【木村泰子の「学びは楽しい」#25】人のせいにしない学びの環境をつくろう
子どもたちが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の第25回目。今回は、年度が改まるこの時期、1年間頑張ってきたが思うように行かないことだらけだったという先生にぜひ読んでいただきたい内容です。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
うまくいかないのが当たり前
本年度も終わりますね。おつかれさまでした。
どうですか。頭の中がモヤモヤして、これでいいのかと常に自問自答しているのではないですか。この1年を振り返ってもうまくいかなかったことだらけだというみなさんの声が聞こえてきそうです。
今はまさに、日本の学校教育の大きな転換期です。うまくいくわけなんかないのです。
先生たちからの質問で一番多いのは、変わらなければならないと思っているが、職員室の中では変わることに反対する声が根強くて、自分が孤立していく気がして働きづらい。意見を言っても、声の大きい人に上から言い負かされてしまう。「子どもを主語に」とは誰もが口にしながら、教員の権力で子どもを虐げてしまっている現実がある。目の前でそれらの現実を見ている自分が何も言えない。そのうちに、子どもが学校から去っていく。今のままではいけないから、学校を変えましょうと声を上げると、(面倒な教員だ…)と言わんばかりに、人事異動や役職の配置換えなどといった見える形で排除が行われる。こんな現状で、モチベーションが保てないなどの声が、最近特に多く耳に入ります。
それだけ、これまでの学校の当たり前が通用しない現実に大人のだれもが困惑している証です。ここで、あきらめないことです。
最上位の目的を見失わずに行動する
みなさんは今のご自分の学校しか分からないでしょうけれど、私は全国の人たちと学ぶ機会をいただいています。その中で実感していることは、「今、変わらなかったらチャンスを逃がしてしまう」と思うことです。
全国の先生方は確実に、これまでの学校が大事に指導してきたことが、10年後の社会を生きる子どもたちには必要ないどころか邪魔にさえなることを、みんなで問い直し始めています。対話を重ねるごとに、不必要なモノが次から次へと浮き彫りになり、そのつどみんなの合意でそれらを捨てている学校現場がたくさん増えてきています。
一方で、残念ながら学力調査の平均正答率を上げるために授業があると指示され授業を進めている学校の教員たちは、働きがいを失い、疲弊していくばかりです。
教員一人の力では何もできない無力感にさいなまれていると先生方は言いますが、そんなことはありません。どのような指示が下りてきても、そのことが「すべての子どもの学びを保障する」ものであれば行動に移せばいいし、そうではないと分かるなら行動に移さなければいいのです。
すべての子どもに学びの自由が保障されるのが「義務教育」であるように、すべての教員がパブリックの学校の最上位の目的を果たすための「学びの自由」は見失ってはいけないはずです。
人のせいにして自分が行動しない大人の姿は子どもに不安感を与えてしまうものです。
「指導」を「支援」に
この言葉も当たり前に使われるようになっていますが、「指導」と「支援」の違いは何なのでしょう。「支援」が「指導」になっていることがありませんか。
「みんなの学校」をつくるために、何度も何度もこのことをみんなで問い直しました。教員は支援しているつもりが、子どもは指導されていると感じていることが往々にしてありました。
一人の子どもが友達のものを盗った。先生たちはその子のことを配慮しながら声かけをするのですが、そのうちに「みんなオレが犯人やと疑っているやろう」とキレてしまったのです。困った教員たちは用事をつくってその子を校長室に来させました。私とその子の目が合った瞬間に「うそついてたらしんどいやん。ほんまのこと言ったらいいのに」と言うと、その子は「ほんまのこと言うたら、先生たちは怒るに決まってる」と言って、ポケットに入れていた友達のものを出して「これ、アイツに渡しておいてほしい。必ず自分でやり直しをするから」と言いました。
この様子をのぞき見していた教員たちは、自分たちと校長の違いは何なのかと対話を始めたのですが、もちろん、私にも分かりません。翌日、一人の教員がその子に教えてもらいに行きました。すると、「校長先生は何も言えへんけど、オレが困らなくなるまでそばにいてくれる」とつぶやいたそうです。
この子どもの言葉は私たち大人に強烈に突き刺さりました。私自身、そんなことを考えて行動したわけではないので、衝撃でした。
「支援」の目的は何なのか。その子が自分で決めて行動する事実がなければ「支援」とは言えないと、子どもに教えられたのです。
考えるのも決めるのも子ども自身です。
子どもが考えて判断して行動する。
失敗したらやり直せばいい。その時に周りの人の力を活用すればいいのです。この行動は、人のせいにしない学びの環境を生み出します。
短い春休みですが、たっぷりリフレッシュして新たな学びのスタートを切りましょうね。
〇今こそ日本の学校教育の転換期。あきらめず、人のせいにせず、「すべての子どもの学びを保障する」ために行動しよう。
〇子どもが自分で考えて判断して行動する。この事実をつくることが「支援」である。「指導」ではなく、真の「支援」をしていこう。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。