ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #24 「Goal 12 つくる責任 つかう責任」を学ぶ授業|宗實直樹 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #24
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「つくる責任 つかう責任」を学ぶ授業実践提案をお届けします。ご執筆は関西学院初等部の宗實直樹先生です。

執筆/関西学院初等部教諭・宗實直樹
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

兵庫県宝塚市にある関西学院初等部の宗實直樹(むねざね・なおき)と申します。社会科を中心に実践研究を進めていますが、本稿では私が2021年〜2023年に兵庫教育大学大学院修士課程(芸術表現系教育コース美術分野)で学んだ内容について紹介します。
以下、子どもたちが本当に心を込めて〈ものつくり〉をしているのか、そしてその〈ものつくり〉が持続可能なものであるかどうか、という問題に焦点を当てて考えます。同時に、この問題に取り組む中で、持続可能な開発目標(SDGs)の視点を結びつけます。これらの考えをもとに、20世紀の美術から得た新しい技法やレッジョ・エミリア・アプローチからインスピレーションを受け、これに近いアプローチを採用した図画工作科の授業実践を紹介いたします。これは、先行実践をもとに考察するもので、私自身が実際に行ったわけではない点はご容赦ください。

2 ESDとSDGs

ESD(Education for Sustainable Development)とは、2002年に南アフリカのヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」において、日本が提唱した考え方です。
これは、環境的、経済的および社会・文化的視点から、より質の高い生活を次世代も含む全ての人々にもたらすような開発や発展を目指す教育であり、持続可能な未来や社会の構築のために行動できる人材の育成を目的とします。

SDGsのGoal 12「つくる責任 つかう責任」の説明
(図1)つくる責任 つかう責任

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月にニューヨーク国連本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」にて採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
ESDとSDGsに共通するキーワードは「持続可能」です。
その背景には、20世紀以降の大量生産・大量消費の問題があるでしょう。大量生産・大量消費は人々の生活を便利で快適にしましたが、環境破壊と資源の枯渇、生産過程の複雑化、個人の均質化・没個性化等の問題を伴います。
SDGs(Sustainable Development Goals)の目標の中の12番目に〈つくる責任  つかう責任〉というものがあります。
これまでの生産と消費の形態への反省から、すべての国が、一人当たりの食品廃棄量を全体で半分に減らすこと、化学物質や廃棄物を大気・水・土壌に流れ出すことを食い止めること、3R(ゴミを減らし、再利用し、資源化すること)を促進することを目指す目標です。
衣服や食品、生活に必要なものは、地球上の資源を使って作られ、人はものを作ることを通して生活を営みます。しかし、〈ものつくり〉の資源には限りがあり、現代の私たちは、〈ものつくり〉をする人間のあり方それ自体を問い直す必要に迫られているといえます。

3  <ものつくり>と図画工作科

そもそも、〈ものつくり〉においてもっとも多いのは、道具や商品を作るための技術的・生産労働的な〈ものつくり〉です。美的・芸術的な〈ものつくり〉は、創造的な制作行為として区別されます。図画工作科教育は “創造” と関連づけられる以上、当然後者にあたるでしょう。
しかし、児童が図画工作で行う〈ものつくり〉が本当に創造的な制作行為なのか、単なる製作作業に終わっていないか、疑問が残ります。その理由の第⼀は、図画⼯作科が芸術作品をつくることを⽬的にしているわけではないということです。第⼆は、伝統的に⽇本の⼿⼯科の流れを汲んでいることが考えられます。

図2 図画工作科指導要領における「制作」の表記
(図2)図画工作科指導要領における “製作” 表記

実際、学校教育にみる〈ものつくり〉は、明治時代以降の手工科教育や、⼿本となる図画の模写すなわち臨画教育に始まります。当時の⼿⼯科の教育には、産業振興の担い⼿として、技術者や⼯場労働者、実業家を育てようとする意識が濃厚でした。
大正時代には「自由画」教育など、創作性を重視する傾向が生まれましたが、学校教育では依然として技術習得に重点を置く授業が主流でした。
また事実、図2のように現行の小学校図画工作科指導要領では、“製作” と表記しており、そこには、手指の訓練や道具の扱いといった、発達段階を踏まえた訓練教育の意図が含まれます。
“製作” の活動で思い浮かぶのは、商業的な教材キットなどを使用しての製作です。もちろん、年間を通していくつかこのような活動があってもよいと思いますが、既成教材を消費するだけの形骸化された図画工作になってしまわないかと危惧することもあります。
材料をただ消費するだけの活動になっていないかという図画工作科授業の問題点を吟味し、児童が心をこめて自分なりの表現を楽しんで「制作」するための条件とは何でしょうか。
「制作」となるための手がかりをごくあいまいに提示してみます。
1つ目に、何が美しいのかを教師が何らかの形で例⽰して、間接的に〈美〉を探るような意識を刺激したり、何のためにどのようにつくるのかというガイドを⾏ったりすることが必要です。
例えば、技術的には「細かく精緻につくる」「⼤雑把に⼤胆につくる」「そっくりに描く」「似ていないけどそれっぽく描く」、感情的には「明るく楽しく」「暗く悲しく描く」などの⾔葉かけによる指導が考えられます。
2つ目に、制作した後の使⽤⽬的をもたせることも重要です。
例えば、家のどこかに飾ることを⽬的としたり、だれかにプレゼントすることを⽬的としたりすることなどです。無意識につくっていたものを意識的に考え、⽬的意識をもち、⼼を込めて⼯夫できるようにすることです。
3つ目に、既製品を使⽤するよりも、様々な形状、材質、質感があり、多様で選択と⼯夫の余地の多い材料から制作することです。その⽅が、⼦どもたちの試⾏錯誤する姿が多く⾒られるのではないかと考えられます。

4 20世紀美術の新しい技法と表現

そこで、様々な形状、材質、質感のある材料から制作する技法として、異なる素材やオブジェクトを組み合わせて作品をつくり出す芸術形式であるコラージュ、アッサンブラージュ、ブリコラージュに着⽬します。

図3  20世紀美術の新しい技法と表現
(図3)20世紀美術の新しい技法と表現

これらの作品は、材料の形状や⾊彩、質感、⽇常の意味や記憶を想起させる既製品の断⽚という素材が、作品の表現⼒や魅⼒を⾼める役割を果たします。
コラージュ、アッサンブラージュは、20世紀において新しい芸術表現の⼿段として登場しただけでなく、⼤衆化の動向に対応して、すそ野の広がりをもたらしました。これらは決まった材料と技能に飽きた⼈々が、⾃分の感覚や美意識に基づいてどこからでも材料を⾒つけて作品を創造する領域でした。そこには当然、廃材や余剰材も含まれます。
この動向は学校現場にも次第に取り⼊れられ、児童⽣徒にも影響を与えるようになっています。
また、21世紀に⼊り、最初に述べたSDGsをはじめとする環境保全の取組のもとで、もう⼀度その波がきていると考えてよいのではないでしょうか。

5 レッジョ・エミリア・アプローチとレミダ

廃材利用と関わりのある新しい教育の動向をみるために、レッジョ・エミリア・アプローチを支える、レミダの活動にも着目します。
レッジョ・エミリア・アプローチは、第二次世界大戦後にイタリア北部の都市レッジョ・エミリア市で始まった幼児教育法です。個々の意思を大切にしながら、子どもの表現力やコミュニケーション能力、探究心、考える力などを養うことを目的としています。
「レミダ」とは、レッジョ・エミリア・アプローチの活動を支える組織・施設のことです。
キャップや空き瓶、ホースなど、各地域で無償提供された産業余剰材を集め、ストックし、それを教育現場で有効活用するようにしています。そのことから「創造的資源リサイクルセンター」とも呼ばれています。
普通はゴミとされる産業余剰材や廃材などが子どもの表現行為の材料に変わります。様々な素材から子どもたちは感覚的な刺激を受け、遊びながら考え、創造的な活動が繰り広げられます。

図4 レッジョ・エミリア・アプローチの説明図
(図4)レッジョ・エミリア・アプローチ
図5「創造的至言リサイクルセンター」レミダの写真
(図5)レミダの写真

6 図画工作科授業の実践

レッジョ・エミリア・アプローチに近似すると考えられる図画工作科授業の実践例を紹介します。
元兵庫県尼崎市立小学校の教諭、大津雅子*1が行った実践です。題材名や目標、指導計画の概略は次の通りです。

・授業題材名:「かためてカッチン・ごみDEアート」*2

場所:兵庫県尼崎市立武庫北小学校

日時:2004年5月、図画工作科授業(45分間×10回)

授業者:大津雅子(教諭)

対象:尼崎市立武庫北小学校5年生

目標:シュレッダーで裁断された紙片ごみに糊を加えて混ぜ、手で捏ねていくときの触感を味わい、また、それと身近にある廃材などと組み合わせて自分でつくりたいものを考え、工夫して立体の表現をすること。

材料:シュレッダーで裁断された紙片ごみ(4mm×40mm程度)、糊、ボンド、水、身近な廃材(卵ケース、カラースポンジ、アルミ線など)。

用具:粘土ヘラ、シュレッダーのごみを混ぜる容器など。
ただし、手指を道具のようにして使うことがこの授業では重要である。
手指や手のひらを使い、素材の触感をあじわう。

・活動計画:全10時間
(第1次)2時間
 糊を混ぜたシュレッダーごみの手触り感を味わう。
(第2次)2時間
 糊を混ぜたシュレッダーのごみや廃材を組み合わせて何ができるのか、イメージしながら制作する。
(第3次)4時間
 材料の使い方などを友達と交流してヒントを得ながら制作を続ける。
(第4次)2時間
 題名をつけ、友達と作品のよさやおもしろさを交流する。

この2004年の図画工作科授業「かためてカッチン・ごみDEアート!!」において、授業者の大津は、小学校5年生の子どもの想像力を多様に展開し高めていくために、まず触感を重要視しています。
触感を通じて物質や材料との直接的な接触を経験することで、子どもは感覚的な刺激や反応を通じて新たな発見やアイデアを生み出すことができます。触感によって刺激された子どもは、材料の特性や形状、質感などを探求し、自身の想像力を駆使して創造的なアート作品をつくり出すことができるでしょう。
このような体験は、子どもの感性や表現力を豊かにし、想像力を多様に展開させる一助となります。
また、制作だけではなく(第3次)において随時相互鑑賞の時間を取り入れ、他の子どもの作品や表現を見たり、共有したりする機会を子どもに与えています。この時間によって、子どもたちは他の子どもの作品やアイデアから多くの表現方法を得ることができます。
さらに、他の子どもたちとの対話やフィードバックを通じて、自分の作品をより深く理解し、改善することも可能となります。
子どもたちと材料の出合いから授業は始まります。大津は子どもたちの前にシュレッダーで裁断された紙片ごみや卵ケースなどの廃材を山積みにし、次のような言葉を子どもに投げかけます。
「全てごみです。どんなふうに眺めてもみんなごみです。でも、今からみんなの力でごみが新たな命に生まれ変わります。ごみと分からないようにすることができるかな? どのような活動にすればいいかなぁ」
教師の問いかけの言葉に応じて、子どもたちは、前学年で活動したようにシュレッダーのごみに絵の具や糊を混ぜてみることや、家から新たな廃材を持参することなどを提案しました。
そこでまずは、糊とシュレッダーのごみを混ぜ合わせる活動が行われました。シュレッダーのごみに糊やボンド、水を加えながら混ぜ合わせていきます。
しかし、糊やシュレッダーのごみの分量がなかなかいい具合にならず、混ぜ合わせた材料が柔らかすぎたり硬すぎたりする状態の子どももいます。子どもが想像している状態になるように糊や水を加えたり、シュレッダーのごみを混ぜ合わせたり、何度も試す姿が見られました。
その際、糊とシュレッダーごみの分量の調節を子どもたちが工夫します。そうしながら子どもたちは材料を何度も手で触る活動を繰り返します。計画は直感的で、糊混ぜシュレッダーごみを手でさわるということの意味が十分に説明されていないにもかかわらず、図6のように泥んこ遊びのような感覚で子どもたちは活動に没頭しました。

図6 糊とシュレッダーごみを混ぜている様子(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)の写真
(図6)糊とシュレッダーごみを混ぜている様子(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)

しかし、糊とシュレッダーごみを手で触ることに抵抗がある子どももいたようです。その子どもたちに対して大津は、寄り添いながら「指先から始めてみてはどう?」などと声をかけ、少しずつ触れるようにしていきました。
大津は、「材料に対する受け止め方の多様性を改めて確認しました。どの子も、快な感覚を抱いて始まるのではなく、不快な思いから始まる材料との出会いも存在するということである」*3と述べます。材料との出合いは子どもにとって様々ですが、材料との出合わせ方によって、子どもの意欲や興味関心が左右されることもわかります。
続く段階に進むと、本実践では、図7のように廃材を組み合わせて芯材をつくり、その上に前述した「糊を混ぜたシュレッダーの紙片ごみ」(以下、「糊混ぜごみ」と略記する)を付けて固め、ごみに見えないように工夫して立体に表すようにしました。
この糊混ぜごみは、手作りの紙粘土のようなものであり、子どもたちは糊混ぜごみを芯材につける際、手の平を使って力強く芯材につけたり、指先を使って穴を開けたり細かく整えたり、自分のイメージに合わせて手を動かしていました。
その際、図8のように手を動かしながら材料の扱い方について意見交換をしている様子が見られました。既製品の紙粘土よりも、どこか慣れた様子で親近感をもって糊混ぜごみを指先で扱っていた点が興味深いです。

図7 廃材を組み合わせてつくった芯材(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)の写真
(図7)廃材を組み合わせてつくった芯材(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)
図8 手を使いながら材料の使い方を交流している様子(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)の写真
(図8)手を使いながら材料の使い方を交流している様子(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)

また、大津は、図工室の後方に材料コーナーを設置し、身近にある廃材や雑多な材料をストックしています。教師はもちろん、図9に見られるように子どもたちも積極的に材料を収集していました。

図9 子どもが廃材を持ち寄っている様子(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)の写真2枚
(図9)子どもが廃材を持ち寄っている様子(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)

教師から与えられることを待つのではなく、材料から作品のアイデアを得る場合があります。
何かに使えそうな面白い形や色、質感のある素材を日常生活の中から見つけ出し、自分の作品づくりに役立ちそうな素材として集めたり選んだりする姿は、子どもが主体的に〈ものつくり〉に関わろうとしている証でしょう。
大津は、「没頭する時間の確保と、試行錯誤ができる材料の分量があれば表現活動は広がり、主体的に手を駆使した活動が展開されていく」と述べます。
子どもたちがはじめて材料と触れ合う経験を大切にし、感触や性質を探求するために十分な時間を確保することは、子どもたちの想像力を広げるための重要な要素となります。この時間は、子どもたちが材料を探したり選んだりして試行錯誤をする余地を提供するものであり、多様かつ十分な材料を用意することも重要です。これらの条件が整うことで、子どもたちは創作活動において熱心に取り組むことができます。

完成した作品は図10の通りです。観察の結果、小さな芯材の制作から始まり、これらを複数組み合わせて大規模な作品を形成するという自然な展開がみられました。
子どもたちはペットボトル、針金、ひもやリボン片など、各自が収集して持ち寄った様々な家庭ごみを巧みに結合し、さらに追加していました。
また、彩色においても個々人が独自の工夫を凝らしていることが観察されました。これらの事実から、楽しく意欲的な制作活動の結果として、高い評価が与えられるべきではないでしょうか。

図10 完成した作品をもつ子どもたちの写真
(図10)完成した作品をもつ子どもたち(2004年5月撮影、大津雅子氏より提供)

制作を終えた子どもの感想には次のようなものがありました。

初めはただのごみだと思っていましたが工夫次第でごみに見えないってすごい!と思いました。
夢中で混ぜたり、付けたり、へとへとになって試しながらつくりました。
シュレッダーのごみが無くなりそうな時は真剣に困ると思いました。

子どもたちの声から、ごみや材料に対する意識の変容が見られます。
例えば、最初はただのごみだと思っていた子どもたちも、工夫次第でごみに見えなくなることに驚きを感じています。子どもたちは材料の潜在的な可能性を見出し、それを具現化することで、ごみの価値を再評価しています。
また、子どもたちは夢中になってごみを混ぜたり付けたりするなかで、試行錯誤を重ねながら作品をつくり上げました。子どもたちは材料の特性や相互作用を探求し、自身のアイデアや技巧を駆使して表現を追求することができました。
さらに、一部の子どもたちはシュレッダーのごみが無くなりそうな時に困る様子を見せました。これは、材料の不足が子どもたちの創作活動に影響を与えることに対する関心や意識の高さを示しています。子どもたちは材料の重要性を認識し、持続的な材料の確保が制作活動の一環として重要であることを学んでいます。
本実践が行われる10年ほど前の1990年代から、環境問題はますますグローバルな関心事となっていました。国際社会では、「持続可能な開発」が人類の現在および将来の根本的な課題であるとの共通認識がうちたてられました。
大気に関しては、現在、オゾン層の破壊、酸性雨、地球温暖化など地球規模の環境問題が大きな懸念となっています。大量のごみ焼却による大気汚染、二酸化炭素の排出が地球温暖化の原因の1つであることはいうまでもありません。
近年では、ごみの減量と資源としてのごみの再利用や有効利用が重要かつ具体的な対応課題となっています。
そのような時代背景のもと、大津は小学校の図画工作科授業において、シュレッダーの紙片ごみを素材として活用する取組を行い、子どもたちに「糊混ぜごみ」という素材の感触や性質を確かめさせ、工夫しながらものをつくり表現することを指導しました。この取組は、誠実かつ内容豊かなものであり、子どもたちがごみに対する新たな見方や考え方に気づき、また、環境問題についても意識を広げる可能性があるという点で、高く評価できるでしょう。

*1 大津雅子は元尼崎市の教諭で、優れた授業を広く公開し、実践的な指導力の向上を支援するマイスター教諭として著名である。美術学会での発表や若手育成講座、幼少期の保護者との連携プロジェクト「スタートカリキュラム、アプローチプラン作成」、図画工作科教科書の編集など、積極的に活動し、美術教育の進展に大いに貢献した。
*2 大津雅子(2012)「─子どもの手─さわってドキドキ!ためしてワクワク!かためてカッチン・ごみDEアート!!」、『教育美術No.844』教育美術振興会pp. 38-42
*3 大津雅子、前掲書、p.40

7 生産と廃棄の過程

図画⼯作科の授業では、廃棄物や再⽣可能な資源を利⽤する取組は多くなっています。廃棄物の活⽤やリサイクル、再⽣可能エネルギーの利⽤など、持続可能な資源の活⽤⽅法についての学習を積極的に取り⼊れることで、⼦どもに環境への配慮や資源の⼤切さを教えることができます。
ただ、廃材を活用して制作をした後に、再びごみになるのではないかという指摘もあります。
また、制作したものを廃棄する際、廃棄物の分別やリサイクルの実践も重要な要素となります。廃棄の過程や資源と材料のあり⽅に着⽬し、作品を保存できない場合、どのように捨てるのか、廃棄の仕⽅についても考えなければいけません。制作のことだけでなく、その前後を見ていくことが必要です。
⽣産と制作、そして廃棄までの過程を意識した教育活動を⼯夫することで、児童にとっての〈ものつくり〉の意識も変わると考えます。
この点については今後の課題として、社会科とも合科的に進めていく必要もある分野だと考えています。

【主要参考文献】
北村友人・佐藤真久・佐藤学『SDGs時代の教育すべての人に質の高い学びの機会を』、学文社(2019)
松井素子「持続可能な社会を目指した図画工作科の廃材を活用した表現活動」、『教材学研究』、30巻、東京学芸大学(2019)
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編(2017)
白井春男『人間とはなにか・ものをつくる授業』、明治図書(1975)
久津見宣子『人間ってすごいね先生─子どもたちとともにつくった人間の歴史の授業─』、授業を創る社(1989)
山形寛『日本美術教育史』、黎明書房(1967)
横井曹一『手工学習原論と新設備』、東洋圖書(1927)
池野絢子『アルテ・ポーヴェラ:戦後イタリアにおける芸術・生・政治』、慶應義塾大学出版会(2016)
長坂真護『サステナブル・キャピタリズム 資本主義の「先」を見る』、日経BP(2022)
石井希代子「人を育て文化や町を創る市民参加型イベント『レミダデー』と『レッジョナラ』」、『発達』156(Vol.39)、ミネルヴァ書房(2018)
大津雅子「─子どもの手─さわってドキドキ!ためしてワクワク!かためてカッチン・ごみDEアート!!」『教育美術No.844』(2012)

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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