管理職のパワーを生かして学校の危機を乗り越えよう! シン・学校3Kのススメ

連載
GKC(がんばれ教頭クラブ)

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

近年、学校における想定外の事故や事件は増加傾向にあり、管理職は常に大きなプレッシャーと責任を背負っています。このような状況下で、迅速かつ的確な危機管理能力は、教頭(副校長)にとって必須のスキルと言えます。想定しないことが突発的に起きるというのが学校です。その対応には、みなさんの観測・経験・心意気という「シン・学校3K」であたってみましょう!

【連載】がんばれ教頭クラブ

リスク管理
イラストAC

1 複雑で不確実な危機に対応するために

学校現場で「学校3K」というと、ベテラン教員が、科学的なアプローチをしないまま、「勘」「経験」「気分」という主観に基づいて、授業や学級経営をしていることを揶揄した言葉です。
ベテランといっても、しっかりした授業準備や新しい視点での学級経営に取り組むべきであることは言うまでもありませんが、長年蓄積してきた知見は、なるべく有効に活用しなければ勿体ないですよね。
これまで学校の危機管理においては、綿密な事前準備やマニュアル整備が重要視されてきました。しかし、実際の危機状況は複雑かつ不確実であり、マニュアル通りに対応できるケースばかりではありません。いわゆる「想定外」の事案も突然生じてしまいます。これが結構多いのです。
そこで、長年の経験に基づいた洞察力と知見をもって、危機状況への柔軟な対応をしていけるよう、管理職のためのシン・学校3Kを考えていきたいと思います。

2 シン・学校3Kとは?

シン・学校3Kの3つのKは、以下のキーワードから成ります。

① 観測
「観測」は、状況をつぶさに観察し、違和感や危険性をいち早く察知する能力です。長年の経験と現場感覚から培われた直感力は、危機兆候をいち早く察知し、適切な対応を取る手がかりとなります。

② 経験
「経験」は、過去の類似事例から教訓を学び、適切な対応を導き出す能力です。過去の類似事例への対応経験から得られる教訓は、より効果的な対応方法の検討に役立ち、ひいては再発防止策の策定につながっていきます。

 心意気
「心意気」は、困難な状況にもくじけず、最後までやり遂げる精神力です。危機に立ち向かう強い意志と責任感は、危機を乗り越え、学校全体を安全に導く原動力となります。

これらの能力は、マニュアルでは得られない貴重な情報源となり、より効果的な危機管理を可能にしていきます。

3 シン・学校3Kを磨くための7つの実践

シン・学校3Kをより確かなものにするためには、日々の意識的な取組が欠かせません。以下に、具体的な方法をいくつか紹介します。

① 教育裁判事例集を読む
過去の教育裁判事例から、学校がどのような責任を負うのか、どのような対応が求められるのかを学ぶことができます。法規に触れながら、自校での類似事例発生時の対応に役立て、同じような事案が起きた場合は、どうすればよかったのか、どういう対応が必要かを常に考えておきたいです。

② 新聞のニュースなどから学ぶ
学校事故や不祥事の例を新聞記事から学び、自校で起こりうる可能性のある危機を想定し、シミュレーションしておくことが重要です。そこで、自校ではこのようなことが起きないようにという予防策を考えておきたいです。

③ 最新の教育時事や研究者の論考に触れる
常に最新の教育に関する情報収集を行い、危機管理に関する知識やスキルをアップデートしていく必要があります。例えば、次のようなものが参考になります。
ア 『みんなの教育技術』管理職向けサイト(小学館)
イ 『内外教育誌』(時事通信社)の連載など
ウ 学校の危機管理研修に関わる団体のメルマガ、SNSなど

④ 研修会や講演会、webセミナーなどに積極的に参加する
危機管理に関する研修会や講演会に積極的に参加し、専門家の知見や危機対応経験者のエピソードなどを学ぶことができます。わたしが受講したものの中には、日頃の研修では絶対学べない以下のようなテーマを学ぶことができました。
ア ヒヤリ・ハットの危機管理の具体的内容
イ ポジションペーパー(公式見解)作成方法
ウ マスコミ対応(1次対応、記者会見の方法)
エ 高度な保護者対応スキル
オ 被害者の児童生徒救済方法や教職員の支え方

⑤ 自分の経験を振り返り、整理して教訓を導き出す
過去の危機対応経験を振り返り、どのような点が良かったのか、どのような点が改善点なのかを整理分析し、教訓を導き出すことが重要です。わたしが直接関わった事案ですと、以下のようなものがあります。
ア 朝登校してきた児童が教室の中に入ってきたスズメバチを追い出そうとして刺され、アナフィラキシーショックを起こし救急搬送した事案
イ 夏休みのプールでグッズを取り出して遊んでいた児童が、関係のない児童の眼球を傷付け、学校の責任下での通院を余儀なくされた事案
ウ スキー教室の帰りのゲレンデからの一本道でスリップしたダンプカーが道を塞ぎ、学校まで帰ることができなくなった事案
エ 毎日のように酔っ払いが「校長を出せ」と息まいて、電話回線を占有してきた事案
オ ある保護者が、「自分の子に役を与えよ」と理不尽な脅迫めいた抗議をしてきた事案
などなど、細かい事案を含めると数限りなくあります。

大きな事案に関しては、下記のようなテンプレートに入れて整理していました。教職員との情報共有や記録のためにも活用できます。
とにかく、整理しないと身に付きません。しっかり整理したいものです。

<生徒指導問題行動・学校事故記録カード>

生徒指導問題行動・学校事故記録カード 見本

⑥ 感性の研ぎ澄まし そして適切な対応へ
児童生徒や教職員とのコミュニケーションを密にすることで、学校内の雰囲気や異変にいち早く気付き、対応することができます。自席に座っているだけではコミュニケーションはできません。できるだけ歩き回りましょう!
また、校内巡視を徹底し慎重に行うことで、施設の異変や不審な人物や物を発見することができます。報告を待つだけでなく、教頭自らが現場の情報収集に出向くことが危機管理の第一歩です。
常にあらゆることに危機管理意識をもち、周囲の状況に注意深く目を配っていきたいです。
そして、一旦危機管理事案が生じたら、教職員チームで全力で事にあたりたいです。
さらに、事案が生じた場合は、関係者へのケアや再発防止策の検討など、迅速かつ丁寧な対応を継続する必要があります。

⑦ 自身の心身の健康管理
十分な睡眠と休養を取るり、心身を健康に保つことで、危機発生時に冷静な判断を下すことができます。
ストレス解消法を身に付けることで、ストレスを溜め込まないようにしたいです。主治医を設定し、定期的に健康診断を受け、健康状態を把握しておくことも大切です。忙しいけれども「超」健康! これが理想です。

ちなみに、昨今「科学的根拠提示力(エビデンスのある教育)」「個別最適な学習構成力」「活用力(ICTなどの)」という新たな3Kの概念も生まれており、こちらは今後、教育界全体で取り組むべき課題だと言えるでしょう。
管理職の課題としては、安全な学び舎を守り、児童生徒の健全育成に貢献することが最優先です。
日々の情報収集と研修、経験の蓄積、感性の研ぎ澄まし、心身の健康管理などを通して、危機管理能力を高めていきましょう。
長期休業中の自己研鑽の一つとして位置付けてみてはいかがでしょうか。


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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