小三理科「物と重さ」で教科横断しよう 【理科の壺】
カリキュラム・マネジメントは、教育の質を向上させることを目的とし、学習効果を引き出せるよう授業や指導計画を改善していく取組です。教科の役割を果たしつつ、相互に関連させて教科を超えた教育課程の再編成が求められています。その改善の一つに教科を横断的に捉える視点があります。今回は、理科の単元を軸にしながら他教科と関連付けた指導計画や授業展開を試みる、教科横断の “ツボ” について解説します。子どもの主体性を引き出しながら、深い学びの実現を目指し、効率的な理科授業を目指してみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/東京学芸大学附属小金井小学校教諭・三井寿哉
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.「物と重さ」と「長さ、重さの単位と測定」
①理科と算数は同じ学習をするの?
3年生は理科と算数において「重さ」について学習します。どちらの学習内容も一見酷似しており、教科書を見ると同じ学習活動をするかのように受け取れてしまいます。しかし、学習指導要領上では各教科でねらいが明確に異なります。そして、互いの教科が深く関連していることが読み取れます。
②理科の「物と重さ」学習指導要領解説 理科編(平成29年度7月告知)より一部抜粋
第3学年の目標 ⑴物質・エネルギー
物の性質、風とゴムの働き、光と音の性質、磁石の性質及び電気の回路について
①理解を図り、観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
②追究する中で、主に差異点や共通点を基に、問題を見いだす力を養う。
③主体的に問題解決しようとする態度を養う。
第3学年の内容〔A 物質・エネルギー〕
⑴物と重さ
物の性質について、形や体積に着目して、重さを比較しながら調べる活動を通して、次の事項を身に付けることができるようにする。
ア(ア)物は、形が変わっても重さは変わらないこと。
(イ)物は、体積が同じでも重さは違うことがあること。
③算数の「長さ、重さの単位と測定」学習指導要領解説 算数編(平成29年度7月告知)より一部抜粋
第3学年の目標
「測定」では、身の回りにあるものの特徴を量に着目して捉え、量の単位を用いて的確に表現する力を養う。長さ、重さの量から身の回りの事象の特徴に着目し、実験・実測などを通して目的に応じた普遍単位を用いることで量を的確に表現したり単位を統合的に捉えたりすることを重視する。
⑴長さ、重さの単位と測定
量の単位と測定に関わる数学的活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア(ア)長さの単位(キロメートル(㎞))及び重さの単位(グラム(g)、キログラム(㎏))について知り、測定の意味を理解すること。
(イ)長さや重さについて、適切な単位で表したり、およその見当を付け計器を適切に選んで測定したりすること。
④理科と算数の違い
算数では主に「重さ」について理解し、その普遍単位を知り、計器を用いて測定することを捉えられるようにしていきます。すなわち、重さを数値化しながら一般化することをねらいとしています。
一方、理科では、物そのものの形や体積、質感などの性質について、重さを通しながら違いを比較し、それらの関係を理解する能力を育てていくことをねらいとしています。単に物の重さについて調べたり考えたりするのではなく、物の性質についての見方や考え方をもつことができるようにすることが理科の大きなねらいになります。
2.「物と重さ」を軸にした教科横断型授業
①理科と算数をタイアップさせた指導計画
算数と理科で目指すねらいの違いを踏まえ、関連付けた指導計画を組み立てていくことで、子どもは自ら学ぶ必要感を見いだし、教科の枠を超えた思考を促すことができます。また、学習活動が精選され、一本化された明確な活動を子どもに与えることができ、授業時間のスリム化にも繋がります。
②「物と重さ」で得られた必要感を算数へ
例として、理科の時間に色々な物に触れ、手触りや質感、持った時の手応えなどを比較し、重さを通してそれぞれの材質の違いを見いだしていく活動を行います。やがて、子どもは人が手で持った感覚では十分に比較できないことに気づき、数値化する必要感を持つようになります。ここで理科の授業は一旦終了です。
次の時間は算数です。算数では重さの概念と計器での測定方法、単位の書き方を習得する活動を行います。
再び理科を行います。算数で学習した計測の仕方、記録の書き方を生かしながら、材質の形を変えたり、体積が同じで材質が違ったりする物を計器で比較し、問題解決を行っていきます。
③「物と重さ」の概念は「物の溶け方」へ縦断する
前述の通り、理科では物質の質量感を子どもにもたせてあげます。これは、第5学年で学習する「物の溶け方」につながる質量保存「物が水に溶けても、水と物とを合わせた重さは変わらないこと」の概念に生きる教科内での学年を超えた縦断的なつながりを含んでいます。
3.ほかにもまだある教科横断
第4学年「天気の様子」の1日の気温の変化の様子を調べた結果を折れ線グラフで表す活動は、同学年の算数「折れ線グラフと表」の学習と関連づけることができます。また、第4学年「雨水の行方と地面の様子」の雨水が土にしみこむ仕組みは、同学年の社会「飲料水の供給と経路」の水源林の確保、ダムや貯水池、浄水場での高度な技術を活用した浄水処理や給水の仕組みと関係づけた教科横断型の指導計画を立てることが考えられます。
教科書紙面の流れに囚われず、学習内容と子どもの思考の流れに沿った指導計画を立てることで、子どもにとっても教師にとってもメリットが生まれるようになります。
イラスト/難波孝
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<執筆者プロフィール>
三井寿哉●みつい・としや 東京学芸大学附属小金井小学校教諭。理科を中心に日々実践研究を行う。本学教育実習をはじめ、東京未来大学非常勤講師、姫路大学非常勤講師の教員養成にも携わる。理科おもしろゼミ研究会代表、NHK Eテレ『ふしぎエンドレス』作成協力委員、共著に『GIGAスクールに対応した小学校理科1人1台端末活用BOOK』(明治図書出版)、『小学校理科フローチャート型授業ガイド』(東洋館出版社)など。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。