子供が主体的に学習活動を進めながら、ひらめきや発見のある授業をつくる 【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第2回】
全国の優秀教師が「この授業こそ、私の授業づくりを具現化したものだ」と考える授業を紹介するこの企画。今回は、前回紹介した宮崎県のスーパーティーチャー(小学校・算数)である中西英指導教諭の、算数の授業づくりの考え方を紹介していきます。
目次
子供自身が活動の中で見付けだす学習過程がとても大事
「前回、算数の授業では演繹的な学習だけでなく、帰納的な学習が大事だとお話ししましたが、私は子供たち自身が定理を発見したり、活動の中で見付けだしたりする学習過程がとても大事だと考えています。
例えば、前回と同じ場面で同じ教材を使って授業をしても、『こうなっているでしょ』と言いながら、自分で数式を並べ替えてしまうような先生もいます。しかし、子供自身が並べ替える(操作する)のと、先生が操作するのとではまったく意味が違うのです。子供たちがみんなで、『ああじゃない?』『いや、こうでしょ』と言いながら並べ替え、子供が主体的に意思決定をするからこそ、『何で、そうだと考えたの?』と発問することで、子供の考えを引き出すことができます。もし、そこに間違いがあったとしても、子供たちに問い返せば、問題点が明らかになったり、子供たちの間で修正に向けた対話が生じたりするでしょう。
私自身がこのような授業づくりをするようになったのは、地元の大学附属小学校に異動した直後の、『入魂授業(異動した教員が最初に行う授業公開)』での授業研究会で、『今日の授業は先生がやりたかった授業で、子供たちがやりたい授業ではないですね』と指摘されたことがきっかけでした。子供がやりたいことを追究するからこそ、主体的に考え、意思決定し、表現するわけで、その先により確かな理解も生まれるわけです。
『したい』が生まれる授業が大事だと提唱されている先生もいらっしゃいますが、子供自身が『こう並べ替えたい』『こう変形したい』『~したい』と思い、行為することの中に、子供の見方・考え方が出てくるわけです。それを生かし(必要に応じて修正し)、より深い理解につなげていくような授業を、私は大事にしたいと考えています。加えて授業の中で、子供が自らその学習(課題や問題)に向かっていくような主体性が生まれないと、学んだことも剥落しやすいのではないかと感じています」
実際に「教育技術」誌上で以前、取材をさせていただいた中西先生の授業でも、子供たち自身が問題に対し、操作しながら見方・考え方を働かせていく過程を見ることができました。それは3年生の『大きな数』の単元で、大きな数をどう表記すればよいかを考えていく場面で、黒板にバラバラに貼られた1、10、100、1000の記されたカードを、子供たちが「分かりやすいように整理したい」と言い、整理をしながら「大きな数」の表記の仕方や読み方などを学習していくというものでした(画像参照)。
3年生の「大きな数」の学習でも、子供たちがカードを整理しながら量感を身に付けたり、表記の大切さに気付いたりしていった。
子供の学習技能なくして、効果的な学習はむずかしい
ここまで、教材と教師の指導技術の話をしてくださいましたが、それだけでは良い授業を実現することはむずかしいと話す、中西先生。その理由について、次のように話してくれました。
「良い授業を成立させるための要素としては、先生の側の教材開発があり、先生の指導技術があり、もう一つ子供があります。その3つがガッチリ組み合わさったときに、効果的な授業が生まれるのだと思います。ここまでお話ししたのは、教材と指導技術に関わる部分ですが、もう一つ、学ぶのは子供たちですから、子供たちの力が必要だということです」
ここで言う子供とは、先生の側の子供理解のことではありません。それも重要な要素ではありますが、この場面では子供理解は先生の指導技術の一部とお考えください。
「私たちは学習技能と言うことがありますが、聞くとか、話すとか、関わり合うといった、子供たちが授業を効果的に進め、『主体的・対話的で深い学び』をしていく上でもっておくことが必要な技能があると思います。それなくして、効果的な学習をしていくことはむずかしいと考えています。
例えば、自分の考えを発表する際も、自分のノートを見ながらボソボソとつぶやいているような(大半の子供が聞き取れない)発表では、発表ではなく独り言になってしまいます。友達や先生に分かりやすく伝えるには、それなりの技能・技術が必要です。一文一義で相手が理解しやすいように話すとか、必要な道具や資料など具体物を使って説明するとか、相手の理解度や理解状況を想像しながら話すなど、身に付けるべき技能・技術が必要だと思います。そうした技能は、教師が時間をかけて育むことが必要ですし、本来ならば、学校全体で組織的に入学時から意図的に取り組んでいくことが必要なのです。だからこそ、飛び込み授業はむずかしいのですが…。
話が少しこの企画の趣旨からそれてしまいましたが、そのような子供の学習技能も育てつつ、子供たちが主体的に学習活動を進めながら、『あっ、ここはこうじゃない』『ここは、こうなっている』といった、ひらめきや発見のある授業をつくっていきたいのです」
学び合うための学習技能が育っている、中西学級の子供たち(3年生)。
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今回は中西先生の授業づくりの考え方について紹介をしていきました。次回は、これからの算数に求められる授業について、実践事例を紹介していきます。
【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!】次回は、3月8日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之