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不登校の子が、仲間との絆で一人残らず変わる ~花まるエレメンタリースクールの挑戦~

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さまざまな事情で学校に行けなくなった子どもたちが全員、楽しく通うことができている新たなフリースクール「花まるエレメンタリースクール」。教室にいる一人ひとりがそれぞれの個性を活かし、楽しみながら学ぶ「パーティ」と名付けられた授業を見学した後、校長の林隼人さん、スタッフの江崎梨乃さん、鹿島詩子さんから話を聞きました。

左から校長の林隼人さん、スタッフの鹿島詩子さん、江崎梨乃さん。

子どもが学校に行けなくなるのは、なぜ?

― 近年、学校に行けない子が増えているのは、なぜなんでしょうか? 

はやと校長(以下、はやとかげ) 学校という多数決の世界に疲れてしまったことと、人間関係のトラブルに傷付いてしまったことが原因だと考えています。子ども同士の関係を繋ぐために、ちょっと大人がテコ入れすればいいだけの話だと思うのですが、そのために「一歩踏み込もう」という気持ちを持てない大人が増えていることも理由の一つだと考えています。

一人ひとりと目を合わせて会話するはやと校長
一人ひとりと目を合わせて会話するはやと校長

― 一歩踏み込めないとは、どういうことですか?

はやとかげ 例えば、二人の子どもたちの間に喧嘩が起きた時、「単純に両者を引き離し、どちらかに謝罪をさせて終わり」といった対応をしてしまうのです。大人として適切な対応――私は「粋な対応」と言っていますが――それができない。

― 「粋な対応」とは、何をすることなのでしょう?

はやとかげ 少なからぬ先生方が、喧嘩の仲裁をする時に、「どちらが悪かったか?」と判断し、悪かった方に謝罪させ、そうでない方が相手を許す、というシンプルな図式で解決しようとしがちです。上から目線で裁いてしまいがちなんですね。「どちらが悪かったか」を判断する必要なんて、じつはないんですよ。大人が間に入る目的は、「その子どもたちの話し合いをファシリテートし、その関係性をどう取りもつか?」なんですから。

たとえ喧嘩という形であれ、「自分は、こうだ!」と強く自己主張できる子は素敵なんだ、とポジティブに捉えたいものですね。

喧嘩になった時に、白だと思っている子が意見を黒にする必要は全くないし、反対もしかり。喧嘩になっているのが5人だったら、「緑の子が青になることもないよね」という話を、まずします。

その上で、一人ひとりの子がどう納得するのか?「今、ここにいるメンバーで、納得できる答えや考え方を作り上げていこうぜ!」とファシリテートできる大人が少ないのです。そうした人間関係のトラブルの際に「ちょっと変わった問題児」と判断され、結果的に排除されて、仲間との関係性をつくり上げる機会すらもてなかった子もいます。

子どもはやらかす、子どもはしでかす

― 仲間との関係性をつくり上げる機会をもてなかった子もいるんですか?

はやとかげ はい。先生が、一方的に子どもを「あなたが悪い」とジャッジしてしまうからです。でも、そもそも一方的に悪い子なんているわけがありませんし、「ジャッジ」では人間関係は築けません。

こうしてジャッジされた子どもたちは、発達障害等があると見なされ、WISC検査を勧められて……と、どんどん悪循環に陥っていきます。仲間とのつながりさえあれば学校にいられたはずの子たちが、こうして不登校になるケースもあるのです。

知能や能力が高く、尖った才能のある子は、基本的に大きなエネルギーをもつ子です。そんな子の中には、つい手が出てしまう子もいます。もちろん手が出てしまうこと自体は、ほめられることではありませんが、一方的にジャッジされる関係性の中でエネルギーが抑えきれなかった、という見方をする方が実態に近いと思います。

人間の内側から溢れ出てくるエネルギーって、大事なものでしょう? それを一方的に否定するなんて、学びの場で大切にすべき大前提が、間違っているんです。
大前提を間違えないために、僕たちはいつも、教員チームの間でこう言い合っています。

子どもはやらかす、子どもはしでかす

その大前提をしっかりと持って、「あ! やらかしたな。じゃあ、話し合おうか」「わ! しでかしたな。じゃあ、みんなで考える場をつくろうか」と、大人が言えばいい。

子どもたちが学校に行けなくなっている根本原因は、トラブルを「子ども同士の関係をつくるチャンス」だと考える精神的余裕を大人側が持てなくなっていることだと考えています。

ちょっとしたマインドセットの話である

― 今の学校現場は忙しすぎますから、余裕を持てない先生方が増えるのも無理はありませんね。

はやとかげ 僕はかつて、公立中学校の教師をしていました。ですから先生方が、「学習指導要領などのさまざまなしがらみから逃れられない」と感じることは理解できます。でも、ちょっとしたマインドセットの転換をすべきだと思います。

先生の心の中の優先事項を、人格教育に置く。「今日、教科書を何ページまで進める」といったことも大事だけれども、例えば授業中にトラブルが起きた際、「今は手が離せないけど、後でしっかり話し合おう」と伝えることは、数秒あればできるはずです。

可愛げのない子を、可愛がるために必要なこと

大学では学べない「喧嘩の仲裁」

江崎(以下、りの) 私は教育学部系の専攻でしたが、「各教科をどう教えるか?」といったことや、教育心理学の授業はありましたが、「実際に子どもたちの喧嘩を目の当たりにした時に、どうやって仲裁をするか?」といったことは、まったく学んできませんでした。だから今、毎日目の前の子どもたちと関わりながら、学んでいる感じです。

ー 子どもに反抗された時の対応なども、大学では習いませんね。

はやとかげ そこも、シンプルな話です。子どもに反抗された時、大人自身が「自分はどう在りたいか?」と、考えてみるだけでいいんです。

子どもたちは、必死です。文字通り、一生懸命に、「これでもか!」と反抗してきます。もちろん、その瞬間は、「お前、この野郎!」とは思いますよ。けれども、じつはすごく素敵じゃないですか。だって、それはその子の必死で、一所懸命な姿なんですから。

必要なのは、その姿を、「素敵!」と思えるマインドセットなんです。その気持ちは、 子どもに伝わります。自分が愛されていることを、子どもは敏感に感じ取ります。

この子は、素敵だ、愛おしい……。愛です、愛。このマインドが最も大事で、結局、そこでしかないと思います。

本当に感覚過敏!?

鹿島(以下、うたこ) 資料請求のお電話をいただき、対応をしている時、親御さんに「どうして学校に行けないのでしょう?」とうかがうと、理由として頻繁にあがる事柄があります。皆さん、「うちの子は、音にすごく敏感なんです」とおっしゃるんです。
例えば、教室の中で他の子が大声で叱られているのを聞いて辛くなり、だんだん学校に行けなくなってしまった、という話はよく聞きます。

はやとかげ 「感覚過敏」は、うちに通ってくる子の親御さんの8割が最初に言っていた言葉です。
でも、例えば今、うち(花まるエレメンタリースクール)の教室、めちゃくちゃ賑やかですよね(笑)?

この取材中、先生方の声が聞こえないほど、隣室で子どもたちは盛り上がっていました。

はやとかげ だから、単純に「音に敏感」という話ではないと思うんです。では、学校とうちとで、何が違うのか? ここには、横の繋がりがあるんです。子どもたち同士が、仲間になっているんです。
他人が叱られている」という感覚だった時に「聞きたくない雑音」と捉えられた声も、家族の一員に近い関係性が築かれているこの学校では、「今、仲間が叱られているんだ」と捉えられます。そのくらいの関係性があれば、「学校は怖いところだ。行きたくない」とはなりません。

初日に見た時は、「一見可愛くない子」みたいに見えた

― 関係性という意味では、授業中、仲間が発言に詰まった時に、スッと自ら自然にフォローに入る子がたくさんいました。

はやとかげ 今は、子どもたち全体で家族みたいな関係性ができているので、当然のことです。でも、最初は、全員、そんなことはできませんでした。全く、できませんでした。もう全く!!!!

「初日と今は、こんなに違うんです!」とボディランゲージで伝えてくれるはやと校長
「初日と今は、こんなに違うんです!」とボディランゲージで伝えてくれるはやと校長

端的に言えば、「花メン(花まるエレメンタリースクールの自称)」に来ている子どもたちは、可愛がられなかった経験がある子たちです。

はやとかげ この子たち、今でこそ、すごく可愛げが出てきていますが、初日に見た時は、教師目線で言えば、「あ、これは可愛がりにくいタイプだな」と感じる、「一見可愛くない子」になっていた子もいました。環境が作りあげてしまっただけなんですが。

― どんな感じだったのでしょうか?

はやとかげ 一言でいえば、「大人を信じていない顔」をしています。そうなると、性格も少なからず素直ではありません。そんな顔をして、性格も素直でなければ、やっぱり「一見、まったく可愛くない」わけですよ(笑)。でも僕たちはプロとして、そんな子の中に、「この子の、ここが面白い! ここが可愛い!」を見つけていきます。

― 子どもの可愛さを見つけるためのコツはありますか?

はやとかげ 教員チーム全体での、情報共有です。「じつは、A君、こういう部分があるんだよね」という、きっかけとなる情報を誰かが見つけられれば、全員のA君に対する見方が変わり始めます。

「ここ面白い! ここ可愛い!」を、(子どもと関わる)チーム全員で見つけることを続けていく。すると、A君の良さがどんどん見えてきます。「今日のA君は、こうだった」という話をチームで共有していくことで、A君が自然と可愛く見えてくるんです。A君のストーリーが見えてくるというか。
子どもたち一人ひとりに、それぞれのストーリーがあります。
今日、(授業見学で)見てもらった子どもたち全員のストーリーを、僕は話すことができます。年長さんから園に行けていなくて3年生で「花メン」に来た子、「どうにもならないんです」と言われながら、カウンセラーの方から紹介で「花メン」にやって来た子……。

そういう子たちは、最初の数か月は、もちろん大変です。でも、最初の頃に「死ぬ、死ぬ」と毎日言っていた子が落ち着いてくると、ますます可愛くなりますから、自然とさらに手間をかけるようになります。その結果、さらに可愛くなっていく…という良い循環が始まります。

日本一子どもたちについて話している職員室をつくろう!

ー 可愛くなっていくという良い循環、いいですね!

はやとかげ この学校をつくる前に、みんなで「職員室を、日本一子どもたちのことを話している職員室にしたい!」と話し合ったんです。僕たちは、それを実際にやっているだけなんですけれどね。

― 毎日どれくらいの時間、子どもたちの話をするのですか?

はやとかげ 朝の始業前は、だいたい40分~50分くらい。学校が終わった後は、時間さえあれば、もう2時間でも3時間でもそういう話をしています。この前も、フッと気づいたら3時間半が経っていました……。本音を言えば、みんなで子どもたちの話だけをして、他の仕事はしたくないくらい(笑)。

りの 子どもの話をするあの時間が、もう、楽しくて、楽しくて! 私も、みんなでずっと子どもの話をしていたいです。

― 最近は、残念ながらそういう空気感がない職員室も多いと思います。そういう職員室を変えたいと感じる若い先生方も少なくないはずですが、教員評価を気にしたりして、なかなか難しいのかもしれません。

はやとかげ そうですか? 職員室で、若い先生から子どもの話がたくさん出てくると、「若い世代が、ようやく言ってきたか……」と、ベテランの先生は嬉しいと思いますよ。
今は周りに味方がいないと感じておられる若い先生方にお伝えしたいのですが、勤務している学校の中に、必ず一人は「本当は、子どもの話ばかりしていたい人」がいるはずですよ。まずはその人を味方にしましょう。だって誰だって、子どもが好きだから先生になったんでしょう?

子どもたちが安心できる空気をつくる「緊張と超緩和」

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