授業づくりは、付けたい力とめざす子供の姿から逆算しながら考える【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第12回】
前回、前々回と、大阪府の国語授業づくりモデル校で国語の授業づくりに携わる岡本美穂教諭に、「大造じいさんとガン」の授業実践例や授業づくりの考え方について説明してもらいました。今回は、めざす力を育むための単元づくりや板書などについて紹介していきます。
目次
研究授業ではとくに、十分に教材解釈をして、授業を展開
単元づくりや単元の中の授業づくりを考えていくときには、やはり付けたい力とめざす子供の姿から逆算しながら考えていくことが必要だと考えています。
例えば、研究授業をするとなったら、公開をして見てもらう本時は単元の中のどの場面で、どんな授業をしたいのか、そのためにはどんな発問をしたらよいのかをまず考えていきます。その発問を考えるときも、子供がふり返りにどんなことを書いていたらよいのかということから、逆算しながら考えていくわけです(その授業を通して付けたい力=最終的な子供の姿から、逆算しながら授業を構成する)。
その中で、「本時は単元のどの場面にするのか」と悩むときに必須なのが、教材研究、とくに教材解釈です。十分に教材解釈をして、自分が「ここが一番重要だ」と考える部分、斎藤喜博の言葉で言えば、「教材の核」はどこかを考え、解釈して、授業(単元)を展開していかなければならない、と私自身、先輩から教えていただきました。今もそこを大事にしています。
具体的な教材解釈の方法については、やはり先輩から教えてもらった方法ですが、まずは教材文を自分で読みながら、「ここは変だな」「この叙述は気になるな」という所を見付けて、調べつつ深く読んでいきます。例えば、初回の「大造じいさんとガン」の授業で、深める発問として出した「手をのばしても」の叙述も、私自身が読みながら、「普通はそんなところで手を伸ばさへんやろ」とか「『手を伸ばしても』って、なんで『も』なんやろ?」と「気になった所」でした。それを十分に教材解釈した上で、「深める発問」としてもっておいて、あの場面で出したわけです。
もし、公開のない日常の授業ならば、この単元(授業)で付けなければならない力、この学年で付けなければならない力を考えます。そして、その力を付けた子供たちが単元(授業)の最後のふり返りでどんなことが書けていればよいか、ということから逆算しながら考えていくことになるでしょう。実際に最近、6年生の担任の先生と、「風切るつばさ」の授業公開に向けて教材研究に取り組んだのですが、そのときも「この単元ではこんな力を付けないといけないね。だから、こんなことが書けるようにしたいよね。すると、この場面ではこんな発問が必要だよね」というような話をしてきました。
子供たちから「深める問い」が出てくるよう、意図的に育てていくことが大切
そのように、教師は事前にしっかり教材研究をして、めざす力の育成に向け、子供たちが読みを深めるための問いをもっておくことが必要です。ただし、子供たちの読む力、伝える力が育つと、教師の側から問いを投げなくても子供たちから問いが出てくるようになってきます。実際に「大造じいさんとガン」の単元でも、本時までの授業では、すべて子供たちから出た問いについて対話していくことで、読みが深まっていきました。
ですから、教師が事前の教材研究を通して、深めるための問いを準備しておくことは絶対に必要だと思っていますが、それ以上に子供たちから、「深める問い」が出てくるよう、単元を通して、さらに年間を通して意図的に育てていくことが大切だと思います。そのためには、いくつかのポイントがあるように思います。
例えば、教師が反応しすぎないということもその一つでしょう。教師が過剰に反応し、評価すると、それが正解になってしまい、子供はその正解に沿うような発言をしようとします。そうではなく、子供が主体的に考え、対話しながら深めていくことが必要で、例えば、私が関わる学力研の久保齋先生は、「教師の反応は、『は、ひ、ふ、へ、ほ』で、いいねん」とおっしゃいます。子供が発言したときに、教師は「は〜」「ふ〜ん」「ほぉ〜」などの反応でよいというわけです。それを受け、発言した子供や周囲の子供たちが考え、互いの「伝え合う力でつながり」ながら深めていくのです。
当然、すべての子供たちが「伝え合う力でつながり」ながら、対話し、読みを深めていくためには、「自分の発言の内容がクラスの学びにとって意味がある」と感じられることが大切です。ですから、私は年度当初からそのように子供たちに伝えながら、どの子供も安心して発言できるような学びの場(クラス)をつくってきました。
その上で、単元の構造を通しても、子供たちが安心して自分の考えを発言しやすいようにしています。
例えば1回目に、「大造じいさんとガン」の単元(資料1参照)では、授業の導入で「この場面の大造じいさんはどうですか?」と、同じ発問を続けたと説明しました。場面は変わっていきますが、繰り返し同じ形式で発問を行っていきました。それによって、国語が苦手な子でも次第に自分なりの考えを発言することができるようになっていったのです。
【資料1】「⼤造じいさんとガン」単元の指導計画(全12時間)
そうした学習の中で、「資質・能力」について、「この段階ではこんな力を付けられるように意識させたい」と思うことを、学習の「めあて」として示しながら少しずつ育てていくのです。ただし、学級全体の「めあて」と同時に、子供たち一人一人にも個々の「めあて」を決めて書かせるようにしており、それによっても子供たちが少しずつ成長していきます。例えば最初は、「今日はペアで話し合うことをがんばりたい」と書いていた子が、次第に「今日は〜の人物像について考える」というように、教材の読みに関わり、他の教材でも活用できる内容を書くようになっていきます。
そのため、学級としての「めあて」も、あまり細かい具体のことは書かないようにしています。それは「めあて」が「〜について考えよう」というように具体的すぎると、子供が自分なりの「めあて」を書きにくくなるからです。ですから「めあて」は、あえて大きく示すことで、子供たちが自分なりの「めあて」を考えて書きやすいようにしているのです。
また、ふり返りも毎時設定することで、最初は「〇〇さんと同じで〜」と書いていた子が、「〇〇さんは〜と書いていましたが、私も〜という点については同じように思いますが、この点については〜」と書けるようになっていきます。そのように、授業の枠組みをあまり変えないため、いつも同じようなことをやっているように見えるかもしれませんが、少しずつステップアップしていく見通しを教師がもちながら関わっていくことが大事でしょう。
4月から翌年の3月にかけて、板書も子供の成長と共に変えていく
そのように単元や年間を見通しながら少しずつ子供たちを育てていくため、当然、板書も年度当初の4月から、「大造じいさんとガン」の時期のような複雑な板書を書いているわけではありません。4月から翌年の3月にかけて、板書も子供の成長と共に変えていっています。
まず4月は、目の前の子供の意見を受けながら、板書を参考にすれば子供たちも良いノートが整理できるようなシンプルなものにしています。そこから次第に、子供たちの発言であふれるような板書にしていって、「君たちの発表を書いていったら、こんなに黒板が埋まるんだよ!」と伝えながら、どんどん子供たちが多様な意見を出していけるようにしていきます。やがて、そんなことをしなくても意見が出てくるようになったら、子供たちが本質について考えやすくなるよう、意見を取捨選択しながら構造的に整理をするようにしていくわけです(資料2参照)
ネット上では、4月から3月まで同様にびっしり書き込まれた板書例を見ることがありますが、私は学級集団がどういう学びの状況なのかを見ながら、板書を整理し、変えていくことが必要だと思います。やはり、板書を通して子供の育ちが見えることが大事だし、同時に教師の育てたい意図が見える板書になっていくことが大切だと思っています。
そのように、目の前の子供たちの実態をしっかり見とりながら、単元や年間を見通し、少しずつ子供たちに資質・能力を育んでいけるような授業実践を続けていきたいと考えています。
【資料2】
【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!】次回は7月5日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之