教員育成に覚悟を持っていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #62】


多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第62回は、<教員育成に覚悟を持っていますか?>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
ある決意
小学校1年生担任の新採用教員の里香(仮名)先生は、その日、ある決意をして出勤しました。「今日、もし、またあの先生が授業に割り込んで来たら、この仕事を辞めよう」と、採用から約2か月後に設定されていた初めての授業参観の日の朝、そう決めました。教職専門の大学出身ではない里香先生にとっては、小学校の教員免許を取ることは容易なことではありませんでした。それでも持ち前の負けん気で単位を取得し、また、採用試験に向かっては大勢の仲間や先輩、先生方から協力をしていただき応援を得て、見事につかみ取った教員の仕事でしたが、教職に就いてからそれを辞する決意をするまで60日かかりませんでした。
新採用ですから仕事上のうまくいかないことは多々ありました。負けん気は強い方でしたが、健康状態はそれほどよくなかった彼女にとって長い勤務時間はけっこう堪えたようでした。しかし、長時間勤務や仕事量の多さは、採用前からわかっていたことだったので楽ではありませんでしたが、まだ、耐えられたと言います。彼女が耐えられなかったのは、拠点校指導教員(以下、指導教員)の方の、授業への「割り込み」行為でした。実際はどうかわかりませんが、彼女の記憶の中では「事あるごとに」、彼女が授業していると指導教員が「ちょっと、待って」と、割り込んできたそうです。
ある時は、授業を終えると指導教員は子どもたちに向かって笑顔で、「あなたたちも大変ねえ、こんな授業を受けさせられて」と言ったそうです。無邪気な1年生は、そう言われても「ぽかん」としていたようですが、彼女の心は蝕まれていきました。また、子どもたちの中には、担任の里香先生よりも指導教員に懐く子どもも出てきて、担任そっちのけで活動をすることもありました。最初は、「どうして? 私が担任なのに?」と戸惑っていましたが、やがて、「はい、どうぞ、ご自由にやってください」と投げやりな気持ちになっていったと言います。里香先生は、こうした日々のなかで、学校にいても家にいても常に気持ちがざわつき、夜も眠れなくなっていきました。
こうした指導教員や先輩教員による授業への割り込み行為を、名古屋大学大学院教授、内田良氏は、「授業乗っ取り」と呼んでいます (宮西、2020)※1。内田氏が、SNSでそうした現象が「あちこちで起きている」と発信すると、反響を得ました。内田氏も指摘していますが、「授業乗っ取り」と言ってもいろいろなパターンがあるようです。「授業乗っ取り」をしている教員の意図も様々に推察されますが、される若手教員に心理的なダメージを与えることは共通しています。しばしば「不適切な若手指導」として話題になるこの「授業乗っ取り」ですが、もう退職された先輩教員に話すと、「いや、それは、かつて斎藤喜博がやっていた『介入授業』だね。よく知られた指導だよ」と教えてくれました。管理職の方でその名を知らない方はいないでしょうが、斎藤喜博氏とは、「島小の教育」であまりにも著名な伝説といってもいい教師です。内田氏もインタビュー記事の中で、「授業乗っ取りの原点は、小中学校で校長先生を担った経験のある教育者・斎藤喜博氏が1950年ごろに提言した “介入授業” だと考えられます」と指摘しています。