持っている武器を点検整備すべし 【連載|女性管理職を楽しもう #5】

連載
管理職を楽しもう

元北海道公立中学校校長

森万喜子

学校の女性管理職の数はまだまだ少ないですが、女性管理職だって「理想の学校」をつくることができます。前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生が、女性管理職ライフを楽しむコツを伝授します。
第5回は、<持っている武器を点検整備すべし>です。

執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子

冬がすぐそこに!

みなさん、こんにちは。
本好き、文房具好きな私としては、店頭に並び始めた来年の手帳をみて、季節を感じます。
みなさんはどんなことで、冬の訪れと年の瀬を感じますか。

さて、今日のテーマは「持っている武器を点検整備すべし!」

「武器って何?」と思われるかもしれませんね。特別に自分にだけ備わった特別なものではありません。仕事をするうえで活用すべきアイテムとでもいいましょうか。今日はそんなお話です。どうぞお気楽にお付き合いください。

手帳! OODAループを回すために使う

昔は手帳といえば1月はじまり、それからしばらく経って学校や会社の年度に合わせた4月はじまりのものが出てきましたが、今私が使っている手帳は11月はじまりです。タイムマネジメントは働く人にとっては重要なことなので、どんどん新しい年の展望を急ぐようになっていると感じます。

書店のビジネス書のコーナーでも時間の使い方の本がいっぱいです。ビジネスの世界で使われていたPDCAサイクルという言葉も、学校現場で使われるようになって久しいです。わたしはPDCAサイクルよりはOODA(ウーダ)ループのほうがしっくりくるので、学校勤務の時は意識していました。もうご存じの方も多いでしょうが、OODAはObserve(観察) Orient(状況判断) Decide(意思決定) Act(行動)の4つのステップを繰り返していくフレームワークです。「学校」って、生きている人間の様子を確認しながら活動、行動していく場ですから、その時その時の子どもたちや教職員の状況によって適切な判断や柔軟な対応をしなくてはならない場面ばかりです。授業は常に指導書通りに進むわけじゃないし、予期せぬトラブルも起きる。そう、予定通りにいかないことの連続でした。とっさの判断が間違わないように、ぶれないように、判断する。そこがリーダーの大事なところかもしれません。でも、私は予期せぬトラブルって割と楽しんでいました。命に関わらなければ、色々なことが起きてもいいのです。

そんな自分は実は要領が悪く、段取りが苦手。準備万端とは無縁なタイプ。締め切りやアポイントなど、校長になったらどんどん押し寄せてくるし、すぐに忘れてしまうからメモは必須。おまけに急いで書いた断片的なメモだったら「はて、これって何のこと?? 解読不能……」みたいなこともあるので、校長室の壁には何か月も先までの書き込み式カレンダーを張り巡らせ、予定が入ったら付箋に書いて貼り、あとから(はがれてわからなくなることがあったので)ペンで書いていました。これには、自分の備忘録的な意味だけでなく、誰でも見られるという利点があり、教頭さんは私に聞かなくても、「この日は校長は出張で不在」とか「来客があるのだな」とわかります。なかなか年休がとれない教頭さんも、来月この日に年休を取ろう、と予定を立てやすかったりします。

私のお気に入りの手帳は「1週間バーチカルタイプ」といって、見開き1週間、1日が縦の時間軸で示されているタイプでした。これは、一週間のうちに、何に時間を使っているのかが「見える化」できるので、おすすめです。色分けしてみるとわかりやすいのです。教頭時代は一週間ほとんど、朝から晩まで学校にいるということが一目瞭然で、「これじゃいかん!」を自覚しました。学校の先生たちは、教務手帳や週案簿で学校の中のスケジュール管理ができちゃいますが、私は、学校の外の時間も含め、1週間168時間をどんなふうに使っているかを見える化していました。学校だけじゃなくて、自分の楽しみやリラクゼーション、家族や大事な人との時間、リスキリング、そして睡眠などの時間を増やすようにして、学校の外の時間の量と質の向上をめざしてほしいと願います。1時間でも自分のための時間を作ってみたほうがいいですよ。「まだがんばれる」なんて思っていても、私達も生身の人間。いたわらなくちゃ。

教育法規はすごいアイテム

二つ目のアイテム、地味だけど無敵で鉄板な「法」です。恥ずかしながら、自分が駆け出しの頃は法に関する知識が乏しく、自分の担当する教科や学級経営については一生懸命学んでいるつもりだったけど、教育の全体像には無知でした。教員採用試験に合格する程度の「知識」は頭に詰め込んでいたけど、教育という営みを「法」というフィルターで観る癖が、まるでついていなかった。自分の周りでも、法よりも人の経験や感情が大事のような二項対立的な考えがありました。なぜ1学期の始業式が4月6日なのか、何が根拠なのかと尋ねられても「決まっているから」としか答えられなかったと思います。

今、私は今年初めて教壇に立った初任の先生方の初任者指導講師として、市内の中学校を回っています。3人の若い先生方の勤務先を週に1回ずつ訪問し、授業参観と指導の伴走支援、1対1の対話や講義をしていますが、その中で、「法」に関する話題も出てきます。試験勉強のように「覚える」のではなく、法ができた背景などを知ると興味深いものです。

管理職の皆さんにも研修会等で尋ねられることがあります。学校改革について、「そんなこと、できるのですか?」と。法を理解することは、自分の職において、任されていること、できること、それと限界を知ること。知らなければ危険。自転車に乗るのが楽しい。風を受けて全力疾走は最高。でも、信号や、道路交通法を知らなければ、命が危険にさらされる。私が、真剣に教育に関する法と向き合ったのは、校長になってから入学した大学院がきっかけです。それまでなんとなく苦手意識をもっていた法律が生き生きしたものに思えてきた。法って、なかなか面白い読み物です。教育小六法の「子ども」に関するページの最初にあるのは、昭和26年に制定された児童憲章。十二条の条文による短いものですが、読んでいると涙がこぼれそうになる。次のページは去年できた「こども基本法」。法律はその時の世の中のニーズに応じて生まれるものなの。

おわりに

さあ、みなさん、あっという間に毎年恒例「師走」がやってきます。年末には手帳を買い、年明けてしばらくしてから新しい教育小六法を買うのが私の冬のタスクですが、もちろん私のようなアナログじゃなくて、デジタルデバイスをお使いになる方もいらっしゃることでしょう。使いやすくて便利と感じるものがいいと思いますご自分のアイテムを整備して、新しい年、新しい世界を切り開く勇者になって楽しく笑いながら歩みましょう。大丈夫、ひとりじゃないよ。良いお年を。


<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。現在は、北海道の公立学校初任者指導講師として活動するかたわら、青森県が7月に設置した同県教育改革有識者会議の副議長としても活躍中。


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