生活場面でどのように算数・数学が生かされるかも大事 【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第3回】

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全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!
全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第3回

前回は、宮崎県のスーパーティーチャー(小学校・算数)である中西英指導教諭が、授業づくりをしていく上で大事にしている考え方を紹介しました。今回は今、子供たちに求められる力を考えながら実践した授業を紹介していきます。

中西英指導教諭
宮崎県公立小学校 中西英指導教諭

データを批判的な目で見て判断するような授業

まず中西先生は、今回紹介する授業は完全な自分のオリジナルではないと前置きしつつ、このような授業を紹介する意図について、次のように話してくれました。

「算数・数学の学習では、教室の中にあるものを教材として学ぶイメージがありますが、実際の生活場面でどのように算数・数学が生かされるかということも大事だと思います。端的に言えば、学習が転移する場を設定するということです。特に『データの活用』のような単元では、実際に子供たちの生活に関わるデータを使って、そのような学習を行うことが可能でしょう。例えば学校生活では、身近にスポーツ大会の代表選びなどがあります。そんな場面で、どのようなデータをどのように活用するのか判断し、実際にやってみるような学習が考えられるでしょう」

実際に記者が他県で取材した中学校では、学校の運動能力テストの実データを活用して、バスケットボールの校内クラスマッチで他クラスと戦うときの戦術を考える、という数学の授業が行われていました。そのとき、中学生の子供たちは例えば、垂直跳びの結果はゴール力、反復横跳びはディフェンス力…などとデータを競技の力に読みかえていき、そのような力をもった他クラスと戦うときには、自分たちのクラスは、どんな方針で、どんな選手を選んで戦うのがよいか考えていったのです。

「もう一つ、データを批判的な目で見て判断するような授業も考えられます。データのどの部分を重視するのが妥当か、考えていくような授業で、数学的なデータを根拠にしながら、一人一人の子供たちの考え方が表れてくるようなものです。

今回紹介する授業はまさにこれで、私のオリジナル教材ではありませんが、以前、他の先生の実践で紹介されていた授業を基にして、私がアレンジして実践として行ったものです。この授業は、5年生で『平均』の学習をした後の子供たちに向けて行ったもので、ソフトボール投げ大会の代表を選ぶため、代表候補の3人の子供の中から1人を選び出していきます(資料1参照)」

【資料1】

中西先生の指導案

この授業で、代表候補と仮定した3人の子供たちは、月曜日から金曜日まで毎日1回ずつ計5回遠投を行ったことにしており、その結果の数値を示しています。子供たちは、まず学習したばかりの平均値を使って比較しますが、3人とも同じ34mとなります。そこで子供たちは代表候補たちのデータを分析的に見ていくのですが、バラつきが少なく、平均的に安定した子、1回ごとの出来、不出来のバラつきが大きい子、最も低い結果を示していながら徐々に結果が伸びてきている子など様々。つまり、子供たち自身がどのデータを重視し、例えば安定感を取るのか、最大値を取るのか、のびしろを取るのかといったことを、数学的な言葉を用いて根拠を示しながら対話し、考えていくわけです。

「先にも説明した通り、そのような生活場面で、学習が転移していく体験をさせたいということが大きなねらいの一つです。その上で、データを批判的に見るわけです。例えば、友達がのびしろのある子供を選んだとすると、『それは次ものびると考えているわけだけれど、バラつきもあるから分からないので、安定している子を選ぶべきではないか』というように、どういう根拠をもって物事を見ているのか、数学的根拠を示しながら議論できるような子供を育てたいのです。

この授業では、どの子を選手に選んだのが正解だとか、間違いだというものはありません。数学的な根拠を明確にしながら、それぞれの考え方を語ることが重要なのです。ちなみに、この単元での学習内容には最大値、最小値はありません。しかし、子供たちは選手を選択するために思考していく過程で最大値や最小値にも気付き、そうした言葉も使いながら議論をしていきました(下の画像参照)」と中西先生は話します。

ちなみに、このときの授業では子供たちは次第に結果がのびてきている子供ののびしろに着目し、選択した子供が最も多かったそうですが、平均は同一に設定しつつ、データの値を変えることで、多様な議論を引き出すことが可能でしょう。

授業の様子

PPDCAサイクルに乗せて学習を行う

表彰を受ける中西先生
2023年度の文部科学大臣表彰を受けた中西英先生。

今回紹介したような授業の必要性について、今春行われる教科書改訂や学習指導要領の解説に触れながら、中西先生は次のように話してくれました。

「現行の教科書でも『データの活用』で、身近な問題場面を取り上げて、PPDCAサイクル(problem=問題、plan=計画、data=データ収集、analysis=分析、conclusion=結論)に乗せて学習を行うとは示されています。ただし、『このPPDCAサイクルに乗せて、身近な問題を見付けて解決する』ことを子供たちが行うのは決して簡単ではありません。そこには先生方の一工夫が必要です。

例えば、先のような代表決定とか、子供主体で給食の献立リクエストを決めるといった問題場面は身近にあります。しかし、そのために自分たちでどんな手法でどんなデータをとり、それをどう分析して、どのように結論を導き出すかということは、子供たちにとってはむずかしいものなのです。その過程が先生方に任されているため、少々ハードルが高くなっているのが現実でしょう。今春改訂の新しい教科書では、少し具体的な例も示されてはいますが、授業に落とし込むための方法が今一つ見えづらいところもあると思います。だからこそ、今回のような授業実践をその入り口として取り組んでみてはいかがかと思います。

ちなみに、学習指導要領解説には批判的思考ということが出てきます(資料2参照)が、実際に授業で実現していくのは決して簡単ではありません。そのイメージをつかむ上でも、今回のような授業が参考になればと思います。

【資料2】学習指導要領解説 算数編 p70〜71より抜粋

統計的な問題解決では、結果が定まっていない不確定な事象を扱うため、データの特徴や傾向を捉えても、結論を断定できない場合や立場や捉え方によって結論が異なってくる場合もある。そのため、自分たちが行った問題設定や集めたデータ、表やグラフを用いての分析の仕方など、問題解決の過程や結論について異なる観点や立場などから多面的に捉え直してみたり、誤りや矛盾はないかどうか妥当性について批判的に考察したりすることが重要である。

【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!】次回は、3月15日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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