まさか、もう忘れてない? ~経営方針を浸透させる~ 【連載|女性管理職を楽しもう #8】

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元北海道公立中学校校長

森万喜子
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前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生に管理職の楽しみ方を教えていただくこの連載。いま管理職の先生も、今後目指すかもしれない先生も、自分だったらどんなふうに「理想の学校」をつくるのか、想像しながら読んでみてくださいね。 
第8回は、<まさか、もう忘れてない? ~経営方針を浸透させる~>です。

執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子

5月の連休で、リフレッシュできましたか?

みなさんこんにちは! 連休が終わりましたが、しっかり休んでリフレッシュできたでしょうか。かつて、私が初めて管理職になった4月、仕事が大変で、同期昇任した仲間と、「連休まではがんばろう!」を合言葉に、青息吐息の日々でした。で、やっと連休になったのに、いろいろあって休日出勤を余儀なくされ……「学校の働き方改革」という言葉はまだ生まれていなかった15年前の話。今はそんなことはない、と願っていますが、どうでしょう。

みんなー、覚えてる? 学校経営ビジョン

5月といえば、地域によって違いはあるものの、運動会や旅行的行事を控え、忙しくなる時期かと思います。今回は、学校が動き出して忙しくなると、忘れられがちなもののお話。
何を忘れるの? はい。学校の経営ビジョンです。4月1日の職員会議で、校長先生は今年度の学校経営方針、経営ビジョンをしっかりとお示しになりました。歌舞伎でいうところの初日、新たに校長になった方にとっては劇場ごと新規オープンの「こけら落とし公演」のような、晴れがましいものです。その時は、職員室全体が「よし! このビジョンのもと頑張るぞ!」という意欲に満ち溢れているのです。でも、その1週間後には児童生徒がやってきて入学式・始業式、年度初めの諸行事、児童生徒や保護者からの相談事や、全国学力・学習状況調査の準備と実施などに明け暮れているうちに、いつの間にか「去年はどうだったっけ?」「去年の実施要項データある?」なんていう会話が多くなってきがちです。
そうやって夏が来て、秋が深まり、今年度の活動を評価し、次年度を考える時に「あれ、あんまり進化してなくない?」と気づくことがあります。
とある研究会でお会いした校長先生とお話しした時に「いやー担当者に、『〇〇の件、どんなふうに進めようと思っていますか』と尋ねたんだよ。当然もう準備を始めているだろうと思ったから聞いたんだけどね。そうしたら『方針がわからないから進めようがないです』って言われちゃってさ。もうびっくり」と言っていました。
それを聞いて「それはあるあるですよ。あのね、ファーストフード店でコーヒーやハンバーガーを買うとトレイの上に印刷された紙が敷いてあるじゃない? あれ、ついつい読んじゃうよね。校長先生の学校のグランドデザインをラミネートしてね、先生方に『昼食時のランチマットにどうぞ』ってお配りするのはどうかしら。食べながらつい見ちゃうから壁に掲示するより効果あるわよ」と冗談半分に話しましたが、5月以降、学校の経営ビジョンは意識から薄れていきがち。

学校教育目標、覚えてる? 教育課程につながってる?

学校経営の最上位目標は、学校教育目標を具現化すること。グランドデザインの上の方、または真ん中の一番目立つ位置に学校教育目標が示されていると思うのですが、それを実現するために、めざす学校のありかた、育てたい児童生徒像、目指す教職員像、学校の教育課程編成方針、地域の特色や願いなども記されているはず。つまり、日々の学校の営みが学校教育目標の実現につながっていくストーリーが、リソースと共に、つながりをもって示されているかな、ということも見直したい。
常々意識していれば、担当部から出された行事や諸活動の要項も、目標のところから、チェックできます。行事の実施要項には多くの目標が設定されているものもあり、「えっ? 半日の行事に3つも目標を詰め込んで大丈夫?」とか、「こんなに手間と時間をかけて取り組む割には、学校教育目標具現化の道筋が見えてないような……」という気づきも得られるというもの。 そして、そう考えてみると、学校教育目標自体がリニューアルされていなくて、今の学校に合わないということもあります。私がかつて勤務した学校は40年近く学校教育目標の改訂が行われていませんでした。高邁な理想を掲げているけど、長くて誰も覚えられない。昭和50年代の学校教育目標はそういうものだったのかもしれませんが、誰もが覚えていて、2秒くらいで読み上げられるものが、学校と地域に共通のキーワードになり、よいと思います。寿限無じゃないけど、長すぎるのを覚えきるのは大変。改訂する場合も、今からスタートすれば年度内に改訂作業は終わります。

カリマネは働き方改革につながる

未履修の問題が報道されたりすると、教育課程の進行管理をきっちりしなくちゃ、とばかりに時数と進度の点検を厳しくする学校もありますが、私がおすすめするのは、各教科の先生が、年間指導計画を手元において時数と進度の管理だけではなく、改善点を書き加えていく方法。「単元のこの部分はもう少しじっくり」とか「他教科との関連で、もう少し後に実施するほうがいいね」とか、気づきをメモしておく。
そして校内研修の機会などを活かして、他教科の教員と一緒に年間計画と教科書を見ながら話し合って教育課程に手を入れていく作業、つまりカリキュラム・マネジメントをやってみるのをお勧めします。いわゆる「〇〇教育」で総合的な学習の時間や特別活動が食われていっちゃうとお悩みの学校も、この作業をすることで特設授業を上乗せしなくても、教科の学びの中に溶け込ませることで十分できるはず。そこでの学びを基盤に、総合的な学習の時間等で、自分なりの問いを見つけ、PBLで学びを進めていくことができるといいでしょう。カリキュラム・オーバーロードの問題が取りざたされますが、このあたりを整理するとすっきりします。

カリキュラム・マネジメントって、床に散らかっている大小様々な箱を、無駄や重複なくまとめたり、必要に応じて分けたりしてすっきり収めるというようなことだと私は思っています。

おわりに

今回は4月初めの経営ビジョンを皆が意識して、学校の教育活動をアップデートしていくためのヒントを記しました。何か参考になることがあったら幸いです。さわやかな5月、気持ちよく仕事が進みますように。


森万喜子

<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。現在は、執筆活動や全国での講演の他、文部科学省学校DX戦略アドバイザー(2023~)、文部科学省CSマイスター(2024~)、青森県教育改革有識者会議副議長として活躍中。単著に「『子どもが主語』の学校へようこそ!」(教育開発研究所)がある。


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