教室で子どもの物がなくなった時に教師はどうすべき?【ぬまっち流】
斬新な授業で、子どものやる気をグングン引き出すカリスマ教師「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生が、先生のお悩みに答えてくれます。
今回のテーマは、「ものがなくなる」「手が出てしまう」などの学校でありがちなネガティブな状況を、教師の声かけでポジティブな学びに変えていく方法を伝授します!
目次
トラブルに対し、あえてポジティブな声かけをする
友達とのトラブルや、嫌な出来事など、一見ネガティブに思えるようなことでも、叱ったり、否定するのではなく、意図的にポジティブな対応をすることで、より効果的な指導ができることがあります。
例えば、学校でありがちな「物がなくなりました」というトラブル。持ってきたはずのものがなくなった時、多くの場合は、どこかに落としてしまったり、他の荷物の中に紛れてしまっていたりするのですが、「誰かが隠したのではないか」といった疑いがかかると、途端にネガティブな出来事となってしまいます。
ボクのクラスでは、「うちのクラスに、人のものを隠すような子はいないでしょ?」と言って、その前提で、子どもたちが楽しみながらそのトラブルを解決するような工夫をします。
まず、子どもたちが好きな探偵もののドラマの音楽をかけて、「今からみんなは探偵です。Aさんの手袋がどこにあるのか、探偵になったつもりで推理しましょう」と声をかけ、Aさんから明るく事情聴取します。
「なくなったのは、いつ、どこだと考えられますか?」
「特徴は?」
「最後の目撃情報は?」
など、情報を集め、みんなで捜索会議をし、今度は「踊る大捜査線」のテーマに合わせて、捜索開始。発見されたら、発見された合図であるRPGゲーム「ファイナルファンタジー」の『勝利のファンファーレ』を流し、捜索終了。
なくしてしまった子には、「見つかってよかったね。でも次は気を付けようね」とひとこと伝えれば、ネガティブな気持ちをもつことなく、素直にその指摘を受け止めてくれるでしょう。
ネガティブな感情との上手な向き合い方を教える
お家で、めんどくさいからと後回しにして家族に叱られることが多いことを取り上げて、「めんどくさいモンスターをたおせ!」という話合いをしたこともありました。
自分の中の「めんどくさい」という感情とどう向き合い、どうやって克服するのかを話し合った。
また、イライラした気持ちとどう向き合うのかという話合いをしたこともありました。
「イライラしても我慢しなさい」
「喧嘩はダメ」
と言われても、子どもはすぐにイライラするものです。そこで、「イライラコップ」という言葉を使って、どうしてイライラするのか、子どもたちの意見を聞き、イライラしやい人と、あまりイライラしない人との違いや、イライラした時にどうすればよいのかについて話合いをしたのです。
実は、この話合いは、ある男子が、上級生と喧嘩をしてしまったことがきっかけでした。喧嘩の最中、上級生が手を出した時、ボクが「君はやり返すな。ボクがやり返すから、今はやり返すな」と言ったところ、本当にその子はやり返さず、我慢することができました。普段は喧嘩が強くて手が出るのが早い子なのですが、どうして我慢できたのか気になったのです。
男の子に何がきっかけで我慢できたのか、その時の感情をコップを使って説明させると「ぬまっちが僕の代わりにやり返してくれると言ったから、イライラのコップにふたをした」と言っていました。その出来事も含めて、「イライラってなぜ起きるんだろうね」ということをコップの絵を描きながら話し合い、感情を言語化していったのです。
まず、「嫌なことがあると、ネガティブな気持ちがイライラコップに溜まっていく。ただ、コップには小さな穴が開いていて、時間が経つとイライラは少しずつチョロチョロと外に出ていく。しかし、出ていく量よりも、入る量が多くて、それが溢れてしまう時に『爆発』してしまう」、という怒りのシステムを説明します。
そして、「イライラコップの大きさは人によって違うし、穴の大きさも違う。また、『取り付け式の穴』というものがあって、それを刺すと大量のイライラがどっと外にでることがある。それがリフレッシュだったり、自分の好きなことで気分転換することなんだ」と解説。そうやってイライラの仕組みがわかったところで、みんなの「取り付け式の穴」ってなんだろうと聞いてみます。そうやって、イライラした時の解消法を一人一人に見付けてもらうのです。
イライラしたときの感情をコップを使って解説。イライラした感情を受け止めるコップの大きさは人によって違うことを学び、我慢して乗り越えた時には、コップ自体も大きくなるということを伝えた。さらに、どうすればイライラの気持ちを溜めずに逃がすことがでるのか、自分にとっての「取り付け式の穴」を一人一人考えさせた。リフレッシュできる「取り付け式の穴」がたくさんあると、爆発することが少なくなるという話をすると子どもたちは大いに納得してくれた。
ネガティブな感情は誰にでも起こるもの。トラブルもなくなることはありません。叱る前に、もっとポジティブな対応策がないか考えることで、「ネガティブ」を「ポジティブ」に変えることができるのです。
取材・文/出浦文絵
沼田晶弘先生
1975年東京生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に、『one and only 自分史上最高になる』(東洋館出版社)等がある。
『教育技術 小一小二』2020年1月号より