学級が荒れそうなとき、指導に困ったとき、迷ったとき…。再確認したい教育の至言~著名な教育者の名言に学ぶ~

連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
関連タグ

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

6月、7月は、学級経営が難しくなってくる時期です。また、新採や若手のせんせいは、無我夢中な春の時期を過ぎ、安心してくる反面、自分の指導が果たして正しいのかと考えることも多くなってくるのではないかと思います。教職を続けていく中で、ふっと不安や疑問が生まれるとき。偉大な先輩たちの言葉に耳を傾けてみませんか? 

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

青空を指差す
写真AC

1 有田和正氏の名言から

昭和後期から平成にかけて教職についた人たちの多くは、有田和正氏の講座や著書からたくさんの学びを得て、それを自分の実践に活かしたり、有田流の発問を活かして授業づくりをしたりしてきました。
学んだ内容は教材のネタづくりが多かったのですが、有田氏の教科指導は学級づくりにも密接に関係していることに気づきます。たくさんの名言がありますが、特にわたしの好きな2つを紹介します。

「君はいつも元気で明るいね」と子どもに声をかけていると、その子はいつの間にか、元気な明るい子どもに育っていく。これは「暗示」でもあるし、一つの「評価」の方法でもある。つまり、「評価の仕方」で子どもは変わるのである。

吉田松陰から有田和正まで 声に出して読みたい「教育者の名言」50『総合教育技術2015年7月号』別冊特別付録/小学館 2015年6月15日発行 p26-27

心理学で言う「ピグマリオン効果」ですね。有田氏の授業実践の中では、児童の発言や行動に対して、即座に評価をしていました。その対応力の高さは素晴らしいの一言です。機会がありましたら、是非とも視聴してみてください。
有田氏の児童に対する姿勢を思い浮かべると、人を勇気づけ価値づける「さしすせそ」に結びつきます。授業中での対応ワードとして次のようなものがあります。

※ピグマリオン効果=指導者が褒めることで、子どものやる気が引き出され、学習やスポーツなどのパフォーマンスが向上する心理効果。

:さすが  さわやかだなあ 最高だ さらに言ってみて?
:知らなかった   信じられない 質問してもいい?
:すごい  すばらしい  するどい  すべてOK
:センスがいい  誠実な答えだ
:そうなんだ そうか そうだよね そのとおり

担任がこんな前向きなワードを連発している学級は、児童が生き生きとしています。
授業を進めることだけを考えるあまり、こうした児童への声かけを忘れると、授業そのものが成立しなくなるよ、ということを有田氏は示しているのではないかと思われます。
わたしは、このほかに児童の名前を入れて、「さすが ○○さん」「○○さん センスがいい」という言い方や「へええ!」「うわあ!」「なるほど!」などの間投詞をふんだんに使ってきました。
担任と児童があまりうまくいっていない学級には、こういった言葉がありません。
つまり、評価の仕方が悪いのです。その児童のいいところをみつけたり、伸びていってほしい方向性が見えたりしたとき、すぐ声に出して評価する! この小さく日常的な蓄積が、後で真価を発揮します。

多くを伝えようとするならば、少なく教えよ。

齋藤喜博 東井義雄 大村はま 有田和正 声に出して読みたい「教育者の名言」50『総合教育技術2016年7月号』別冊特別付録/小学館 2016年6月15日発行 p18-19

この言葉は、一見矛盾しているようです。でも、深い洞察に基づいています。多くを伝えようとすると、児童は情報が増えることにより、かえって理解しにくくなります。
また、授業者は、たくさんの内容を話したり板書したりすることで、なるべく丁寧に伝授しようとしがちです。すると、話す時間も長くなり、児童は飽きてきます。
有田流では、
「このことに関して考えを書いてみて! 鉛筆から煙が出るほど早くたくさんね」
「それを一言で言うと?」
「せんせいからのお尋ねは、○○○○だけ。キミはどう思う?」
といったシンプルな指示で、児童からどんどん発言を引き出していきます。
また、児童に全体を教えてしまえば、自ら探求して学ぶ機会を奪ってしまうことにもなります。ヒントや方向性などを示し、児童自ら歩んでいく方法をとっていきたいですね。

2 野口芳宏氏の名言から

野口芳宏氏は国語教育の実践を重ねられてきただけではなく、道徳教育や学校経営などの領域でも一級のオピニオンリーダーとして活躍されています。誠実に正直に生きる、ということを基盤にする道徳教育の著作の数々は、教育を志す人々にとって道標となり、また限りない勇気を与えてくれるものです。わたしは困ったことがあると野口氏の著作や連載、全集などにヒントを求めることが多いです。
その中から、次の2つの名言を紹介します。

世の中は自分の思うとおりになんかならないし、そもそもそういうものだという大前提が必要である。このことは「だから諦めろ」ということを意味するのではない。むしろ「だから頑張れ」ということなのである。

吉田松陰から有田和正まで 声に出して読みたい「教育者の名言」50『総合教育技術2015年7月号』別冊特別付録/小学館 2015年6月15日発行 p90-91

これは、人間が社会で生きていく上で忘れてはならない真実だと思います。この言葉の素晴らしさを児童に伝え、分かち合いたくて、わたしは次のような話をよくします。
「学校生活、いやもっと大きな視点でキミたちの人生でね、思い通りにならないことや、難しいことや困難な課題は避けられないです。でも、そんなときに、どのように向き合うかが大事です。
みなさんの生き方が問われます。
世の中は様々な考えや運命によって動いています。自分の思い通りにコントロールすることはできないです。
例えば、児童会の役員になれなかった。鼓笛隊の指揮者になれなかった。運動会のリーダーになれなかった。がんばったけど100点をとれなかった。マラソン大会で入賞できなかった。
いろいろなことがあります。計画どおりに進まないことや、予想外のトラブルが発生することもあるでしょう。こういう現実を無視して、自分の思い通りにしようとすれば、ストレスを感じるし、すべてがいやになり失望を招くことになります。
そういったとき、現実を受け入れることは、決して諦めることではありません。
むしろ、自分の力で変えられるものと変えられないものを区別することが大事なのです。変えられるものに集中して努力してみましょう。うまくいく確率がぐんと上がります。運を引き寄せることもできます。困難なことが出てきても、希望を持って、前向きに努力し続けることです。
実現できなかったっていいじゃない。次いってみよう! でいいじゃない。全力でがんばればいいんだ。せんせいはいつもそう考えているんだ」
わたしの人生も、思い通りにならないことばかりでしたが、この野口氏の言葉に救われました。

好きか嫌いかは自分が決める。良いか悪いかは社会が決める。正しいか正しくないかは歴史が決める。

齋藤喜博 東井義雄 大村はま 有田和正 声に出して読みたい「教育者の名言」50『総合教育技術2016年7月号』別冊特別付録/小学館 2016年6月15日発行 p28-29

現代社会は、価値観が多様化し、何が正しくて何が間違っているか、判断が難しい時代です。
多様性を認めると言っても、では何もかもOKにしていいのか。何か指針がないと難しいでしょう。
このような現代社会において、この名言は、物事を多角的にとらえ、自分自身の価値観を確立するための指針を与えてくれるのではないでしょうか。
そこで、児童には次のように話してみてはいかがでしょうか。
「(名言を紹介したあとで)みなさんにそれぞれの視点についてお話ししますね。
『好きか嫌いか』という視点は、自分の感情や感覚を大事にしよう、ということです。自分が好きなものは、たとえ一般的には価値がないとされていても、自分にとって価値のあるものと考えていいんですよ、ということです。
『良いか悪いか』の視点は、社会的なルールや善悪に基づいて判断する、ということです。社会にとって良いとされるものは、自分が好きではないもの、やりたくないことであっても、尊重する必要があります。交通ルールなんか守らずに、自由に遊びたい。そんなことは、社会では通用しないですよね。
『正しいか正しくないか』の視点というのは、世の中には、後々にならないと評価できないことが多い、ということです。
例えば伊能忠敬という江戸時代の人は、生きている間にひたすら日本全国を歩き回り、その地形を歩数で測っていました。周りの人は、伊能忠敬が何をしているのかさっぱりわかりませんでした。むだなことをしていると思った人も多かったようです。でも、彼の死後、残したデータを集めてみると、GPSもビックリするような、とても正確な日本の地図が出来上がったのです。
このように世の中には、そのときは正しいか正しくないか分からないけれど、後になって分かる、ということがたくさんあります」。

現代の学級では、いじめ問題、学習妨害の問題、けんかなど日々トラブル続出です。そこで、こうした名言を引用して、児童の年齢学年に合わせて諭しながら指導することで、だいぶ解決できるのではないかと思われます。

3 向山洋一氏の名言から

向山氏の示す教育理論は、算数における九九と同じように、教育者が必ず身につけておきたい原理原則を分かりやすく教えてくれます。基礎がしっかりしている人でなければ応用問題は解けず、日頃から基本的な鍛錬を欠かさない競技者ほど怪我をしない、というのと同じです。
わたしは初任者の研修で指導をするとき、導入で向山氏の教えを必ず紹介させてもらっています。
向山氏の教え子の皆さんは、各地域でリーダー的な存在になったり、研究者になったりと、具体的に実践を深め伝授されていますので、皆さんも関わることがあるかも知れません。
わたしは20代の頃に学んで、その理論に命綱のように掴まりながら、長い教職という荒海を乗り切れた、という感じがします。今回は次の2つの名言を紹介します。

すぐれた授業には、リズムがある。流れるようなリズムだ。リズムは、よけいな言葉を削るところから生まれる。

吉田松陰から有田和正まで 声に出して読みたい「教育者の名言」50『総合教育技術2015年7月号』別冊特別付録/小学館 2015年6月15日発行 p32-33

授業者の話が長いと、児童たちはそれにじっと耐えることを余儀なくされます。かわいそうだなあと思います。発言もなかなかできないし、自分の思考を深める間もなく、次の問題に移っていたりして、わけがわからなくなることも多いです。
こうしたことから授業への参加意識がなくなり、何かをきっかけに離席が始まり、荒れが教室全体に伝播してしまいます。
学級が荒れてくると当該担任は、児童に問題があると思いがちですが、ちょっと待ってください。
案外、担任や授業者の長くて捉えどころのない話を延々と聞かせられることが原因だったりします。
リズムをつくれないと授業は失敗です。言葉を吟味して削っていき、「これだけ」という発問や指示に集中させること。余計な話を連発しないことで、児童は集中力を維持できるのです。
児童が集中する授業づくりのためには、教材研究を十分にこなし、ねらいをどこにおくかという戦略を立てないと難しいです。
かつて、「ヨーダせんせいの授業はおもしろい」と、何人かの児童から称賛してもらったことがあります。ネタや投げ込み方がおもしろいのかなと思いましたが、いろいろ聞いてみると、うまく乗せられているということのようでした。「リズムとテンポづくり」、そして、「ことば削り」がポイントのようです。

子どもを動かす原則はいくつかあるが、最も大切なことは「ほめる」ことである。どれほど小さな努力でも見のがさずに、ほめることである。ほめて、ほめまくるのである。「努力」を認められ、ほめられる時は、人は動くのである。

齋藤喜博 東井義雄 大村はま 有田和正 声に出して読みたい「教育者の名言」50『総合教育技術2016年7月号』別冊特別付録/小学館 2016年6月15日発行 p20-21

町内会のメンバーの方々との懇親会の席で、こんなことを言われました。
「ヨーダさんは、なんでそんなにほめるの? 我々は町内会活動をどうにかこなしているだけなのに…」
ということです。自覚がなかったので聞いてみると、
「育成会のこの活動、いいですね。小学生みんな楽しんでいました」
「敬老の日に、高齢者のみなさんにプリペイドカードをプレゼントしたのはいいアイデアですね。喜ぶ顔が目に浮かんできました」
などと言っていたそうです。
愚痴や文句が多くなるという町内会の懇親会で、こんな指摘をされたので嬉しくなりました。
褒めることは、学校内だけでなく、社会においても役立つようですね。
心理学では、「ほめる」というワードではなく、「認める」「共感する」「価値づける」というようなワードを使うことが多いですが、要するに相手の行動を好意的に評価し、アイメッセージを伝えるということでしょう。こうすれば人は動きますね。到達目標に達した児童だけを評価していたのでは、小さな努力をした児童は報われずやる気を失ってしまいます。つまり、
「宿題を最後までやり遂げたね」
「難しい問題に挑戦したね」
「図工の作品をがんばって完成までこぎつけたね」
など、行為の成果を評価するのではなく、行為やプロセスを評価し認めることが大切です。

※アイメッセージ=私は嬉しい、私はこうしてほしい、など「私(I)」を主語にして、気持ちや要望を相手に伝えること。

教育は単なる知識の伝達ではなく、人間形成です。その過程を導くわたしたちの役割は重要です。確たる視座と責任感、そして対応力が求められると言っても過言ではありません。
しかし、一人の人間の努力には限界があります。教育実践の先輩方の言葉から学ぶ、ということは、他の優れた人々の人生から得られた、知恵という果実を受け取れるということです。
その深い洞察や教訓を実践に生かすことで、よりよい教育を提供していきましょう。


  こんな問題を抱えているよこんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!

その他にも、マスターヨーダに是非聞いてみたい質問やアドバイス、応援メッセージも大募集しています! マスターはすべての書き込みに目を通してますよ!


マスターヨーダの喫茶室は土曜日更新です。


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。



学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました