個別最適な学びのために! あなたも「形成的評価」を指導に導入しませんか?

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

近年、小学校の教育活動では、児童たちを画一的に評価することから、一人一人の学びの状況に合わせた「形成的評価」の比重が高まっています。「形成的評価」は、児童の個性や多様性を尊重し、主体的な学びを促進する教育を実現するための有効な手段と言えます。「形成的評価」が不可欠な要素となっています。改めてその必要性や課題、実際の活用方法をみていきましょう。
【本記事は3回シリーズの第1回です】

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

授業中の先生
イラストAC

1 そもそも「形成的評価」って何?

ここでまず、おさらいをしておきましょう。
教育活動で、教員が児童の学力を評価するとき、次のような5つの評価方法がよく使われます。
①【絶対評価】
対象の児童が、学習指導要領の示す目標に達しているかどうか、という到達度で学力を評価します。
②【相対評価】
クラスのような一定の集団の中で、対象となる児童の得点ランクは何番目か、というような相対的な位置づけによって、児童の学力を評価する方法です。
③【到達度評価】
まず、すべての児童を到達させるべき教育目標を決めます。そして、この目標にそれぞれの児童がどのくらい習熟できているかという、到達の程度を評価します。
④【総括的評価】
ある一定期間での学びの成果を総合的に判断して評価する方法です。ワークテストやポートフォリオなどがこれに当たります。
⑤【形成的評価】
学習の途中に、それぞれの児童の学びの状況を掌握し、これからの学習活動が適切に行われるよう個別に最適化するための評価です。

2 日常当たり前になされている「形成的評価」

「形成的評価」の考え方は、実は私たちは日常生活の中でもたくさん活用しています。

① 料理の事例 味見で調整する!
料理をするとき、味見をして調味料を足したりしますよね。これは、料理の状態を常に確認しながら、より良い味に近づけていく「形成的評価」そのものです。例えば、味が薄いと感じたら塩を加え、逆に味が濃いと感じたら水を足すといった具合に、料理はまさにリアルタイムで「形成的評価」を繰り返すプロセスです。この一連のプロセスは、目標とする味に近づけるためのフィードバックループです。出来上がりを常に意識しながら調整を加えていきます。

② スポーツの事例 フォームを見直し、パフォーマンスを向上させる!
スポーツでも、形成的評価は欠かせません。例えば、ランニングやスイミングのフォームをビデオで確認したり、コーチからアドバイスをもらったりするのも、現在の自分の状態を評価し、よりよいフォームに近づけるための努力です。フォームを少しずつ修正し、練習を重ねることで、より効率的に運動できるようになりパフォーマンスも向上します。

③ 音楽の事例 音を聴きながら、演奏を磨く!
楽器を演奏する際も、常に自分の音を聴きながら、音程やリズム、表現力などを調整しています。ピアノやギターの練習中、自分が弾いた音が少しずれていると感じたら、楽譜を見直したり、指の動きを修正したりしますよね。これは、理想の音に近づけるために、自分の演奏を常に評価し、改善しているということです。

健康管理の事例 目標に向かって、体を整える!
ダイエットや健康管理も、「形成的評価」の考え方が活かされています。体重や体脂肪率を定期的に測定し、食事や運動メニューを調整することで、目標とする体型や健康状態に近づこうとします。これは、自分の体の状態を評価し、改善するために、具体的な行動計画を立てているということです。そして、この計画にもとづいて実行していきます。

生涯学習の事例 知識を深め、スキルを磨く!
生涯学習として自分のテーマや課題に基づいて調べ物をする時も、「形成的評価」は重要です。例えば、関連図書を読んだり、資格試験の過去問題を解いたりする中で、分からないところがあれば、辞書を引いたり、詳しい人に質問したり、参考図書にあたったりします。これは、自分の理解度を常に確認し、知識の穴を埋めるための努力です。こういった繰り返しで学びが深化していきます。

このように、「形成的評価」は、私たちの日常生活の様々な場面で見られます。料理、スポーツ、音楽、健康管理、学習など、どんなことにも当てはまる考え方です。つまり、日々の積み重ねが、成長と発展を生んでいきます。

3 学校教育における「形成的評価」

学校教育における「形成的評価」とは、学習者一人一人を、授業中や学習の過程で常に評価し、より良い学びへとつなげていくための方法です。その学習活動が当初の目的を達成しつつあるかどうか,どのような点で活動計画の修正が必要であるかを知るために行われます。
学校教育では児童生徒に一斉に授業を行います。そして、学期末など学習の終了時に行われるテストの結果で成績をつける、「相対的評価」を基盤にしている感は否めません。
しかし、児童生徒たち全員が、教えたことを習得するのが、学校教育の本来の目的です。
これを「マスタリー・ラーニング」と呼びます。
このマスタリー・ラーニングを実現するために不可欠な方法として提唱されているのが、形成的評価なのです。
ただ全員に一斉に授業を行うのではなく、個別最適化された指導が必要だ、ということですね。
その個別最適化とは、児童生徒の理解度に応じた指導方法の工夫であるだけでなく、児童生徒の状況から指導者の指導方法そのものを見直す、というフィードバックでもあります。

「形成的評価」という言葉からは、なんだか難しいイメージを受けますが、「学習者一人ひとりの成長を願い、そのために何ができるか」を考えることです。ぜひ皆さんも、進めてほしいと思います。

4 教育活動にはなぜ「形成的評価」が必要なのか

最近の教育界の流れとして、
○一人一人の個性や特性、多様な学び方を尊重する教育が求められていること
○AI、ICTなどの技術の発展により、個々人に合わせた学習が可能になってきていること
○PISAなどの国際的な学力調査で、日本の児童生徒の学力低下が指摘されていること
などがあげられます。そういった、わが国の教育課題解決のためにも「形成的評価」が再注目されはじめています。

① 一人ひとりの個性に合わせた指導ができる
以前の教室のように、全員が同じことを同じようにできることを目標にするのではなく、学習者一人ひとりの個性や、その学習者のペースで学べるようにサポートできます。例えば、ある児童は計算が得意でも国語での文字を読むのが苦手だったり、すぐに理解できる児童もいれば、じっくり考える必要がある児童もいます。形成的評価では、そのような一人ひとりの違いに気づき、それぞれの学び方を支援できます。

② 児童が自ら学びを考えられるようになる
「形成的評価」では、学習者自身が自分の学習状況を理解し、どこが分からないのか、どこをもっと学習したいのか、どこをより学習すべきなのか、などを考えられるようになります。授業者から一方的に教わるだけでなく、学習者が積極的に学びに取り組めるようになるのです。さらに、学習者のやる気がアップしていきます。 自分のがんばりが授業者に認められることで、もっとがんばろうという気持ちになります。

③ 授業者の教え方がよりよくなる
授業はライブです。想定したこととは違っていきます。授業中に学習者の様子を観察したり、質問に答えたりする中で、学習者の理解度や、どこでつまずいているのかをすぐに知ることができます。そのため、その場で教え方を変えたり、別の説明の仕方をしたりと、より効果的な授業を行うことができるようになります。つまり、授業者は自分の授業をモニタリングできるようになります。評価結果を分析することで、指導の改善点や児童への支援方法などを検討することができるようになります。授業を進めながら、指導プランを微調整していくことができます。

以上の理由で授業者は、しっかりと「形成的評価」の手法を身につけておかなければならないということです。

「形成的評価」は、児童一人ひとりの成長を促し、より良い学びを実現するための大切な考え方です。授業者も学習者も、共に成長できるような授業を目指していくために、「形成的評価」を大切にしていきましょう。

【本記事は3回シリーズの第1回です。次回は8月17日(土)の予定です】

【参考資料】
名著復刻 形成的な評価のために/梶田叡一/明治図書出版

◆編集部より◆
以下の記事では、形成的評価に関するより理論的な詳しい情報や、ルーブリックの作成方法など、役立つ情報を提供しています。併せてご活用ください。
形成的評価https://kyoiku.sho.jp/87113/
ルーブリックhttps://kyoiku.sho.jp/75868/


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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