生成AI×総合的な学習の時間|小6「学級キャラクターを作ろう」

特集
続々登場! 生成AIを活用した授業

田中博之

文部科学省が2023年7月に公表したガイドラインを踏まえ、実際に、生成AIを授業にどのように取り入れていけばよいのかが気になっている先生方は多いことでしょう。主要教科で使う前に、まずは「総合的な学習の時間」での活用を考えてみてはいかがですか。連載第1回目の今回は、教師の端末1台で生成AIを操作し、深い学びへとつなげる授業の例として、東京都練馬区立石神井台小学校(町田浩一校長、512名)で行われた、6年生の授業をご紹介します。最後に、早稲田大学教職大学院の田中博之教授による解説があります。

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 生成AI×総合的な学習の時間|小6「学級キャラクターを作ろう」(本記事)

町田浩一校長と高橋蔵匡教諭
写真左から、練馬区立石神井台小学校の町田浩一校長、高橋蔵匡教諭。

生成AIへの期待と三つの要望

東京都練馬区立石神井台小学校はICTの活用を積極的に進めてきた学校です。練馬区内でも1人1台端末の使用率が高く、子供たちは毎日当たり前のように授業の中で1人1台端末を使っているそうです。
今回、授業に生成AIを取り入れようと考えた理由を町田校長に聞きました。
「私のポリシーとして、子供にも教員にも様々なことにチャレンジしてほしいのです。教員にはやりたいことがあったら、どんどん校長室に提案しに来てほしいと伝えています。そういう仕事の仕方をしたほうが、教員は輝きますし、そのような教員の姿を見て子供も笑顔になり、輝くからです。
2023年の春ごろ、ChatGPTが話題になったときに、本校のICTに詳しい教員たちが『授業の中でこのように使えます』と様々な提案をしてくれたのです。私は元々ICTの新しい技術に興味がありますので、『面白そうだ』と感じました。そこで、校内の教員の中で希望者を募り、早稲田大学教職大学院の田中博之教授のもとで研修を受け、授業に取り入れる方法を模索してきました。
ChatGPTがこれから社会にどんどん普及していく中で、学校の先生だけが取り残されるのは良くないことだと思いますし、子供たちにとって楽しい授業をするための1つのツールになるのではないかと期待しています」(町田校長)

授業者である高橋蔵匡教諭にも、なぜChatGPTを授業で活用しようと思ったのかを聞きました。 
「2023年4月に本校に異動してきたのですが、ICTに詳しい教員と話をする中でChatGPTに興味をもちました。子供たちにとって今後、生成AI の存在は避けて通れないものになると感じましたし、小学校で触れておくことは大事な経験になると思い、授業に取り入れることにしました」

ただ、町田校長にはChatGPTを授業で活用するにあたって、三つの要望がありました。
①子供たちの安全、つまり、人権や個人情報などを守ることです。
②文部科学省が公表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を厳守することです。
③取組を一部の教員だけで終わらせず、学年や学校全体へと広げることです。
これらの三つ要望に配慮しつつ、授業が行われました。

【1】一人一人がアイデアを考える

では、授業の様子を見てみましょう。テーマは「学級キャラクターを作ろう」です。
授業者の高橋教諭は2組の担任なのですが、今回は隣の3組の子供たちに対して授業を行いました。これは上記の要望③を意識してのことでもあります。3組のクラスの子供たちは、ChatGPTの仕組みについてすでに簡単な説明を受け、授業の中で何回か画面を見たことがある、というレベルだそうです。

授業の様子1

高橋教諭「今日は学級キャラクターを作ります。まずはキャラクターのイメージを考え、最終的には画像生成をして、キャラクターを完成させたいと思います」

高橋教諭「タブレットを起動してClassroomを開いてください。Googleフォームを送りますので、届いたら開いてください」

Classroom画面

高橋教諭「まずはみなさんに二つ考えてもらいたいことがあります。一つ目は、キャラクターのベースになるものです。動物をベースにしたいのなら犬や猫など。動物だけではなくて、野菜や物でもかまわないですよ。二つ目は、キャラクターの特徴です。例えば、どんな色を使うのか、キャラクターに何を持たせるのか、キャラクターはどんな性格なのか、などです。そういう情報もあると、キャラクターの完成度に影響する場合があります。これから3分間、思い思いに考えて、回答してください」

★田中博之教授のポイント!★
生成AIを使って「主体的・対話的で深い学び」を行うときに、してはいけないことが一つあります。それは「丸投げ」をすることです。子供の主体性をはき違えて、「自由に、好きなようにプロンプト(指示文)を考えてよい」としてしまうと、ふざけたり、社会的に不適切なキーワードを考えたりする子供がでてくる可能性があります。高橋先生はキャラクターのベースになるもの、色や持ち物、性格などの観点を与えていました。それにより、子供たちはイメージをより明確にでき、創意工夫ができていました。

子供たちは個人で考え、フォームに書き込んで送信します。
どの子も作業がとても速く、作業開始から約5分で全員が回答を終えました。このクラスの子供たちはスキルが高いことがわかります。

フォームに書き込んで送信する子供たち

高橋教諭「みなさんに送ってもらったアイデアを、ChatGPTに整理してもらえるようにお願いしました」

ChatGPT画面1

下の画像が、ChatGPTが整理したものです。

ChatGPT画面2

「にんじん」と書いた子供が複数いたのには、理由があります。10月に子供たちが移動教室に出かけたのですが、その帰りにお土産として、にんじんキャラクターのマスコットを買った友達がいたそうです。それがとても可愛くて、帰りのバスの中でみんなの人気者になり、このクラスのブームになっているそうです。

子供「にんじんだ」
子供「クリームパンもいる」
子供「にんじんのユニコーンがいい」
子供たちは画面を見ながら、つぶやいています。アイデアは「ベースとなるもの」の他に、色、持ち物、性格など、カテゴリー別に整理されていました。

高橋教諭「今、みなさんからアイデアをたくさんもらいましたが、この後はこれらのアイデアをうまく取り入れながら、3組のよさや特徴を表すようなキャラクターのイメージを、班ごとに協力しながら考えていきます」

★田中博之教授のポイント!★
高橋先生が「自分たちの学級のよさや特徴などを表すようなキャラクターにする」という条件をつけていたことがよかったと思います。そのため、よい学級にしていくために目指すことを子供たちに考えさせることができ、「元気がいい」「明るい」「笑顔」などのキーワードが出てきました。

【2】班でアイデアを固める

高橋教諭「みなさんのClassroomに、整理してもらったデータを送ります。それを見ながら、班としてベースになるものは何にするか、何色にするか、持ち物は何にするか、どんな性格にするのかを相談して組み合わせたり、新たに言葉を加えたりして、班ごとにキャラクターのアイデアを固めていってください。
15分たったらClassroomに班ごとのフォームを送ります。代表してだれか一人が、班で決めたことを送ってください」

班の形に机を動かし、3~4人ずつ、8班に分かれました。
まずは送られてきたデータをじっくり見てから、話合いが始まりました。

授業の様子2
授業の様子3

子供「にんじんがいいかな」
子供「何を持たせる?」
子供「野菜ジュースを持たせるとか」
子供「わりばしを持たせるのもいいよね」

話合いに熱中し、子供たちの距離が近くなっていきます。

授業の様子4

子供「何がいいと思う?」
子供「クリームパン」
子供「マントをつけよう」
子供「つのが2本」
子供「笑顔がいいよ」

★田中博之教授のポイント!
ChatGPTを使って、子供たちのアイデアを整理した後、子供たちにフィードバックしました。クラス全員でこれらのアイデアを共有したことにより、友達のアイデアを参考にでき、イメージやアイデアが豊かに広がりました。

高橋教諭「まだ相談中かもしれませんが、Classroomに班ごとのフォームを送ります。各項目を決定したら、代表の人がこのフォームに入力して送信してください」
子供「食パンで、マントをつけよう」
子供「黄色のマント?」
子供「それ、いいかもね」

色々な意見がでて、時間ギリギリまで各班で相談していました。
フォームを送った班から、机を元の位置に戻します。

【3】いよいよ各班の画像を生成!

残り15分になりました。

高橋教諭「各グループが送ってくれたものを見てみましょう。一旦タブレットを閉じてこちらの画面を見てください」
各班が入力した言葉が表示されました。

モニターに映し出されたスプレッドシート

高橋教諭「では、『クリエイターの先生』にお願いして、みなさんのアイデアから画像を作ってもらおうと思います」
高橋教諭が各班のアイデアをChatGPTに貼り付けます。

ChatGPT画面3

これが1班のアイデアを画像にしたものです。

1班のアイディアを画像にしたもの

子供たち「おー」
子供「いいね」

この後、各班の画像を生成していきました。一部をご紹介します。

別の班のアイディアを画像にしたもの1
野球をする猫のキャラクターです。子供たちから「かわいい」という声が上がりました。
別の班のアイディアを画像にしたもの2
卵の黄身のキャラクターで、頭にベーコンの帽子をかぶっています。この班の子供によると「イメージしていたのと全然違った」そうです。
別の班のアイディアを画像にしたもの3
ユニコーンをイメージしていたようですが、にんじんに角が生えたキャラクターが誕生しました。これを見て、子供たちは大爆笑でした。

高橋教諭「画像にしたら考えていたのとちょっとイメージが違った、という班もあったかもしれませんね。この時間だけで学級キャラクターを一つに決めないで、次の時間にもう少し班ごとにアレンジを加えてもらいます。
イメージと違った場合は、どういう言葉を加えたらより理想に近づくのかをぜひ考えてください。例えば、「角がにんじんのユニコーン」と入れてあげると、画像が変わってくるのかもしれません。
今日は素敵なアイデアがたくさん出ました。次の時間に、よりイメージに近づけていって、みんなが納得する学級のキャラクターを完成させたいと思います」

この授業の板書です。

本時の板書

この授業を振り返ってもらいました。
「生成AIを授業に取り入れる際には、ガイドラインを守って運用することを第一に考えています。ChatGPTに『学級のキャラクターを作りたいと思います。案をください』とお願いしたら、考えてくれます。しかし、それはしないで、班ごとに子供たちに考えてもらいました。人が考えることで、出来上がる画像が全然違うものになることを子供たちに感じてもらえたのではないかと思います。すべてをAIに頼らないで、その使い方を身につけることが授業として大事だと考えています。
画像を生成するときに、今回はChatGPT のDALL-E3(ダリスリー)という機能を使いましたが、瞬時に画像生成が行われ、結果がすぐに見られたのが授業のポイントになったと思います。子供たちが考えてから、画像が生成されるまでに長い時間がかかったり、次の時間にまたいでしまったりするようでは興味が薄れてしまいます。テンポよく次の画像が出せるのは、生成AIの優れているところだと思います。
それから、失敗してももう1回トライできるのも生成AIのよさです。一生懸命考えたのに、思い描いたような画像ができなかったとき、そのまま授業が終わってしまったとしたら子供にとって悲しいことです。生成AIを使えば、たとえ失敗しても言葉をどう変えればいいのかを考え、作り直すことができます。挑戦する敷居が低くなると思います」(高橋教諭)
「今日の授業では、学級のキャラクターを作るために子供たちはこうしたほうがいい、ああしたほうがいいと、とても前向きな発言をしていて、よく考え、楽しそうに取り組んでいたことが印象的でした。1つのテーマに向かって全員が話し合っている場面は最高だったと思います。ChatGPTという道具を使うことで、小学生でもクリエイターを育てるようなタイプの授業ができるのはすごいことです。

これからも色々な新しいものや技術が出てくると思いますが、教員はそれらについて常にアンテナを高くしていかないと、やがて社会でそれが当たり前のように使われていくようになります。子供たちは将来、そういう社会で生きていくのですから、いち早く情報を得た教員がまずは始めて、そこから学校全体へ、日本全体へと広めていく必要があるのではないかと思います。生成AIは面白い授業を作るための一つのツールです。様々な選択肢の中の一つとして、今後も生成AIの実践を続け、発信していきたいと考えています」(町田校長)

最後に、町田校長に、今後、生成AIを活用したいと考えている全国の小学校の管理職に向けてアドバイスをしてもらいました。
「時代の変化とともに学校は変わらなくてはいけないと思います。そのための芽は、どこの学校にも必ずあるはずです。先生たちが『これをしたい』、『あれをしたい』と思っている、その芽を摘まないで伸ばしていくことが、これからの学校教育には必要だと思います。本校の場合は、その芽の一つが生成AIを活用した授業へとつながりました。
子供たちは生成AIに非常に興味を持っています。すでに家で使っている子供もいるかもしれないのです。学校の授業に取り入れないのはおかしな話です。管理職は子供たちの将来のために新しい技術について知り、どうやって学校の中で取り入れていくのかを検討していく必要があると思います。
また、ChatGPTは働き方改革のツールになると私は考えています。例えば、『学校だより』等の原稿の添削です。私が書いた文章に対して、誤字脱字を直し、アドバイスもしてもらっています。先生方もいろいろな文章を作成するときに、同じような使い方ができると思います。このように、生成AIは授業以外の使い方でもメリットは大きく、学校にとって便利なツールになるでしょう」

<解説> 早稲田大学教職大学院教授 田中博之

教師機1台で操作する授業のモデル事例として

公立小学校で生成AIを活用した授業を行う際には、慎重さが求められます。学習指導要領と、文部科学省が作成した生成AIに関するガイドラインを遵守する必要があるからです。
今回は6年生ですから、生成AIの個人利用の年齢制限がかかります。そこで、高橋先生は教師用のパソコン1台だけでChatGPTを操作し、子供たちに回答を見せるという形で授業を展開しました。一斉授業の中で使っていますので、これはガイドラインに沿った使い方だと言えます。今の段階で公立小学校が授業で使う際には、このように教師機1台で生成AIを操作するやり方が適切だと思われます。
ただし、完全な一斉指導方式で、教師だけがプロンプト(指示文)を考えて動かし、子供は見ているだけ、という形になってしまうと、明らかに「主体的・対話的で深い学び」ではなくなってしまいます。生成AIを活用して子供の思考力や表現力、コミュニケーション能力を高めるためにも、グループワークは必要です。
今回の授業では、班ごとに子供たちが協力し、創意工夫をしてプロンプトを考えていました。教師機1台でChatGPTを扱うからといって、子供の主体性がなくなることはなく、子供のアイデアが学級のキャラクター作りに生かせていました。子供たちはとても意欲的でしたし、子供の創造力や創意工夫力、自己決定力など、様々な資質・能力を育む授業になっていました。「主体的・対話的で深い学び」につながるChatGPTの使い方のよい例であり、これから公立小学校の授業でChatGPTを使うときのよいモデル事例になったと思います。

ChatGPTの機能について

この授業では、ChatGPTの最先端の機能を使っていました。ChatGPTは、元々は文章の生成をするAIであり、扱えるのは言葉だけでした。しかし、2023年11月に大幅な改定があり、画像が生成できるようになりました。ChatGPTが画像生成ソフトのDALL-E 3(ダリスリー)と連携したからです。
ChatGPTの本来の文章生成機能を使い、新しく加わった画像生成の機能も使い、生成AIの機能を多面的に組み合わせて利用した結果、アイデア溢れるユニークなキャラクターが生成されたのです。

これから取り組む先生たちへ

公立小学校では、ただ「新しいことにチャレンジすればいい」だけではありません。多方面への配慮が必要です。

①学年の足並みをそろえる
今回の授業を行ったのは6年3組ですが、実は高橋先生が担任のクラスではなく、隣のクラスです。自分のクラスだけで新しい取組を行うのではなく、学年の足並みを揃えることは公立学校にとって重要なことです。

②保護者の許可を取る
公立小学校には多様な背景をもつ子供が通っていますし、保護者に対する丁寧な説明が求められます。

③教育委員会の許可を取る、文部科学省のガイドラインを遵守する
公立小学校では教育委員会の指導監督のもとに授業を行うわけですから、教育委員会への説明を丁寧に行うことが求められます。文部科学省のガイドラインに沿った形で、危険性を排除して授業を行うのであれば、教育委員会は許可をしてくれるはずです。

今回の授業では、子供たちはとても集中し、チームで協力して工夫し、よいところばかりが見えました。おそらくその裏では、上記のような配慮をするために、校長先生がリーダーシップを発揮されたのではないかと推測します。
リスクの管理は校長先生の重要な仕事ではありますが、先生方が「授業で生成AIを使いたい」と言いだしたときに、校長先生が制限ばかりかけると、新しいテクノロジーの活用は進んでいきません。今回のような先進的な授業を行うには、校長先生が積極的な推進役になってほしいですし、先生方もまずは校長先生を説得し、リーダーシップを発揮して取り組む必要があります。

田中博之教授

田中博之(たなか・ひろゆき)
1960年北九州市生まれ。大阪大学人間科学部卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程在学中に大阪大学人間科学部助手となり、その後大阪教育大学専任講師、助教授、教授を経て、2009年4月より現職。2007~2018年度、文部科学省の全国的な学力調査に関する専門家会議委員。現在、21世紀の学校に求められる新しい教育を作り出すための先進的な研究に取り組んでいる。『授業で使える! 教師のためのChatGPT活用術』(学陽書房、2024)など著書多数。

取材・文/林 孝美

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