いポスターが何か所も。学校の大人たちって、子どもたちが作ったものは外したり捨てたりしづらくて、何年も貼り続けてしまうことが多いのです。でも、児童会・生徒会の任期が変わったら外したほうがいいでしょう。特に気をつけなくてはならないのは、事前の働きかけが足りないと、禁止命令文だらけになることです。権力は、もったら振り回したくなっちゃうのが人間の性。だけど「〇〇禁止」「△△するな」に囲まれているのってあんまり居心地がいいもんじゃないですよ。

いじめ防止キャンペーン週間などに生活委員会がポスターを描いて貼ると、学校中に「いじめはダメ!」「いじめをやめよう」のポスターがあふれかえる。同様に、教職員の交通事故や飲酒運転などの不祥事が起きると、教育行政の指導のもと、交通安全遵守キャンペーンとか飲酒運転撲滅強化月間などが設定される。各学校での取組も求められるから、職員室や職員玄関などに「飲酒運転をなくそう」というステッカーやポスターをたくさん貼っている学校もある。それを見た子どもたちに「先生方ってお酒を飲むの? 飲酒運転するの?」と尋ねられたことがあり、びっくりしたのだけど、禁止命令文が多い学校は「日常的にそういう問題が起きている学校なのかな……」と思うのだと再自覚しました。通学路にある立て看板「非行の芽を摘もう」「暴力追放」なんかも、たくさんあると「この地域、治安悪いのかな……」なんて思ってしまうのです。ポスターを貼ったり標語をつくったりすることは学校でよく行われているけど、「本当に効果あるの?」と問い直すことも必要なんじゃないかしら。特に手間暇かけて自作する場合、ターゲットは誰? どんなふうに行動変容をしてほしいの? 効果的な表し方は? なんて、つい美術科教員の私は考え、イージーな掲示物作戦に疑問を感じてしまうのです。

そろえることが大事かしら

これまでたくさんの学校にお邪魔してきました。多くの学校で何度か目にしたのは、廊下の壁に学級の人数分のクリアフォルダが貼られていて、そこに行事に向けた意気込みや振り返り、学期ごとの目標や反省だったり、道徳の授業のリフレクションだったり、個々の生徒が書いたプリントだったりが、先生のスタンプと一言コメントを添えられた状態で掲示してあるもの。なるほど、私も担任時代にやっていたわ。「他の友達がどんなふうに書いているか、読んで学ぼう」みたいな感じで……だけどね、廊下の掲示物を立ち止まって読むほど、中学生は暇じゃなかった。時間がないの。それから、全員がそろって提出できるわけでもなく、そもそも自分の書いたものが多くの人に見られるように貼られるのが辛いって人もいる。美術とか書写とか、技術・家庭科も体育も音楽も、パフォーマンスや作品が「見える化」されちゃうものは、苦手な者にとっては本当につらい。
あるとき訪れた学校では、ちょうど学校祭を控えた時期だったからか、「行事に向かう目標・意気込み」のプリントは、多くが「めざせ金賞!」とか「1位を取るぞ」みたいなもので、それがずらりと並んでいて、私はちょっぴり苦しくなりました。なんていうか、昭和のドラマに出てくる「何が何でも契約を取れ!」「めざせ! 営業成績1位」のモーレツサラリーマンの会社みたいに感じてしまうのです。そして、そんな掲示物フォルダーには何も書かれていない白紙のプリントも4枚、5枚とあり、「ああ、この生徒さんは学校にしばらく来ていないのだな……」と分かってしまう、そんな廊下。または小学校の教室の後方の壁に貼られた図工の時間に描いた絵。「!」と思うのは、構図も使っている色彩も、ほとんど同じ作品。
自分の作品を掲示するかしないか、子どもたちが自分で決められる学校ってどのくらいあるんだろう? 生徒全員分の作品を貼り出すことで生まれる、子どもにとってのメリットって何? 学校に来れていない子が何人いるか、ちょっと見たらすぐ分かってしまう「全員が掲示しています」のワークシートや作品の意味ってなんだろう……。
こんなことを書くとまた、眉をしかめられるけど、ちょっと立ち止まって考えませんか。

クリティカルならダメですか?

とある学校では、「教育委員会の学校訪問のときに、『成果物が全員分掲示されているか』『教員のコメントが書かれているか』をチェックされるからやらなくてはならないんです……」とつぶやいた先生がいました。だから、訪問の前には、学年の教職員で相互に掲示物や教室環境をチェックすると……。
「その主語、誰?」と、ついいつもの言葉が口をついて出てしまいました。子どもたちの学びになる、学びやすさにつながる、意欲が増す。それなら多少の手間もいとわないけど、見栄えがいいから全員分掲示する、大人の目から見てうまくできているものをそろえたほうがいいから、同じような作品を描かせる。それって誰のため?
行事の反省に、正直な感想として「今年の進め方ではなく、来年はこのように改善したほうがいい」と改善策を記載したところ、教員に呼ばれて書き直しをさせられたという子もいた。「批判的なことを書いたら、今年の実行委員会の人たちが傷つくでしょう」「これを読んで残念な気持ちになる人のことも考えるように」と言われたというけど、「えっ? それで、この子たちの生きていく世の中にイノベーションは起きるんかい?」

自由でクリエイティブな学校にするために

「友達がどんなふうに考えたり書いたりしたか見てみよう」は、ICTを使うと簡単にできる。グループで作成するレポートなどについてもテクノロジーで共同編集が簡単にできる。廊下の壁に貼らなくちゃならないのは何? どんな場合? 子どもたちが、自分がみんなに見せたいものを掲示しちゃダメ? もちろん、自由な表現をするときにはリテラシーが必要だし、自由の相互承認という大前提があるのを共通認識したうえで、もうちょっとフリーでクリエイティブな場があってもいいのではないかしら……と私はモヤモヤするのです。
私が教頭のとき、とあるクラスの後ろの壁に、ポスターが貼ってあった。校舎から見た家並みの写真に、コピーが1行、

「俺には帰る家がある ―帰宅部―」

「あはは、これ、めちゃくちゃいいじゃん!」と担任に言うと、新入部員勧誘のポスターなどが校内に貼られている時期、部活に入っていない「帰宅部」の男の子が作って「先生、これ貼っていい?」と持ってきたらしい。担任の先生も懐が深い方で「おお、これはいいね」と教室に掲示する運びになったと聞いた。
こういうクラスはきっと心理的安全性が担保されていて、話したこと、表した内容に対して、基本的に受容的なムードができている学級なのだろう。
学校はもっと自由でクリエイティブに。見栄えや飾りを捨てて実を取ろう、と言えるのはスクールリーダーのあなた。まだ間に合うと思うよ。


森万喜子

<プロフィール>
森 万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年務めた後、2校で校長を務め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名をもつ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。現在は、執筆活動や全国での講演の他、文部科学省学校DX戦略アドバイザー(2023~)、文部科学省CSマイスター(2024~)、青森県教育改革有識者会議副議長として活躍中。単著に「『子どもが主語』の学校へようこそ!」(教育開発研究所)がある。


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