義務教育の「義務」って何だろう?-義務教育の規定と原則~シリーズ「実践教育法規」~

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横浜市立大学国際教養学部准教授

阿内春生

田中博之

『規範意識』という言葉があります。それは単に法律や制度に則って行動する、というだけでなく、法律を支える道徳的原理に基づいて行動する、ということです。国の法のもとで運営されている学校機関に勤めるすべての先生にとって、規範意識は教育活動の下支えとなる大切な素養です。管理職の職務遂行時にはもちろん、昇進試験で問われる大切な知識でもあります。
本連載は、教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、そんな「教育法規」をわかりやすく解説していきます。
第2回は「義務教育」について。小学校・中学校9年間の義務教育は、法規のうえでどのように規定されているのでしょうか。

執筆/阿内 春生(横浜市立大学国際教養学部准教授)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)

【連載】実践教育法規#2

教育を受ける権利と受けさせる義務

日本国憲法第26条は教育を受ける権利だけでなく、教育を受けさせる義務を国民に課しており(第2項前段)、この実現のために義務教育諸学校が設置されています。学校教育法第17条においては、保護者に小学校などの義務教育学校に通わせる義務を規定しているため、義務教育の義務は実質的に就学義務を課していることになります。

もっとも近年、子どもたちの多様な学びの機会を確保するために、義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法、2016年)や指導要録上の出欠取扱いに関する通知(元文科初第698号)などにより、出席扱いに関する見直しが進んでいます。こうした、従来の学校という制度的な枠組みにとらわれない、新たな学びの場や機会が今後拡大していくでしょう。

保護者に義務を課しても、学校がつくられなければ義務教育は成立しません。そこで、就学義務の実現のため、市町村は公立小中学校の、都道府県は特別支援学校の設置義務を負い、これらの学校を設置することが規定されています。子どもは「満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わり」および「満15歳に達した日の属する学年の終わり」(学校教育法第17条)までの9年間、義務教育の学校に通うことになります。2006年の教育基本法改正に際し、第4条に定められていた「9年の普通教育」の規定が削除されたため、現在では学校教育法(第16条)が義務教育の年限を定めています。

義務教育諸学校では制度上原級留置(留年)も想定されているものの、運用上は年齢によって学年が上がる年齢主義がとられています。各学年で原級留置させる運用(課程主義の徹底)は、すべての国民に基礎基本の学力定着をめざす義務教育の性質からすれば、保護者や国民の理解を得ることは難しいでしょう(中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「教育課程部会における審議のまとめ」令和3年1月25日)。

学校教育法では、第21条において10号にわたる義務教育の目標を定めています。「自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度」(1号)、「我が国と郷土を愛する態度を養うとともに……他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度」(3号)、「生活に必要な国語」(5号)、「生活に必要な数量的な関係」(6号)、「生活にかかわる自然現象」(7号)、「職業についての基礎的な知識と技能」(10号)など多岐にわたります(いずれも抜粋)。義務教育の目標は多岐にわたるものの、義務教育諸学校で身につける能力は現代社会で生活する上で必須のものであり、義務教育は社会を担う市民を育成する極めて重要な役割を負っています。

不登校児童生徒への対応の充実に向けて

不登校に関する調査研究協力者会議は2021年10月から議論を進め、2022年6月に報告書を提出しました。増え続ける不登校に対応するため、同報告書では「誰一人取り残されない学校づくり」「不登校傾向のある児童生徒に関する支援ニーズの早期把握」「不登校児童生徒の多様な教育機会の確保」「不登校児童生徒の社会的自立を目指した中長期的支援」の4点を挙げています。不登校を、単に学校制度からの逸脱と捉えるのではなく、環境によってはどんな子どもも不登校になり得ることを前提とする必要があります(同報告書)。

児童生徒1000人当たりの不登校の人数については、文部科学省が「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」の中で発表しています。

もちろん、不登校にも多様な要因があり唯一解はありませんが、今より一層、フリースクールなどオルタナティブな教育機会が提供される必要があり、学校と関係団体・機関が連携する必要があるでしょう。

フリースクールのイラスト
フリースクールの場合、もとの小中学校に籍をおいたまま通うことが一般的。

『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正

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