不登校の子供を無理なく登校へ導く5つのステップ

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北海道公立中学校教諭

千葉孝司

不登校の子どもへの対応は難しいものです。また、子供だけでなく、保護者も自信をなくしているケースも多く見られます。子どもと保護者の心に寄り添った支援を心得ておきたいものです。不登校の問題に正面から向き合う現役教師が本気の実践を提案します!

執筆/北海道公立中学校教諭・千葉孝司

千葉孝司先生

ちばこうじ●1970年、北海道生まれ。いじめ防止や不登校に関する啓発活動に取り組む。ピンクシャツデーとかち発起人代表。著書『いじめ 困った時の指導法40』『不登校指導入門』(以上明治図書)『空気マン』(なごみすと)他。

不登校は最初の一手を考える

不登校の原因は?

学校に行かない子どもを見ると、たいていの大人は二つの理由を思い浮かべます。それは病気か怠けです。病気であれば、病院に行かせようとし、怠けであれば叱責をするでしょう。

病気でもなく怠けでもなければ、何か学校に原因があるのだろうかと考え、「何か嫌なことはなかったの?」と根掘り葉掘り聞こうとします。嫌なことが全くない学校生活などありえないでしょうから、「実は〇〇の時に、ちらっとAちゃんににらまれたのが嫌だった」と言ったことを話すこともあるでしょう。

「他にはない?」とどんどん聞いているうちに、子ども本人も「ああ、それが原因で行けなかったんだ」と錯覚し、思い込んでしまうことになります。

不登校のNG対応

不登校は集団に対して心身がすくんでしまう状態です。高所恐怖症や閉所恐怖症といった不安障害を思い浮かべると分かりやすいでしょう。高所恐怖症の人に説得したり、説教したりしても効果はありません。嫌な感情や不安は増すばかりです。まずは、安定させて本人の納得のもと、スモールステップで再登校を目指すのが王道です。

ただし、小学校低学年では、集団に対しての不安というよりも、母子分離不安といった面を強く持っています。学校が嫌だから家にいたいというよりも、親と離れるのが嫌だから家にいたいのです。親と離れなければならないから学校が嫌になるわけです。

これは低学年だけに見られることではなく、特定の曜日に欠席が集中する高学年の子どもにもいます。その曜日は親の仕事が休みであったりするのです。学校に行きたくないのではなく、親と一緒に過ごしたいのです。

給料をもらっている大人でさえ、職場に行けなくなるくらい心が疲れることがあります。親に話を聞いてもらって元気になることや癒されることは、子どもには必要なのです。

心が疲れて学校に行きたくない時に、「みんなだって嫌なことがあっても頑張って来ているんだよ」と熱く説得されても、自信や元気は失われるばかりで、ますます行けなくなってしまいます。

そういうことってあるよね。今まで頑張ってきたもんね。何か困っていることで相談しておきたいことはあるかな? じゃあ今日一日はゆっくり休もうか。明日の朝、どうしても行きたくないって気持ちが膨らんできたら、家の人と一緒に学校においで。時間はいつでもいいからね。

子どもが学校に行きたくないと言った時、笑顔で優しくこう語りかけて下さい。

【関連記事】子どもの不登校で悩む保護者はこの記事もチェック → 不登校児童を救う、教師と保護者連携の言葉がけ

ひき算ではなく、たし算で対応する

嫌なことがあるのなら、それを取り除こう。自分に甘い気持ちがあるのなら、それを取り除こう。不登校の対応をする時に、原因を見つけて、それを取り除こうとするのが自然な考えです。しかし、いじめが要因で不登校になった子が、いじめっ子が転校していなくなった後でも学校に来られないまま、という場合は多くあります。

原因を取り除くひき算ではなく、何を加えたら登校できるだろうかというたし算の発想が大切です。

子どもが育つには、たくさん甘えることが必要です。甘えることで自分の価値を知り、周囲への信頼を育みます。

子どもが育つには、たくさん安心させることが必要です。安心することで自分に自信を持ち、挑戦する心が育まれます。

甘え貯金と安心貯金の残高不足が、不登校を引き起こしている場合も多くあります。これに対して、「甘えるんじゃない」「学校に行かないと大変なことになるよ」と言葉をかけると、残高はますます減ることになるでしょう。

そうではなく単に自己中心的に感じる、という場合もあるでしょう。それは遊び貯金が不足しているのです。子どもは遊びを通して、ルールや集団での立ち居振る舞いを習得していきます。

「遊び貯金」「甘え貯金」「安心貯金」これら3つの貯金の残高不足かも知れません。次のような言葉がけをしましょう。

遊び、甘え、安心が足りないことが不登校の要因に
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小学校低学年の場合は、本人の自主性に任せると言っても、難しい年頃です。勇気ある一歩を本人が踏み出せない時は、そっと背中を押して、勇気を足してあげることも大切です。その際は、脅しや不安を煽る言い方ではなく、「大丈夫だよ」「あなたにはできる力があるんだよ」といった、ポジティブな声かけをする必要があります。

それがうまくいった場合には、後で振り返りをさせます。感じたことを本人に言わせ、「最初は嫌だなと思っていたけど、行ってみたら楽しかったんだね」といった言葉でフィードバックします。

勇気を出して来られたね 。

違うよ。先生が行けって言うから。

そう思うんだね。背中を押されて来ることを決意したのは自分だよ。自分で決めて実行したんだよ。そういう力が自分の中にあるんだよ。

こんな言葉で、本人が持っているネガティブな自己イメージをポジティブなものに変えていくことが大切です。このことが次の一歩につながっていくのです。

再登校支援の方法例

休みが長く続いている子どもへの対応を5つのステップで考えてみましょう。

■ステップ1 担任の家庭訪問

家庭訪問

必ず事前に連絡して、玄関先で楽しい雰囲気になるような短時間の訪問を、週1ペースで実施します。本人にとって安心できる人間関係を再構築していきます。望まれれば室内で一緒にトランプなどをすることもよいでしょう。

■ステップ2 夜の学校

本人が行きたくなるような何か材料(図書館での調べもの、夜の学校探検、みんなが描いた図工の作品など)を用意して、他の子どもがいない夜の時間帯に保護者と一緒に来てもらいます。

その際は教室の自分の席に座らせて、教室での楽しかったことを思い出させ、口にさせます。ああ楽しかったという経験をさせ、学校に対してのイメージをポジティブなものに変えさせることが目的です。

子どもが学校に来たくなるような内容を話す
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■ステップ3 別室登校

日中、他の子どもたちと会わない時間帯に別室での登校に挑戦させます。いられるまでではなく、時間を区切って余力を残しながら続けます。その際は楽しかったという気持ちや達成感を味わえるような過ごし方ができるように工夫します。パズルを置いて毎日少しずつできるようにするというのも効果的です。

■ステップ4 友達との触れ合い

クラスで一番会いたい人が誰かを確認し、昼休みなどに別室で触れ合わせます。気まずい雰囲気にならないように楽しい活動を準備しておきましょう。うまくいけば段階的に会うメンバーを増やしていきます。本人の意思や希望を尊重し、無理強いはしないようにします。

■ステップ5 教室カレンダーの利用

学校に十分なじみ、安心して会える友人ができてきたら、いよいよ教室で過ごすことに挑戦します。最初は本人の好きな教科の時間などピンポイントで。定着してきたら教科にかかわらず時間帯を決めて教室で過ごさせます。教室に足を踏み入れられないようであれば、柔軟に保健室などの別室登校に切り替えることも必要です。

ここで本人専用のカレンダーを用意します。1週間単位で目標と実際がどうであったかを記入させます。そして目標が達成できたら好きなキャラクターのシールを貼っていきます。

目標は難しすぎず、やや簡単あたりに設定します。こうすることで、自分の頑張りを視覚化することができます。シールが10枚貼られたら、保護者に好きな映画やパフェを食べに連れて行ってもらうといったごほうびを設定することも効果的です。

本人と級友との接触が始まってくると、「なんで、あの人だけ特別扱いなの、ずるい」 といったクラスからの不平が出てくることも予想されます。普段から、「みんな頑張っていて偉いね」と承認することを心掛けましょう。

【関連記事】休み明けの登校しぶりの記事もチェック → 保護者から、夏休み明け登校しぶりの相談を受けたら

保護者を支える

不登校では本人と保護者の心理状態は密接なものになります。保護者の不安は本人に伝わります。不安は怒りに変化しやすく、本人を叱責することにつながります。その結果本人はますます自信を失い、家から一歩を踏み出すことが難しくなります。保護者を支えることは重要なポイントです。

表面的に困り感が見えない保護者もいますが、自分の子どもが学校に行かないことを喜んでいる人はいないのです。度重なる無力感から無気力になっている場合もあります。そんな保護者を支えるのは担任一人では難しいものです。管理職や養護教諭、スクールカウンセラーなど多くの人の力が必要になります。

今まで頑張ってきたから、甘え貯金が足りなくなっちゃったんですね。家で過ごすこの時間は決して無駄なものではないし、きっと元気に学校に来られるようになりますよ

保護者を力付けるこんな言葉が必要になります。

保護者が不安から本人や友人、担任に対して攻撃的になることもあります。それに対して、こちらも身構えて保護者に反撃すると、その隙間から、子どもは落ちていってしまいます。保護者が学校を責めるのはよくあることなのです。でもそのあとに必ず保護者は、自分自身を責めて苦しんでいるのです。どうか保護者との間の葛藤で苦しむことがないよう願います。

チームで取り組む不登校支援

教師の仕事は感情労働です。ありあまる心のエネルギーがないと、不登校の子どもへの対応は難しいものです。不登校はつまずいた子どもと困っている保護者と未熟な教師がいる。ただそれだけ。

そう思って私は今まで関わってきました。淡々と途切れることなく、自分の生活を充実させながら、関係を築くことです。たとえ教室に戻れなくても、子どもとの間に素敵な関係が生まれれば、そこが玄関や公園であろうと、子どもにとって学校なのです。

イラスト/大橋明子

『教育技術 小一小二』2019年12月号より

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