実践レポート:学校ぐるみのコグトレで課題を乗り越える子どもたち
学校全体でコグトレに取り組んでいる大阪府和泉市立国府小学校。特に支援学級、通級指導教室での実施に力を入れています。コグトレの導入後、子どもたちの「集中力」や「思考力」が大きく育ち、学校全体が落ち着くようになっています。同校教諭・通級指導教室担当の井阪幸恵先生に同行し、同校でのコグトレの実施の様子をお届けします。
目次
2015年からコグトレを導入
本校では、2015年4月から支援学級、通級指導教室でコグトレに取り組み始めました。支援学級※1(7学級)、通級指導教室※2(5学級)では、毎時間2枚程度のCOGET(学習面…認知機能強化トレーニング)やCOGOT(身体面…認知作業トレーニング)を実施。必要に応じて、COGST(社会面…認知ソーシャルトレーニング)も取り入れています。
(補注)
※1 支援学級は、在籍が支援学級となります。国語、算数を中心に通常は支援学級で学び、通常学級で学習する際も、教育課程に支援担任がかかわります。
※2 通級指導教室は、通常学級に在籍する子どもが、月に1時間~週に8時間通っています。読み書きに時間がかかったり、友達とのコミュニケーションが上手に取れなかったりするなど、学習面や生活面で困っている子供たちが通います。自立を目指し、困っていることを改善や克服するところで、一人一人に応じた指導を行います。
通級指導教室では「朝トレ」で認知機能を強化
通級指導教室では、「朝トレ」で、運動、認知機能強化トレーニング、認知ソーシャルトレーニングなどのコグトレを、毎日8時15分~30分に実施しています。
5・6年の通級指導教室の子どもたちは、「記号の変換」「記号さがし」「点つなぎ」「さがし算」など、井阪先生がそれぞれの子どもに合わせて準備したコグトレプリントに取り組みます。また、子どもたちは、思い思いに跳躍練習台や自転車こぎなどの運動も行います。井阪先生は、一人一人の子どもの様子を見守りながら支援や声かけをします。最後に全員で「最初とポン」や「危険予知トレーニング」などを実施しました。
今日はどれにする? さがし算でいく? さがし算のルールを読んで自分でやってみてください。
はい。
子どもたちはコグトレが好き
通級指導教室の子どもたち(119人)に「コグトレは好きですか?」というアンケートを取ったところ、92%の子どもは「とても好き」「まあまあ好き」という回答があり、全体的には好きな子どもが多いという結果でした。また、高学年では「あまり好きではない」という回答がなく、「とても好き」「まあまあ好き」という回答でした。
また、「好きなコグトレは何ですか?」という質問では、「点つなぎ」が多く、次いで「スタンプ」「最初とポン」「形さがし」「記号さがし」が人気でした。
コグトレは、子どもたちが楽しく取り組めることが大きな特長です。子ども自身が気付かないうちに、何となくできることが増えています。つまり、無理をしないで、学習や生活の根幹となる力を強化できるのです。
通級指導教室の算数または国語の時間にコグトレを取り入れる
4年の通級指導教室の算数または国語の時間では、コグトレも併せて取り入れつつ、定着していない単元のやり直し学習を行います。認知作業トレーニングも併せて実施します。
通常の学級では、子どもたちの状況によって多くの場合はコグトレの同じ課題を出しています。ただし、コグトレアセスメントで弱さの傾向が見られたら、その課題を多めに取り入れるようにしています。例えば、「書きの力」が弱いと捉えれば「点つなぎ」「曲線つなぎ」を多めに取り入れ、「想像する力」が弱い場合は「スタンプ」「順位決定戦」などその項目の課題を多めに取り入れます。
また、支援学級では、子どもの発達段階に合わせて課題を取り入れています。通級指導教室では、その子どもの弱さに合わせた課題を多めに取り入れるようにしています。
授業時間の最初にコグトレ
5・6年の通級指導教室の算数の時間では、5年は数に慣れるために「われる数みつけ」、6年は既習事項の「分数のわり算」の授業です。時間の最初には、運動をしたり、コグトレプリントに取り組んだりします。算数が分からないときには、いつでも先生に教えてもらえるという安心感があるため、子どもたちは落ち着いて授業に臨みます。
教師は、子どもが困っているときに助けたり、間違える前に声かけをしたりして、安心できるようにしています。間違いを指摘せず、「こう理解したらいいんだね」と子どもが納得できるような声かけを心がけています。
通常の学級では朝のモジュール時間にコグトレを実施
同校では2016年から通常の学級でコグトレに取り組み始め、2017年から学校全体で実施しています。通常の学級では、朝のモジュール学習の時間に取り組むことを推奨し、認知機能強化トレーニングを週3回、1回に付きコグトレプリント2枚程度実施。すき間時間や家庭学習で取り組んでいる学級もあります。また、月1回、認知ソーシャルトレーニングも実施しています。
がんばって。しっかり力入れて、体をまっすぐね。みんなすごいです。
COGETを取り入れるようになり、「書きの力」や「視覚認知の力」を向上させることができています。何より変化が大きかったのは「集中力」です。また、継続して取り組むことで「思考力」の向上にもつながっています。そのため、子どもたちは学習に取り組みやすくなり、安心して学校生活を送ることができています。
保護者から喜びの声が届く
「全校でコグトレに取り組んでもらってうれしいです」と保護者から直接声をかけられたこともあります。「ていねいに子どもを見てくれる学校」と安心している保護者が多く見られます。
同校教諭・井阪幸恵先生
コグトレを導入して学校全体が落ち着く
コロナ禍を経て、社会面の経験不足による幼さやそれに伴う学習面の弱さが、日頃、子どもたちに感じている課題です。特に高学年の子どもたちは、6年生の子が2年生のときにコロナ禍が始まりましたから、成長過程においてそれが発達全体に影響しているように思います。コロナ禍の影響があり、全国的に不登校が増えていると聞きますが、本校では、どうにかみな登校できている状況です。それは、登校渋りがある子どもが利用できる教室を用意し、居場所づくりをしていること、通級指導教室でコグトレを実施し、認知機能から強化してやり直し学習も徹底できることで安心して過ごせる環境を整えているからと考えています。
コグトレを導入して、まずは子供たちの「集中力」、次に「思考力」が伸びたと感じています。子どもたちは、学習理解が進み、考えて行動するようになりました。そのため、学校全体が落ち着き、子供たちも指導者である教員も過ごしやすくなっています。コグトレ実施とともに、ユニバーサルな環境づくりや授業改善にも取り組んできたため、学力も向上しています。今後さらに子どもたちが楽しんで自然に力が付くコグトレを充実させていきたいと思います。
取材・文・構成/浅原孝子 撮影/横田紋子(小学館写真室)
著/宮口幸治 ・神島裕子
新書判 192ページ
逆境に苦しんでいる子への支援のヒントが満載
どの親のもとで生まれたかによって子どもの人生が左右される現実をカプセルトイにたとえた「親ガチャ」という言葉。 『ケーキの切れない非行少年たち』の著者と気鋭の哲学者が、全ての人が幸せを追求できる社会のあり方を考えながら、逆境を乗り越えるための心の持ち方、人生を切り開く力のつけ方を、哲学・精神医学・心理学の観点から具体的に提唱する。
『子どもの認知能力をグングン伸ばす! マンガコグトレ入門』(小学館)
著/宮口幸治
A5判 224ページ
教室を舞台にしたマンガでコグトレの進め方を楽しく具体的に紹介しています。「コグトレを取り入れたいけれど、何からどのように始めたらよいかわからない」という方にもピッタリの1冊です。「コグトレ」の代表的な50種のトレーニングのねらいや進め方・ポイントなどを、マンガを交えてやさしく解説。紹介する課題のワークシートはすべてダウンロード可能。