堀田龍也先生のEDIX講演レポート:変わる学校、変わる学び方〜次期学習指導要領を見据えたICT活用と授業改善〜

関連タグ

東京学芸大学教職大学院・教授

堀田龍也
教育の情報化の最新動向

2024年5月10日にICTの教育利用に関する展示会「EDIX2024」にて行われた、堀田龍也先生(東京学芸大学教職大学院教授)の講演レポートです。今後の教育を考える上で、ICT活用がなぜ必要になってくるのか。来るべき学習指導要領の改訂を見据えて、何をどう変えていったらいいのか。分かりやすく説明いただきました。(取材/文:村岡明)

教育格差の実態

地域格差は取組具合の「差」でしかない

先日、文部科学省が、子供たちの英語力について記者会見を行いました。この内容を日経新聞が5月9日に報じています。記事の見出しは「中学3年生の5割、英検3級相当 改善も地域差大きく」となっていました。

こうした調査の報道は、たいてい「地域間格差が問題」というタイトルになります。ICTに関してもよく言われます。けれどもこれは「格差」ではなく「差」なのです国は自由化を進めているので、各学校や地域の判断で積極的に取り組んでいくことができるようになっています。この取組具合の差が「格差」と呼ばれているだけなのです。

たとえば当たり前に外国人を見る地域と、めったに見ない地域とでは、英語教育のリアリティという面では大きく差があることでしょう。地域差だけでなく、教師の差もあります。記事には「生徒の英語力の差は、教える側の英語力に影響している」と書いてありましたが、これは ICT の面でも同じじゃないかなと思うんです。

ICTも、活用度合いの地域間格差がしばしば問題視されます。これも英語同様に、教員自身がどれくらいデジタルになじんでいるかというのは、かなり大きく作用するんじゃないでしょうか。たとえば今、これだけ生成AIが話題になっているのに、まだ1回も使ったことがないという先生は、結構いるんじゃないかと思います。

講演会場の様子
650名の定員は満員。開場前に座席はほぼ埋め尽くされた。注目の高さがうかがえる。

デジタル教科書は配付されたけれど

一方で、5月8日の日経新聞には「教育進化論・デジタルの大波」という連載記事が掲載されていました。話題は教科書のデジタル化で、エストニアの例が紹介されていました。同国ではデジタル教科書が10年前に導入され、クラウド上で学校と教科書会社が匿名化されたデータを共有して、最適な学びを探っているそうです。

これを日本でもやってほしい、という人は結構います。けれども、そう一挙には進められません。日本の教科書制度は非常にきっちり作られているので、変更には法律改正など多くの手続きが必要なことや、国が費用を負担して英語などのデジタル教科書を提供しても、あまり使われないという現実もあります。

とはいえ、進んでいないわけではありません。デジタル教科書の議論が始まって約10年。国や教科書会社の努力で、データの活用に向けて着実に進んでいます。教材会社も対応を進めています。どうか長い目で見てください。

次期学習指導要領とICT環境

学習指導要領改訂の議論は今年から始まる

大きな変わり目は次の学習指導要領になるんじゃないか、と思っています。現在の学習指導要領は、コンピテンシーベースになるなど、大きな考え方の変化がありました。この考え方については、次の学習指導要領でも大きく変わらないのではないかと思っています。

大きく変わったのは学習環境です。全国どこの学校にもちゃんと1人1台、端末が届いています。自治体によって利活用されているかどうかに差はあるものの、次の学習指導要領は間違いなくこのデジタルの学習基盤を前提としたものになるでしょう。各自治体の対応力が問われています。

新しい学習指導要領は2030年頃にスタートします。これはおそらく、2027年頃に告示されます。中教審からの答申がその前年で、中教審では2年くらいかけて議論されますから、議論のスタートは2024年、つまり今年です。今の中教審の議論は全てガラス張りなので、オンラインで見ることができますし、議事録もすぐにWebに掲載されます。各自治体においては、ぜひ中央の動きを把握して対応してください。

少子高齢化を見据えた業務デジタル化の必要性

人手不足は、多くの自治体で実感されつつあることだと思います。例えば宅配便が時間通りに来ないとか、コンビニエンスストアの店員が外国人とか。学校現場でも、産休に入った先生の代わりが見つからなくて、教頭先生が代わりにやるみたいなことが普通に起こっています。

労働人口が減少するということは税収も減るということですから、税金で給料をもらう人は、そう簡単に増やせないということになります。人が増やせない中、それぞれの働きやすさを担保しながら、どうやって学校を回していくかということが、管理職の腕の見せ所になります。ただこれを、ICT抜きでできますか?ということです。

こういう話をすると「校務支援システムを入れたら、かえって働きにくくなった」と言われることがあります。しかしよく調べてみると、システムではなくネットワークの回線速度の問題や、役所のネットワークのセキュリティポリシーが問題だったりします。学校の業務効率化は、自治体がどれくらい教育に理解があるか、業務のデジタル化がどれくらい進んでいるか、といったところがポイントになりそうです。

大学入試改革と求められる学力

大学入試の変化から見えること

2021年に産経新聞で「大学は今年から全入時代に」と報じられました。つまりすでに一昨年から大学は、選ばなければ必ず入れる時代になったということです。これは大学入試の位置づけが変わったことを意味しています。つまり、従来は入試といえば「点数を多く取ること」だったのに対して、今は「自分が学びたい中身と大学とのマッチング」になったということです。

事実、大学入試においては一般選抜の割合が着々と減っていて、私立大学はすでに6割近くが総合選抜または学校推薦型となっています。私が3月までいた東北大学も、現在AO入試で3割ぐらいの学生を取っており、今後さらに増やしていく方針です。

大学に入ってからよく勉強し、伸びる人は、AO入試で入ってきた人なんです。一般入試で入った人は、大学合格がある種のゴールになってしまう一方、AOで入った人は勉強したいことが明確だからでしょう。このように入試が大きく変わっていることを、学校の先生方には理解いただきたいと思います。

「学力」の考え方が変わっている

PISA(OECD[経済協力開発機構]が行う世界的な学力調査)で測られている学力は、数学・科学・読解力の3つです。このうちの読解力は物語文の読解で身につく力という意味ではありませんいろいろなテキストや図版、動画などをちゃんと受け取って、実用に役立つような解釈利用ができる能力のことです。

日本はこの読解力が、他の学力と比較して下がっていたけれども、それが今回ちょっと回復しました。しかし「自律学習を行う自信はあるか」という問いに対して、自信がないと答える生徒が多く、OECDの中で日本は34位(37カ国中)でした。この激動の時代に、自分で学んでいく自信のない人がどこまで通用するでしょうか。

みなさんの学校では、授業中に先生がずっとしゃべっていて、生徒はそれを覚えて「点数が取れたらいい」といった評価をしていないでしょうか。「子供に決まった時間内で覚えさせる」といった学習モデルはもう終わっています。

そうではなくて、これからはちゃんと議論ができること、議論して学ぶことを面白いと思える力が必要です。議論して学ぶ力が身につけば、授業中に学べなかったとしても、後で獲得し直すことができるでしょう。そのためには「学ぶ力」を身につけられるような授業改善をしなければなりません。これは文部科学省がそう言っているから、というわけではなく、世界的な動向なんです。

自己調整学習

「自己調整学習」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、アメリカの教育心理学者ジマーマンがやった研究で、我が国の学習指導要領もこの考え方が取り入れられました。

これは英語ではSRL(Self-regulated Learning)と言います。 regulatedというのは、この場合、制約とか自律という意味です。自分で自分を制約する、自立した学び手を育てるための学習ということになります。

これは国語でも数学でも理科でも英語でもない学習です。けれども、すべての教科で必要な態度であり、考え方であり、どの教科等でも身につけられる力であり、どの教科等でも発揮できる力であるということになります。

こういうことを学習の基盤として、日本では言語能力と情報活用能力と問題発見・解決能力という風になっています。なので「子供に決めさせていますか?」というのが、授業研究の大きな課題となっています。変化が激しい社会では、先生が知っていることを伝えるような教育では、もはや乗り越えられません。

全国学力・学習状況調査から見える課題

村岡明

取材・文/村岡明
埼玉大学教育学部卒。国語教科書編集者を経て、ソフトウェア開発会社にて「ジャストスマイル」など教育ソフトを多数企画し、事業部を率いて全国の自治体・学校での採用を実現する。その後、独立して教職員向けのネットマガジンを創刊。ソフトウエア開発、Webサービスの開発は20年以上の経験がある。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました