樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯5 北海道白老郡白老町立萩野小学校「笑うから楽しい」「時計の時間と心の時間」(第6学年)の授業
カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第5回。今回のカバTは、北海道白老町を訪れました。
執筆/樺⼭敏郎 KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)
目次
【第5回】北海道白老郡白老町立萩野小学校
「笑うから楽しい」「時計の時間と心の時間」(光村図書第6学年)
授業者:澁谷吏樹丸教諭
訪問日:令和6(2024)年5月29日(水)
訪問の概要
白老町立萩野小学校は、小生の科学研究費助成事業(略称、“科研”)における研究調査校として協力をお願いしている学校の一つです。同校は本年度から研究をスタートさせ、初めての公開授業となります。白老町内全小・中学校の先生方などが計90名も集い、凛とした空気感あふれる広い体育館での授業公開でした。
授業者の澁谷先生は同校の研究主任であることから、その一挙手一投足に注目が集まりました。
6年1組の児童は計17名。緊張感につつまれながらも、実に生き生きとした学習活動が展開されました。本時は単元全体の中盤(4/7)、教材の本論部に提示されている複数の事例について検討する段階でした。
Good Practice〜授業の花まるポイント(全7時間中の第4時)
シーン1:単元全体としてのまとまりを意識した、本時の位置付け
教科書教材は、「笑うから楽しい」「時計の時間と心の時間」の2教材で構成されています。
「笑うから楽しい」は練習教材として位置付けられ、そこで習得した知識・技能を本教材「時計の時間と心の時間」で活用するという構成です。澁谷先生が設定した単元名は「主張や事例に込められた意図を読み、それに対する自分の考えをまとめよう」でした(下の写真1参照)。
単元のゴールは、「時計の時間と心の時間」の主張と事例を要旨としてまとめ、それに対する自分の考えを伝え合うことでした。単元の導入部(第1ステージ)の2単位時間は、「笑うから楽しい」の主張を捉え、事例の意図を考えていくことからスタートし、単元全体のラーニング・マウンテンが構想されていったとのことでした。
本時(4/7)は展開部(第2ステージ)の中盤で、前時で捉えた「時計の時間と心の時間の定義」と「事例の内容(概要)」の確認の上に立った、四つの事例についての深掘りの時間でした。
本時のめあては、澁谷先生のリードのもと、「主張と事例に注目して、筆者が複数の事例を挙げた意図を考えよう」となりました。写真1のとおり、次時の「筆者の主張について、自分の考えをまとめる」ための前段階の位置にあり、“クリア(花丸)”を添えることで本時の位置も視覚的に捉えることができています。各段階での学習を一つ一つクリアしていくことで、単元のゴールに向かうプロセスを教師と児童が共有できる、ラーニング・マウンテンの有効性を再確認することができました。
シーン2:練習教材「笑うから楽しい」での学びを構造化して、本教材へつなぐ
光村図書出版の説明的な文章には、練習教材と本教材の2教材で構成されたものがあります。習得から活用の流れを企図したものでありましょう。文字どおり、練習教材は、本教材の読みにつながる前段階としての“練習”として位置付けられます。
澁谷先生は、練習教材「笑うから楽しい」の構造と内容を模造紙に整理し、それが本教材とほぼ同じであることを視覚的に捉えることができるようにしていました(写真2、写真3)。
本時では、本教材「時計の時間と心の時間」の構造と内容が既に理解されていることが前提であったので、こうした習得から活用の流れを丁寧に踏んでいくことが重要であると考えました。
シーン3:複数の事例の意図として、その提示の順序へ注目
写真2のとおり、練習教材「笑うから楽しい」では、“事例がない”、“事例の順序が逆”という二つの観点で分析的な読みを進めています。事例は主張を支える理由として必要であることを捉えるだけでなく、提示していく順序には意図があることに気づかせているのです。そこには、「簡単な実験から科学的なことへ」と記述されていますが、こうした気づきは、「読むこと」の領域ばかりでなく、「話すこと・聞くこと」や「書くこと」の領域でも活用されていくでしょう。
本時では写真3のとおり、澁谷先生は四つの事例の順序が、分かりやすい内容から経験、そして実験へと配置されていることを丁寧に板書で押さえていきました。
そして、まとめへとつないでいったのです。まとめは、練習教材と同様に「筆者は事例を挙げることで、自分の主張に説得力をもたせている」となりました(写真4)。めあてと整合したまとめになっていることが分かります。
Advice 〜エールを込めてアドバイス
ラーニング・マウンテンは、単元の目標を子どもにも示すことを重視しています。
言語活動を通して指導事項を指導しようとするとき、ラーニング・マウンテンの頂上に示す3観点の目標(評価)の文言一つ一つに対する指導を、いつ、どのように行うのかを強く意識することが大切です。そして、本時は前時とどうつながり、次時へどのような足がかりとなっていくかを自覚的に学んでいくことが大切です。こうした点について、澁谷先生に大きく次の2点を助言しました。
1 知識・技能(わかること・できること)をもっと重視すること
写真1のとおり、ラーニング・マウンテンの“わかること・できること(知識・技能)”には、「原因や結果などの情報と情報との関係について理解する」とあります。これは取り立てて指導するだけでは不十分です。練習教材及び本教材では、本論部に提示された事例の中に「原因」と「結果」があります。それぞれの事例ごとに、「~だから、…になる(なった)」「~経験が、…状態になる(なった)「~実験によると、…結果になった」などを図や表に整理することで理解が進むことでしょう。ICT活用でツールも活躍できます。原因や結果を表す言葉は多様であることにも気付くことでしょう。
第2ステージ後半から第3ステージにおいて、自分の経験を想起させる学習が用意されています。その際、「原因」と「結果」という観点からそれぞれの事例を取り上げるようにするとよいでしょう。
「原因」という情報、「結果」という情報を分かりやすい言葉に置き換えて指導していくことで、国語科の学習が他教科等にも生きて働くことになります。
2 本時の学びを前時までの学びの上で積んでいくイメージを高める
写真4のとおり、本時の“めあて”は「主張と事例に注意して、筆者が複数の事例をあげた意図を考えよう」というものでした。これに対する“まとめ”は前述したとおり、確かに整合していました。
ただ、ここで注視したいことが、練習教材「笑うから楽しい」での学習のまとめです。
本教材の本時のまとめは、練習段階でも同じようなまとめになっています(写真2)。練習教材から本教材への流れの中で、言い換えるとラーニング・マウンテンを登っていくことで、前時までの学びに、どのような力が付加されているかが重要です。確かに、どちらも筆者の主張に説得力をもたせるものなのです。そのことは、少し乱暴な表現になりますが、“容易に理解することができる”のではないかと(写真5)。
主張と事例はそうした関係にあることは、練習教材「笑うから楽しい」で学んできました。
本教材では、それをどのように強化したらよいのでしょうか。小生は、澁谷先生に対し、本時のめあては次のようにしたらどうかと助言しました。
「(筆者が提示している)複数の事例の特徴を整理し説明し合おう」
複数の事例にはどのような原因と結果が盛り込まれ、その説明の仕方は読者に対してどのように工夫があるのかを検討すること、さらに、複数(四つ)の事例の順序にどのような意図があるのかを吟味することで、一層賢い子どもが育つと助言しました。
読者の中には、「高度だなあ、難しいなあ」と考える方もあるでしょう。
その場合、事例1だけを取り出し、そこに含まれる原因と結果、事例そのものが体験か実験かの区別などを教師が実際に説明してみせるとよいでしょう。そして、なぜ、事例1を最初に配置したのかを説明するのです。きちんと教師が教えるのです。教師が子供になったふりをして、どのように思考し判断したかを、思考発話として表現すること、つまり、その脳内作業を開示することは大変効果的です。それを、モデリングと呼びます。
事例2以降は、自分の力で読み取っていくようにし、困難な場合は個別に支援していくと効果的です。
〜旅のこぼれ話〜
白老町には、“ウポポイ”(民族共生象徴空間)があります。アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターとして、長い歴史と自然の中で培われてきたアイヌ文化をさまざまな角度から伝承・共有するとともに、人々が互いに尊重し共生する社会のシンボルとして、国内外、世代を問わず、アイヌの世界観、自然観等を学ぶことができるよう、必要な機能を備えた空間です。
「ウポポイ」とは、アイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味します。今回の研究会では「歌う」という行為自体はありませんでしたが、多くの方が集い、一緒になって学びを共有する空間は、「歌う」と重なるものがありました。とても有意義でした。
「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“⼭登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。
「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。そして、マウンテンの頂上に⽴つ⼦どもたちの学びは、教師が教えたいことを越えていく可能性を秘めているのです。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して、最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。
※この連載は、月に数回更新予定です。どうぞお楽しみに!
イラスト/大橋明子
かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。