誰一人取り残さない授業とは? 【伸びる教師 伸びない教師 第41回】

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第41回タイトル

豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「誰一人取り残さない授業とは?」です。一見、話し合いが活発になっていても、取り残されている子供がいるかもしれない意識をもち、子供たちの発言によって授業が進む授業例のお話です。

執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)

栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。

伸びる教師は一人一人を変えることで学級全体を高めていき、伸びない教師は学級全体しか目に入らない

活発に見えていた話し合いが停滞

学級担任をしていたとき、私は子供たちが活発に意見を出し合い問題を解決していく話し合いの授業に憧れていました。
子供たちの意見がたくさん出るよう発問を工夫したりディベートを取り入れたり、本を読んで有名な教師の授業をまねしたり、いろいろな方法を試しました。
話し合い活動に力を入れていくと、発言する子供が増え、授業が活発になってきました。私は、子供たちにもそのことを感じさせようと、「話し合いが活発になってきたよ」「もっとがんばって発言しよう」と声をかけ、励ましました。
しかし、数か月が過ぎた頃、話し合いが停滞してきました。話し合いはしているけれど、授業に活気がなくなってきたのです。実際に授業で発言した子供の数を数えてみると、1時間の授業で多くて学級の半数、大体は3分の1程度の子供しか発言していないことに気付きました。
しかも発言する子供は決まっていて、その他の子供たちは活発に発言する子供たちの意見を聞いているだけでした。
学級全体としては、話し合いで活発に授業が進んでいるように見えるけれど、一人一人を見るとそうではなかったのです。

イラスト イメージ

できない自分を感じる子供たち

子供たちが書いた日記を読むと、「手を挙げたいけれど勇気が出ない」と書いている子供が多くいました。
私はコメントで「がんばって」と書くだけで、手を挙げられない子供たちに対して個別に指導するまでには至りませんでした。
こうした子供の中には発言できない自分を責めたり、自分にはどうせできないと可能性を諦めたりした子供もいたかもしれません。
このように、周りの子供たちができるようになればなるほど、できない自分を感じてしまう子供が出てくることがあります。できない子供へのフォローがない私の指導は、できる子供とできない子供の差を広げてしまう指導だったのだと思います。

「誰一人取り残さない」が子供たちに浸透

つい先日、6年生の教室で「誰一人取り残さない」という掲示物を見つけました。
担任しているのは、ベテランの女性教師です。
その教師に話を聞くと、はじめはSDGsの言葉の引用だったそうですが、次第に子供たちのなかに浸透し、いつの間にか学級の目標の1つになった、とのことでした。
算数の授業を参観すると、子供たちの発言で授業が進んでいきました。教師はその舵取りをしている、そんな授業でした。また、子供たちは発言するとき、「みなさん聞いてください」と教師ではなく友達に向かって話していた姿が印象的でした。
教師は、子供の発言の後、何度か同じ質問を学級全体に投げかけていました。
「〇〇さんはこう言っているけど、みんなはその意見に納得したの?」
みんなが大きく頷けば次に進み、首を傾げる子供がいると、
「まだ全員納得していないようだからもう一度分かりやすく言ってくれる?」
「誰か代わりに〇〇さんの意見をみんなに伝えてくれる?」
と全員が納得するまで次には進みませんでした。
子供が自分たちで授業をつくっている、そんな印象を受けました。

それは、授業だけでなく行事でも同じでした。
運動会では、開会式、閉会式、会場の装飾などの企画運営を6年生の子供たちが進めていました。式の司会進行だけでなく、子供たちの発案で聖火リレーをしたり全校種目をアンケートで決めたり、子供たちの発想が存分に生かされていました。
行事の後は、教室の後ろで全員が車座になって座り、自分が成長したこと、友達ががんばっていたことなどを一人一人発表していました。
学校生活における満足度を測るQ-U(QUESTIONNAIRE-UTILITIES 楽しい学校生活を送るためのアンケート)では全員が学級生活満足群に属しているのも、こうした互いを認め合える場があるからこそだと感じました。
こうした子供たちの姿の裏には、一人一人の願いが達成できるよう声をかけながら、ノートにコメントを書きながら励まし続けていた女性教師の姿がありました。
「誰一人取り残さない」は子供たちが決めた学級の目標ですが、教師自身がそのことを意識して実践しているからこそ、子供たちはこの言葉を目標に選んだのだと思います。

「誰一人取り残さない」「一人一人と向き合う」……。
そんな言葉を聞くたび、心のどこかで「そんなの無理かも……」とあきらめている自分がいました。いくら教えてもできない子はいるから……、学級にはたくさんの子供がいるから……、時間がないから……と。
でも、全員をできるようにさせようと必死になって子供たちと対峙している教師を見ていると、自分の言い訳が一つ一つ消されていくようでした。

構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ

※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。

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