教員の負担軽減のために、業務分担の在り方を再考する【連続企画 「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか? #01】

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「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか?
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教員の働き方改革を含めた環境整備により、持続可能な学校の運営体制を構築していく必要性が指摘されている。連合総研「日本における教職員の働き方・労働時間の実態に関する調査研究委員会」委員であり、現在も教員の働き方やなり手不足の実態などについて研究している油布佐和子教授に、学校の働き方改革の実態とその対策について考えを語ってもらった。

早稲田大学 教育・総合科学学術院教授
油布佐和子

1953年大分県生まれ。日本学術振興会特別研究員、福岡教育大学講師、助教授、教授を経て、早稲田大学教育・総合科学学術院教育学研究科教授。連合総研「日本における教職員の働き方・労働時間の実態に関する調査研究委員会」委員。おもな編著に『教育と社会』(学文社)、『教師という仕事』(日本図書センター)、『現代日本の教師―仕事と役割』(放送大学教育振興会)などがある。

この記事は、連続企画「『持続可能な学校』『持続可能な教育』をどう実現するか?」の1回目です。記事一覧はこちら

働き方改革の実態

2019年1月に文部科学省が発表した「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」を受けて、様々な対応が進められてきました。

答申の中では、働き方改革の柱として「時間管理の徹底」と「業務の明確化・適正化」が提示されており、2023年8月に出された文科省の「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策(提言)」の中でも、この2つの施策を徹底することが書かれています。その中でも、特に業務の適正化の一層の推進が重要だとしています。

しかし、文科省が示した学校の業務や個別の業務の実態を2023年に連合総研が全国調査した「業務の役割分担・適正化:文科省提言と実際」を見てみると、どの業務も、その達成度は5割にも達していないことがわかります。

また、2023年に文科省が調査した「教員勤務実態調査(令和4年度)」では、「平日30分程度の在校時間が減少したが、業務の持ち帰り時間が10分強増えた」と報告されています。しかし、それでも月45時間という時間外労働の上限を超える教員が相当いるという結果が出ており、結局この方向で働き方改革を頑張ったとしても、実際のところ、あまり成果は感じられていないというのが私の結論です。

早稲田大学油布教授提供

教員の業務の役割分担を再考する

この働き方改革がうまくいっていない理由として、施策そのものが教員の働く現場の実態をよく理解していないことが考えられます。その事例は、上の図の「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」を見てみるとわかります。

「負担軽減が可能な業務」の中に含まれている「給食指導」を例に挙げると、実際の給食指導では、給食係の子どもが、清潔な服装をして手洗いなどをしっかりしているか、問題なく配膳されているか、教室が食事する環境に保たれているか、具合の悪い子どもはいないか、アレルギーやアナフィラキシーは大丈夫か等々、多方面への配慮をしながら、それが時間内に収まることを求められています。

たとえば、負担軽減のために一人の給食支援員を配置したとしても、すべてのクラスの給食の業務に対応できるかというと、無理があるでしょう。学校にそういった支援員の方が一人、二人いたとしても学校全体のどこが楽になるのかは疑問が残ります。

また、給食費や教材費などの「学校徴収金の徴収・管理」の業務では、銀行振り込みが一般化したとはいえ、振り込みが遅れた家庭への連絡は、教員がするのが普通です。

確かに教員はマルチタスクですが、実際の行動まで考えると、業務の分担といっても丸ごと他に任せられることにはなっていません。また、支援員や地域の方を学校に入れれば教員の仕事が楽になるように思われますが、支援員の方の処遇や業務の分担、責任などが複雑化し、結局は、その支援員の監督業務を行うという業務が追加されます。

教員とは異なる専門家の導入ということでスクールカウンセラーが配置されるようになって長いですが、スクールカウンセラーは、常駐するスタッフではありません。ですから、スクールカウンセラーに合わせて会議を設定したり、時には、対象児童・生徒の行動等を代わって記録するような業務も発生します。

書類上では業務を分担することはできても、その業務をどのように遂行しているかという活動の面から考えると、このように簡単に分けられるわけではないのです。

しかし、義務教育が文字通り無償化すれば、「学校徴収金」という問題はなくなるわけですから、その管理を学校や教員がする必要もありません。また、海外のように「校内清掃」をすべてアウトソーシングするならば、清掃指導という教員の業務もなくなります。教育行政の観点から検討されるべき業務も含まれており、改めて教員の業務が何かを検討する必要があります。

本務の過重化という問題

もう一つ問題として挙げられるのは、教員が本務として集中すべきところの授業時数が増えてきていることです。学習指導要領に示された「授業時数」の変化を見てみると、平成元年まで増え続け、いったん減るものの、平成30年には平成元年と同じ授業時数まで戻っています。さらに平成元年と違うのは週5日制でこの授業時数だということです。

学習指導要領に示された「授業時数」の変化(小学校)。

週6日で授業をしていたものが週5日で行われるので、当然、月曜から金曜までは、ほとんど毎日5~6時間の授業で埋まってしまいます。さらに、このほか修学旅行や発表会などの様々な行事も予定に入ってきます。

教員の病気休職者数と児童生徒の不登校数を見てみると、その増加傾向が似ています。これは要するに、学校現場が非常に窮屈であるということが結果として表れているということです。そういった状況にもかかわらず、「時間のやりくりや工夫をしてください」と国から言われているのが現状です。

特に今では時代の変化とともに、グローバリゼーションの中で学力充実が叫ばれています。ICTも含め、これまで以上に学力の向上が求められていますが、学校に工夫できる時間的余裕はなく、これはまさしく制度の問題だといえます。

働きやすい環境整備に向けた改革

教員の働き方に時間的余裕がないという問題のほか、金銭的報酬がそれに見合っていないという問題もあります。教員は、残業をしても正当な報酬が支払われていません。給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)にある月給4%の教職調整額が払われているといっても、学校で行うべき業務が増えては意味がありません。学校をゆとりのある職場にしていくのは教員ではなく、行政の責任です。学校の働き方における問題の解決策として、まずはしっかりとした給料を教員に支払うことも重要です。

教員には金銭的報酬とは関係なく、子どもたちとの関係性や授業での子どもたちの反応に喜びを感じるという方も多いのですが、教員が働く環境がますます厳しくなるなか、こうした喜びや手応えを感じられる時間も少なくなってきています。

子どもにとっても、教員にとっても、のちにいい思い出になるような大事な時間が取れないなど、学校の良い部分が時代とともになくなってきていると感じます。中学校では、熱心に部活動の指導をされる教員もいらっしゃいますが、それは生徒と触れ合いながら成長を感じることに教員としてのやりがいを見出しているからです。だからこそ、長時間労働になったとしても何も言わずに働かれてきたのだと思います。

学校現場ではどんどん管理化が進み、教員の自由や創造性も制限されていく状況です。しかし、教員の自由や創造性がある程度認められるようにしておかなければ、これまでのような教職の魅力は薄れていくことでしょう。子どもたちへの指導においても、昔とは違い、今は30人の子どもを教員一人でまとめていくのも非常に難しいため、今まで縛っていた義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)なども見直して、学級を小さくすることやフレキシブルに対応できるようにすることも必要です。

たとえば教員すべてに副担任をつける、つけられないとしたら二人の教員に一人の支援員をつける、など今の枠組みを変えていくことで、教員は研究ができたり、指導に関わる時間を増やしたりすることができるでしょう。そうした営みこそが「持続可能な学校」「持続可能な教育」を実現していくのだと思います。

マクロな視点で学校を俯瞰する

学校現場で働く方々にいえることは、まず狭い視野に閉じこもらないでほしいということです。学校ではいま目の前にいる子どもを中心に物事を考えてしまいがちですが、世の中は劇的に変わり続けており、社会がどのように変わっているのかを俯瞰する目を持っていなければ、常に目の前の問題に振り回されるだけになってしまいます。教員にも子どもたちのためにもなる教育とは何か、ということをしっかり考えられるようなマクロな視点を持つことが重要です。

今、何が必要なのか、何が問題なのか、子どもに対する指導は今のままでいいのかなど、会議ではなく普通の会話の中で話せるようにならなければ、せっかく教員が集まって話ができる職員室の機能も果たせません。国から与えられたものの中だけでやっていくのは限界に来ているので、その与えられたものが果たして適切なのかどうかということを考えていく段階に来ています。

取材・文/三井悠貴(カラビナ)

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