新たな「学校教育目標」を打ち立てて目指そう、あなたの理想の学校
あと少しで令和5年度が完結します。今は1年間の総まとめの時期であり、同時に次年度の教育課程編成の準備期間からの助走期間でもあります。教職員、子どもたち、保護者、地域の方々の「学校評価」などが出揃う頃ですね。子どもたちや地域の実態、そしてこの貴重な言葉や数字のデータを多角的多面的に分析し、教職員とフランクに議論し、合意形成を図り、子どもたちが生き生きする姿をイメージして教育課程を編成していくことが、校長の3学期の重要業務です。そして来年度に向けて、学校教育目標も見直してみませんか?
【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #16
筆者が教育課程編成で最も印象深く残っているのは、令和2年度の3学期のことです。新型コロナウイルス感染症対策下での教育活動で、様々課題が明確に見えてきました。従来の教育課程や教育活動では太刀打ちできない時代に入ったことを痛感したのです。そこで、「勇気と覚悟」をもって、教育課程編成に取り組みました。今回は、そのお話をしたいと思います。
目次
教育の根幹が揺らぐ時代に
令和2年の新型コロナウイルス禍により、これまでの教育は如何に脆弱であったかを思い知らされました。
臨時休業が始まった4月、
「先生、子どもがゲームばかりで困っています」
「先生、宿題を出してください」
など、保護者から学校を頼る問い合わせが多く寄せられました。
もし学校が、私たち大人が、真に子どもたちの「生きる力」を育もうとしていたのなら…。
きっと、学校に行けないくらいで、こんな騒動は起きなかっただろうと思ったのです。
そして、次代を担う子どもたちを「新しい発想でたくましく育てる教育」が必要だと強く感じました。新型コロナウイルス感染症対策時期は、立ち止まって「教育の本質」を考え直す時期でした。
同じ頃「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して ~すべての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)令和3年1月26日中央教育審議会」が発出されました。まさに私の問題に答えを見いだすための、的確な指針であると感じました。
そこで、新しい教育を作るための第一歩として、学校教育目標を変更し、それを頼りにして、新しい教職員組織・教育課程の改革へと進めようと考えたのです。
実は、学校教育目標の変更は、私にとって初めての試みでした。
校長にとって一大事です。しかし諺にもあるように「新しい酒は新しい革袋に盛れ」が必要な時と感じました。新しい教育をしようとする時に、子どもたち、保護者、地域の人たちに旧態依然の学校教育目標では、学校の本気度が伝わりにくいと考え、その覚悟を決めました。
今振り返ると、学校教育目標は、実態に適合しているかを検討し、必要なら毎年でも変更しても良いとさえ考えています。実際に試みたあと、学校改革は学校教育目標の変更から始まると、その教育効果を思い知ったからです。
まるで学校の伝統であるかのごとく、何十年も教育目標を変えずにいる学校もあるかと思いますが、皆さんの学校はいかがでしょうか? 形骸化している目標ならいっそ捨てて、自分たちで新しいゴールを作り、目指してみませんか?
新たな教育目標「『創造してたくましく生きる』自律・相互承認・表現」
職員全員で何度も話し合いを行い、新しい学校教育目標は、「『創造してたくましく生きる』自律・相互承認・表現」に決まりました。
「自律」:考えて行動する ➡︎ 臨時休業中でも自分で考え判断し『自己決定』して、困難を乗り越えることです。どんなトラブルが発生しても、それをたくましくポジティブに乗り越えていけること。知恵を出し創意工夫して解決する力を育成したいという願いを込めました。
「相互承認」:認め合う ➡︎ 多様性・国際性・人権感覚、マイノリィティー等様々な価値観の尊重が求められる時代です。子どもたちを『みんなが同じ』という視点でとらえる教育から、一人一人には個性があり、『みんなが違う』という視点からの「個別最適な学び」に移行する時に来ています。一人一人の特性を個性として、相互に認め合うところから出発し、その感覚の上での「協働的な学び」を推進したいという願いを込めました。さらに一人一人を認め合うことで、いじめを生まない感性を育てたいという願いも込めたのです。
「表現」:伝え合う ➡︎ 生きていく上では『自信』を持つことが重要です。そのためには、自分を表現することの積み重ねで得られる達成感や成就感を味わうことが大切です。相手に自分の意志を伝えられる力が、これからの複雑な情報化社会、国際化社会で生きていくために求められています。
表現方法には、音楽的、図工的、家庭科的、体育的など、様々なものがあります。
その中でも特に「言葉」と、「ICT端末を通してのコミュニケーション能力」「プレゼンテーション能力」を基軸にしようと考えました。
心の中にある「内なる言葉」を鍛えながら、相手に伝えるための「外なる言葉」の力を育成したいという願いを込めました。1人1台になるタブレット端末を文具感覚で使えるようにしたい、との願いも込めました。
コロナ禍という困難な時代を、この「自律・相互承認・表現」を目指して、子ども像「創造してたくましく生きる力をもった子どもたち」を育成したいと考えたのです。
「教職員組織・教育課程編成」改革
この学校教育目標を達成するためには、手段としての教職員組織・教育課程編成を改革する必要がありました。当時の勤務校は、全校児童200人弱で各学年は単学級、という小集団でした。これは「異年齢集団での教育」が組みやすいということです。
従来からの教育観というのは、「みんな同じ」という価値観のもとで進められる同年代の「同質集団での教育」が核となっていました。
言い換えれば、みんな同じようにできて当たり前、できなければ異端、ということです。
しかし昨今、SNSなどの情報機器の発達により、情報や価値観は日毎に刷新され、複雑に多様化しています。「みんな違う」が当たり前となりつつあります。
そこで、本校の特徴を生かし、異年齢集団による新しい教職員組織・新しい教育課程を編成しようと考えたのです。具体的には、以下のような方法を採りました。
①低学年ではチーム担任制、中~高学年ではブロック担任制を
「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」では、2022年から小学校高学年で教科担任制が掲げられていました。それを根拠に令和3年度より、3年生・4年生と、5年生・6年生の2学年ずつで分けた「ブロック担任制」をスタートしました。
このブロック担任製とは、3年生の担任が4年生の副担任を、反対に4年生の担任は3年生の副担任をする、というふうに、各学年が単学級であることを生かしつつ、2人の教員がチームを作って動くシステムです。教科も、1人が両学年の算数を。もう1人は両学年の国語を、というふうに、それぞれが分担して行います。子どもたちの目からは、2人の先生が常に関わってくれている、というように見えます。
担任・副担任2人の先生で情報交換しつつ、ときに協力し、ときに別々の観点から、子どもたちの良さを伸ばしてもらいたいと考えてのことです。
1年生・2年生は、チーム担任制で行います。低学年の子どもたちは、発達段階を考慮して、子どもと先生の密接な繋がりを重視しました。したがって、この先生は1年生、この先生は2年生と、明確な担任制をしいた上で、2人の先生はチームとなり、生活科、学活、特活、道徳などにおいて、緩やかに1・2年生が交われるようにしました。
この試みで、目覚ましいほど2年生が成長し、年下の子の面倒を見ることの、教育的な効果がいかに高いかを実感する結果となりました。
職員室では子どもの情報が飛び交い、教材研究のやり取りが行われ、笑顔と笑い声が溢れました。
②3~6年生は、さらに幅広い異年齢での総合的な学習を
総合的な学習の時間は、3~6年生の全学年で金曜日の3・4時間目に設定し、異年齢集団で行なうことにしました。
メインテーマは、「SDGs」です。持続可能な社会の担い手を育成したいと考えたからです。
17項目から子ども自身が取り組みたい課題を選び、学年関係なく、同じようなテーマのグループに分かれて、それぞれのグループごとに指導者がつきます。
総合的な学習の時間の授業は、学校の実態に応じてテーマを掲げ、学習内容を決め、特色を出せる位置づけができる時間です。この時間のプログラムは、「探究(したい課題)➡︎ 協働・体験 ➡︎ 表現」を基本セットとしました。自分で決めたテーマを追究することで「ワクワク感」が生まれます。
子どもたちの実態から「表現」活動も入れ込み、異年齢集団学習で学ぶことによって、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力、人間関係形成能力も育ったと捉えています。人間関係の幅が広がることで、狭いクラスの中にとらわれないコミュニケーションが学校全体の基調となり、子ども同士のトラブルが減り、笑顔が増える結果となりました。
おわりに
この学校教育目標を変えたことによって、目指す学校像や子ども像の言葉に魂が宿り、子どもたちは学校教育目標を意識して行動を始めました。授業での発言回数や声の大きさ、日常の行動が大きく変わっていきました。
令和3年度5月には、「学校教育目標キャラクター」を全児童に公募し、代表委員会で10点に絞り込みました。この10点に全児童で投票し、3匹のキャラクター「クリエイターズ」が誕生しました。なぜキャラクターが必要なのか。それは、子どもたちみんなに親しまれる学校教育目標にしたかったからです。
特に低学年の子どもたちにとって、学校教育目標の言葉は難解です。ところが、「『クリエイターズ』を目指そう」なら、親しみをもちます。子どもたちが笑顔になる遊び心を大事にしたいのです。保護者にも地域の人にも学校教育目標を変更して新しい教育活動を始めると、その願いや本気さに一貫性・筋が通って伝わり、次第に好意的感覚が伝播し、学校の雰囲気が温かく変わっていきました。保護者の笑顔も増えたのです。
是非、今学期の大きな柱として、実態や学校評価などを多角的多面的視点から分析して、話し合いを丁寧に重ねて個性豊かな学校づくりを推進してください。学校改革は学校教育目標の検討から始まります。
イラスト/坂齊諒一
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<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
最新の教育活動についてはこちら(他サイトが開きます)。