「番」と「平等」の保障を 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #28】

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菊池省三流 コミュニケーション科の授業
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第28回「コミュニケーション科」の授業は、<「番」と「平等」の保障を>です。

納得解の問いで、自分の意見をつくる

担任と子供達の人間関係がうまく築けていないな、と感じる教室では、次のような共通点が授業中に感じられます。

①担任も子供も公の言葉を使っていない……語尾を「です・ます」で発言できない、幼稚な言葉が飛び交う。
②音を消すことができない……教師の話や友達の発表を聞く場面、ノートに記入するなど本来静かにすべき場面で、ざわざわ “雑音” を出す。
③「番」と「平等」が守られていない……「聞く」「話す」番や学びの平等が守られていない。

中でも、ここ最近私が気になっているのは、③です。

訪問した学校で話合いの授業を参観すると、様々な形で子供達に発表させる場面を目にするようになりました。タブレット端末で子供達の意見を集約する授業もありました。しかし、そもそもなぜ子供達に発表させるのか、肝心の目的をはき違えている教師も少なくありません。

教師の問いには次の2種類があります。

⑴正解・不正解を求める問い(絶対解)
⑵自分の意見を考えて求める問い(納得解)

(1)の問いに対して発表させた場合、正解が決まっているので、当然みんな同じ発言になります。中には、正解がわからなくても「○○さんと同じです」でかわす子もいるでしょう。大勢の子供達に発表させたことで、「活発な話合いができた」「今日はみんなが発言できた」と教師は満足するかもしれませんが、こうした話合いでは、発言した “回数” を平等にしただけで、子供達の思考はまるで深まっていません。

話合いの目的は、一人一人が自分の意見を出し、他者の意見に耳を傾けながら、答えを見つけ出していくことです。その過程で、人との違いに気づき、お互い認め合いながら自己肯定感を高めていくものです。

そのように考えると、話合いにおける「平等」とは、みんなで考え合い、納得解を練り上げていく授業に、どれだけ参画できていたか、ということなのです。そのようにとらえると、“平等”は、何も発言した回数だけではなく、友達の意見を真剣に聞いてうなずいた回数や、相手の意見に拍手を送る回数、「もっと具体的に詳しく教えて」と尋ねた質問の回数なども含まれてくるはずです。

「番」とは、「話す」「聞く」だけでなく、「反対意見を述べる」「質問する」など、話合いのときにその場に応じた発言をすることを指します。話合い活動をすると、質問の場で自分の意見を発言する子や、「さっきの意見は違う!」といきなり反論する子など、自分の意見を主張するのみで、周りの意見に耳を傾けない子供達が出てきます。そのまま放置しておくと、強く主張する方に流され、本来の話合いの内容から大きくずれてしまうことになります。

全員参加の授業を目指すとき、教師は「番」と「平等」を保障しなくてはなりません

具体的には、次のような場面が挙げられます。

“勉強ができる” 子供の発表に偏っていないか
わからない・考えるのが面倒くさいので「同じです」でかわしていないか
今は自分の意見を言う場面か、質問する場面か、反論をする場か
話合いの場面で、仲良しメンバーや同性同士で意見交換をしていないか

そして、何より大切なのは、「話合いを通して子供達に何を学ばせたいのか」という視点を持つことです。

初めから正解ありきの絶対解の題目で話合いをしても活発になるわけがありません。子供達が意見を交流している場面を見て、「活発な話合いができた」と満足していても、その活動はあくまでも “話合いっぽい” ことをしたにすぎません。

納得解の話合いを通して、子供達は自分で意見を考え、友達の意見に耳を傾け、何がよりよい解なのかを見つけていきます。そのような話合いであれば、「同じです」と答えることはない(できない)し、いろいろな人と意見を交換したいと考えるようになるはずです。話合い活動が低迷するのは、教師側の問題なのです。

教師が “うまくいかない経験” を積む

話合い活動をさせるとき、子供がどれだけ自分事として考えられるかがポイントになります。

そもそも話合いは、「何かがわからないために決着がつかず、意見がぶつかり合う」からこそ必要なのです。その「わからないもの」が何なのかを意見を出し合うことで明らかにし、解決方法を見つけていくものです。それを踏まえた上で、授業で話合いの活動を行うときには、次の問いかけが必要です。

①自分の意見を考えて求める問い(納得解の問い)である
②分裂する問いにする

さらに、10~15分は話し続けられるよう、問いかけをした後に、子供達に情報や資料を提示することが大切です。

こうした進行なしに、闇雲に子供達に話合いをさせても、活発なものにはなりません。

そうはいっても、これまで教師自身が経験したことがなければ、「活発な話合いをしましょう」と言ったところで、できるものではありません。むしろ、教師自身が苦手意識ややらされ感で敬遠してしまうこともあるでしょう。

こうした状況を踏まえ、校内研修では、話合い活動の授業について、ストップモーションで振り返りながら、繰り返していくことが大切です。最初はうまくいかなくて当然です。管理職は失敗を責めるのではなく、ほめて認めて励まし、許容する姿勢を持たなければなりません。“うまくいかない経験”を積むことで、教師は初めて自信を持ち、自分らしさが磨かれていきます。

「一度言ったら理解して当たり前」の傲慢さは、子供だけでなく教師に対しても同じなのです。

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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