講演:藤原友和先生「教職のターニングポイント~観が変わるとき・実践が変わるとき~」【明日の教室セミナーレポート】

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北海道公立小学校教諭

藤原友和

文/糸井登(「明日の教室」代表、京都女子大学附属小学校副校長)、吉川裕子(立命館小学校教諭)

講義中の藤原友和先生
撮影/平井良信

みなさん、こんにちは。「明日の教室」代表の糸井登です。今回報告するのは、6月1日(土)の午後、京都・山科にある新学社の会議室で行った藤原友和(ふじわら・ともかず)先生による「教職のターニングポイント~観が変わるとき・実践が変わるとき~」と題するセミナーです。

私が藤原先生のことを初めて知ったのは、ご著書『教師が変わる!授業が変わる!「ファシリテーション・グラフィック」入門』(藤原友和/著、明治図書出版、2011 年)によってです。 この実践は「ファシグラ」と呼ばれ、若い先生方の間で瞬く間に広がっていったように記憶しています。 この時期、「明日の教室」は東京、大阪、名古屋などに分校があり、大阪分校を主宰されていた川本敦先生が藤原先生を講師として招かれています。

その講座の様子(2011 年)は以下の「明日の教室 DVD」シリーズで見ることができます。
↓↓↓
http://www.sogogakushu.gr.jp/asunokyoshitsu/dvd_016.htm

あれから10年以上たちますが、この間、私はずっと藤原先生の動向に着目してきました。 ここ数年、凄いなと思いながら見ていたのが、コーディネーターとしての藤原先生の姿でした。様々な実践家をうまく繋ぎながらセミナーを運営されている姿は、なかなか真似ることのできないものでした。そんな姿を見てきましたから、藤原先生がどんな内容でセミナーを構成するのか楽しみでなりませんでした。

しばらく待つと、驚きのプランが送られてきました。何と、セミナーの中に池田修先生と私も組み込まれていたのです。というわけで、今回のセミナーでは、藤原先生と池田修先生に私も加わり、参加者みんなで「教職のターニングポイント」について考えていくセミナーとなりました。

では、セミナーの様子を紹介します。今回も報告を書いてくれたのは、吉川裕子先生(立命館小学校)です。


藤原友和先生セミナーレポート(報告者:吉川裕子先生)

今回の「明日の教室セミナー」の講師は、函館の小学校教諭・藤原友和先生。参加者も若い先生方が多く、熱気がありました。主催者の池田修先生(京都橘大学)と糸井登先生(京都女子大学附属小学校)との対談・鼎談もあり、濃い、濃い3時間半でした。

藤原友和先生
撮影/平井良信

オープニング・セッション「あのとき、“観”が変わった!」

明治時代、初代文部大臣・森有礼の「教師は僧侶なり」という言葉から藤原先生のオープニングトークが始まりました。令和4年の中教審答申「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」では「教える」という言葉がなくなったそうです。教員の立場は、子どもたちの学びを支える存在へと変わってきました。

教師「観」や教育「観」は徐々に変わるのではなく、あるときがらっと入れ替わるのではないかというお話の後、参加者自身が「初任から現在までのターニングポイント」について考え、グループで交流しました。ライフステージの変化やコロナ禍など共通点もありました。そもそも「観」は入れ替わるのか、少しずつ変わっていくのか、など活発な話合いがされました。

話題提供Ⅰ「初任段階からのステップアップ~ファシグラに出会うまで~」

次に、藤原先生の初任から『教師が変わる!授業が変わる!「ファシリテーション・グラフィック」入門』を出されるまでの約10年間のライフヒストリーが語られました。学生時代の野口芳宏先生との出会いから研究活動が広がっていったこと、プライベートでのサッカーリーグを作ったエピソードが印象的でした。

この10年間のキーワードとして「新しいものは今まであったものの間に生まれる」「徹底」をあげられました。秋田喜代美先生が提唱する「教師の成長発達4つの成長モデル」のうち、藤原先生の10年間は「成長・習熟モデル」「共同体への参加モデル」で表されますが、今の若い人に当てはまるかどうかは難しいと話されました。

若い頃は夢中で働いたり学んだりした方が多いと思いますが、ここまで「徹底」して勤務、研究、プライベートとのめりこんで活動された方は珍しいのではないでしょうか。一流の先生のすごさに驚きました。

対談Ⅰ「最初の十年をどう過ごすか」池田修✕藤原友和

池田修✕藤原友和
撮影/平井良信

ここで池田先生との対談に。池田先生は、「単純に楽しいことや、目の前の生徒が困っていることをどう解決するかを考えて、自分の成長のことは考えていなかった」と話されました。若い先生には、「自分の仕事だけに集中できる、特に担任としての仕事に没入できるのは5年位だから思い切って没入するといい」と、アドバイスされているそうです。

さらに池田先生は「頑張って勉強したら何かが手に入る」という価値観は成立しにくくなっていて、「勉強は面白いからやる」という動機しか成り立たなくなるだろう、とお話しされ、「成長は目標ではなくご褒美。そのためには、自己投資をする必要があるが、消費はしても投資はしない人が多いのではないか」と指摘されました。

藤原先生は「今も一定の人は積極的に自己投資し続けている」「学校のあり方が大きく変わっていっている中で、これまでとは違う新しい成長モデルが必要ではないか」と話されました。

お二人には楽しみながら力量形成されてきたという共通点があります。教師の学びも「面白いからやる」という動機が一番なのかもしれません。

話題提供Ⅱ「中堅期の充実を求めて~地域と学校教育の接点~」

再び藤原先生のお話に戻ります。2011年頃から2022年に『オリジナル地域教材でつくる 「本気!」の道徳授業』(小学館)を出版するまでの約10年間に取り組んだ「地域教材」の開発のお話でした。異動や環境の変化に戸惑い、辛いこともあったそうです。山に登ったり、まちづくりの活動に参加したりする中で面白い人たちに出会い、ゲストティーチャーとして学校に来てもらったそうです。「地域にあるものを学校に持ち込むと面白い」と気付き、たくさんの教材や授業を開発されました。

そして藤原先生が函館という地域教材を生かして作った、土偶、中島三郎助、碧血碑、図書館、日本最古の観覧車などについての模擬授業を体験しました。初めて知ること、なぜだろうと考えることがたくさんありました。函館に行きたくなり、自分もこんな授業を作りたくなる、そんな時間でした。

対談Ⅱ「“自分のコダワリ”をどのように具現化するか」糸井登✕藤原友和

糸井登✕藤原友和
撮影/平井良信

対談パート、今度は糸井先生との対談です。糸井先生は、総合的な学習の時間が導入される頃にゲストティーチャーを呼ぶ実践を始められました。それまでは、自分が好きなことと学校の教育は別だと考えていましたが、藤川大祐先生(現千葉大学)の「子どもたちが好きなこと、教師の興味があることに取り組めばいい」という助言で、ダンスや音楽を取り入れました。

そして「とにかく、一流の人に来てほしい」と、学校に秋吉敏子さん(ジャズピアニスト)をお呼びしたエピソードを話されました。「この経験で、一生分の勉強ができた」と糸井先生。「計画したことをその通りにやったら、成功はするけど面白くはない。まったく思ってないことに対処していくことで成長する」と話されました。まさに「コダワリ」を具現化したエピソードに、会場は聞き入りました。(参考図書:『糸井登―エピソードで語る教師力の極意』

話題提供Ⅲ「ベテラン期の迎え方~ポジション、生成AI等の最新動向と向き合う~」

みたび藤原先生のお話に。ベテラン期に一歩足を踏み入れつつある藤原先生。これまで以上に新しいことに挑戦されています。

修学旅行で訪れた青森と、自分たちの住んでいる函館との比較レポートの実践を紹介されました。生成AIのサンプル文を提示し、「まねをして書いてもいいが、ChatGPTが知らないことや自分の体験を入れること」と条件を出しました。書き上げたレポートのサンプル文との一致率を生成AIで判定したそうです。「生成AIはきっかけ。心が動いて書いたものは生成AIを凌駕する」と話されました。子どもたちのレポートからは「熱」と個性が感じられました。「情報」に「体験」を乗せて「思考」すること、教える教師から学びの伴走者として本物に出会わせる教師としての在り方の変化が必要ではないかと話されました。

「生成AIを使うための授業」ではなく、「やりたいことを生成AIに手助けしてもらう授業」でした。構想、準備が緻密で驚きました。

鼎談「VUCAの時代にどうキャッチアップするか」藤原友和×池田修✕糸井登

最後は池田先生・糸井先生との鼎談に。糸井先生はZoomなどでゲストを学校に入れる可能性が広がってきたので、様々な人と学校づくりを進めたいと話されました。

池田先生は、「目が不自由ならメガネ、足が不自由なら車いすがあるが、知力をサポートする概念はあまりなかった。生成AIでサポートできるのではないか」「ユネスコ学習権宣言には、学習権は読み書きの権利であり、基本的人権であると書かれている。言葉を読む、話す、書くことをサポートするという生成AIの使い方があるのではないか」と話されました。作文指導を例にあげ(参考図書:『作文指導を変える つまずきの本質から迫る実践法』)、十分に指導されず困っている子に「生成AIに頼るな」と言うのではなく、使い方を考えるといい、と述べられました。

「わからないから禁止するのではなく、わからないからこそどう使えばいいかを考えさせて体験させることが学校の役割ではないか」「分からない状態で教えることにどこまで教員が耐えられるだろうか」と話が尽きません。あっという間に予定時間いっぱいになり、「続きは来年」ということで終了しました。

教員採用試験の倍率も下がり続ける中、教師の力量形成は課題となるでしょう。3人の先生方には、「好きなことをやってみる」「違うものと違うものを結び付ける」「面白そうだと感じたことをやってみる」など共通点がありました。自分が面白いことを力量形成にどう結び付けるか、若い先生方が多様なモデルから安心して学べるためにどうするか考えていきたいです。

藤原友和×池田修✕糸井登
撮影/平井良信

次回予告:苫野一徳先生×荒木寿友先生デュオセミナー

さて、次回の明日の教室は7月6日(土)開催、明日の教室デュオセミナー「『哲学×道徳』で見えてくるこれからの学校づくり」です。昨年、延期になってしまった苫野一徳先生×荒木寿友先生お二人によるデュオセミナーです。

苫野一徳先生、荒木寿友先生のお二人に登壇いただき、哲学や道徳の観点から見た子どもを主体とした学校づくり、教員に必要になってくる資質等についてお話いただきます。これからの学校、学級を考えていく時、お二人の先生のお話からたくさんのヒントが得られるのではないかと考えています。

「デュオセミナー」の趣旨は、同じテーマを親和性の高いお二人の講師に語っていただくことで、そのテーマをさらに深く広がりのあるものにしていくことにあります。糸井先生によると、講師のお二人には事前にテーマは投げ掛けていますが、内容は共有されていないそうで、ライブでのやりとりが楽しみです。

明日の教室セミナー開催予告】
『哲学×道徳』で見えてくるこれからの学校づくり
講師:苫野一徳(哲学者・教育学者)×荒木寿友(立命館大学大学院教職研究科教授)

日時:2024年7月6日(土)13:30~17:00
会場:新学社5F会議室(京都市山科区)
詳細・お申込は下記リンク先にて
↓↓↓
https://peatix.com/event/3896078/view

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