提言|前田康裕 ICTを活用したクリエイティブな学びと情報発信 【教師という仕事の価値を高め、失われた自信と信頼を取り戻すために 今、求められる教師像とは? #02】

特集
教師という仕事の価値を高め、失われた自信と信頼を取り戻すために 今、求められる教師像とは?

世間からは「学校はブラック」だと思われ、保護者対応の難しさから自信を失い、教師という仕事に対する価値が以前よりも下がったのではないかと、感じている方もいるのではないでしょうか。そこで、どうすればその価値を上げられるのかを考えてみることにしました。教師たちの失われた自信と信頼を取り戻すために、今、求められている教師像を明らかにする8回シリーズの第2回目です。今回は、1人1台端末時代に求められる教師の姿を明らかにします。『まんがで知る デジタルの学び』シリーズをはじめ、漫画家としても活動している熊本大学特任教授の前田康裕さんに話を聞きました。

前田康裕(まえだ・やすひろ)
1962年、熊本県生まれ。熊本大学教育学部美術科を卒業後、教師となり、小中学校に25年間勤務。その間に、岐阜大学教育学部大学院教育学研究科を終了。熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市立小学校教頭、熊本大学教職大学院准教授、熊本市教育センター主任指導主事等を経て、2022年4月より現職。『まんがで知る 教師の学び』、『まんがで知る 未来への学び』、『まんがで知る デジタルの学び』シリーズ(さくら社)など、著書多数。

本企画の記事一覧です(週1回更新、全8回予定)
 提言|合田哲雄 教師という仕事の価値は下がるどころか、むしろ高まっている
 提言|ICTを活用したクリエイティブな学びと情報発信(本記事)

クリエイティブな学びにチャレンジする

基本的に教師の仕事は非常に自由度が高く、それぞれの先生方が自分の強みを活かしたクリエイティブな授業に取り組むことができると思っています。クリエイティブな授業と聞くと、何かの作品を作るような活動を想像しますが、子どもたちが持っているものを引き出すような授業だと考えれば良いでしょう。

例えば、国語の授業で詩を作るとします。多くの場合、子どもが教科書に書いてある詩を真似して書いているのではないでしょうか。そうすると、能力の高い子どもはとてもいい詩を作りますが、そうでない子どもはあまりいい詩が作れなくて、結局、「詩っておもしろくないな」と思って終わってしまいます。

本来、授業で行うべきことは、頭の中で詩を作ることではなく、実体験から得た感動を言葉にすることだと思うのです。私が教諭時代に行った授業は、詩を作るために子どもたちと一緒に、デジタルカメラ持って外に出かけるというものでした。子どもたちは葉っぱ、つらら、スズメなど、自然の中でいろいろなものを見つけ、触れたり、音を聞いたりしました。そうすると、子どもの中からいろいろな言葉が出てくるのです。子どもたちは興味を感じたものを写真に撮り、そのときに感じた、ガザガザ、ツルツル、ヌルヌルなどの言葉をメモに書いていきます。そして、教室に戻り、写真を見ながら、体感したことを思い出して詩を作るのです。できた詩は、写真とセットで発表し合います。

出典:前田康裕著『まんがで知る デジタルの学び』(さくら社)

また、敬語の勉強をするときも、教科書に書いてある敬語や尊敬語、謙譲語をただ覚えてもあまりおもしろくありません。そこで、班ごとに敬語を教える番組の動画を作ってみることにしました。番組を作るには、どういう状況でどういう言葉を使うといいのか、どういう言葉が間違いやすいのか、といったことを子どもたちが考える必要があります。クラスに10班あれば、10通りの番組ができますので、それらをみんなで見て学び合えるのです。つまり、作りながら学ぶことができ、さらに、作ったもので学ぶことができるわけです。

出典:前田康裕著『まんがで知る デジタルの学び2』(さくら社)

もちろん、このような授業には賛否が分かれます。過去には、「国語の本質から外れている」と批判されたこともあります。しかし、時代は変化しています。今、子どもたちには1人1台の端末があり、テクノロジーを使ってクリエイティブに学ぶ環境が整っています。私たち教師も子どもたちと一緒に変化に対応し、学びを豊かにする学習にチャレンジしていくことが大事だと思っています。教師も子どもも楽しい、おもしろいと思える新しい授業を自由に考えていけることは、教師の仕事の魅力ではないでしょうか。

おもしろい授業で学力を向上させるコツ

一方では、「楽しい、おもしろい授業は結構だが、それで学力がつくのか」という心配の声を聞くこともあります。確かに、子どもがデジタルカメラを持って外に出かける授業では子どもたちは楽しんでやっていましたし、勉強しているようには見えなかったかもしれません。ただ、私が国語の専科教員をしていたとき、このような授業をしていたのですが、全国学力・学習状況調査での学力は向上したのです。

それはなぜかというと、対話を行いながら振り返り(リフレクション)を重視したからです。子どもたちは様々な活動をして、分かったことを振り返って言葉にまとめます。この「経験を言葉にする」という活動を毎日続けていくと、それが知識として蓄積されていくのです。

例えば、 詩を作ってみて分かったこととして、「手で触ると言葉が出てくることがわかりました」と子どもが振り返りの時間に書いたときに、子どもの中には「いろんなものを感覚で感じ取って言葉にすることが大事なんだな」ということが知識として蓄えられていくわけです。

逆に、きちんと活動を振り返らせることをしないと、ただ「今日は楽しかったです」という感想で終わってしまい、知識にはなりません。

つまり、対話を繰り返しながら経験を振り返って学び、知識にすることで、子どもは学び方を身につけていくのです。このポイントを押さえていれば、楽しい、おもしろい授業が学力向上につながると考えています。

 もちろん、子どもの中には自分で何かに「気づける子ども」と「気づけない子ども」がいます。だからこそ、学びを共有するのです。「気づける子ども」の考えをデジタルで共有したりすることで、「そうか、こういうふうに気づけばいいんだ」と他の子どもたちもわかっていきます。このように学びを共有することで、クラス全員の子どもの気づきの質が高まることになり、結果として学力が向上すると考えています。

出典:前田康裕著『まんがで知る デジタルの学び』(さくら社)

教師の仕事は、本来、創造的な仕事だと思っています。子どもにしっかりとした学力がつけば、授業の内容をどうするかは、それぞれの教師が自由に考えていいからです。それぞれの教師が得意とすることを生かし、おもしろい授業、クリエイティブな授業にどんどん取り組んでいくと、自分の強みをどんどん伸ばしていくことができるのではないでしょうか。私にとっての強みは漫画やイラストだったので、それを生かした授業をしたり、教材をつくったりしてきました。それが現在の漫画家としての活動につながっているように感じています。

先生方が、自分が考えた教育実践や教材などを積極的にアウトプットすることで、自分自身の成長も実感できると思います。自分が何かを創り出し、それが周囲の役に立つことで自己肯定感が高まり、教師の仕事の魅力をさらに実感できるでしょう。それは、クリエイティブ・コンフィデンス(創造力に対する自信)と呼ばれ、「自分には周囲を変える力がある」という信念を意味します。多くの力ある教師がクリエイティブな授業を通じて、子どもたちと共に成長し、豊かな学びの場を提供していけることを願っています。

校長先生は積極的に情報発信を

学校でクリエイティブな授業が行われるようになったら、校長先生が外部に向けて積極的に情報発信することで、学校の素晴らしい取り組みを広く知ってもらえるでしょう。例えば、クリエイティブな授業の様子や子どもたちの作品、先生たちが楽しく学んでいる研修の様子など、学校のホームページで積極的に紹介することで、保護者や地域の方々が「うちの学校では素晴らしいことをやっているんだな」と感じ、喜んでいただけるでしょう。先生たちにとっても、自分たちの取組が校長先生に認められ、情報発信されるのは大変喜ばしいことだと思います。

もしも校長先生が多忙なのであれば、写真と文章だけを用意して、アップするのは情報担当の先生にお手伝いしていただくのも良い方法です。そういった役割分担を通して、おもしろい授業の様子や、それを作り出している教師の姿勢など、学校の良い側面を伝えることが大切だと考えます。

最近、SNS上で学校のマイナス面を強調する声が増えています。確かに、教師の仕事には大変な側面もありますが、日々の子どもたちとの交流や楽しい授業、職員同士の協力など、やりがいを感じられる瞬間がたくさんあります。この楽しさや充実感を感じる学校は、全国にたくさん存在しています。しかし、これらのポジティブな側面はSNS上で発信されることが少ないのが現状です。

だからこそ、校長先生の積極的な情報発信が、学校の実情を広く伝え、教師の仕事に対する理解を深める手助けになると考えられます。校長先生が行動を起こすことで、多くの人々が学校の魅力を知り、「学校の先生は楽しそうだし、素晴らしい仕事をしているんだな」と感じてくれることでしょう。それにより、教師としての評価が向上し、教育環境がより良くなることを期待しています。

前田康裕著『まんがで知る 未来への学び2』(さくら社)

学校が取り組むべきことは時間管理

先生たちがクリエイティブな授業を考えるためには、学校が今、着実に進めるべきことが二つあります。

まず一つ目は先生たちが時間管理について学ぶことです。教師は知識労働者であり、知識労働にとって1番大切なのは時間です。しかし、多くの先生たちには、「子どものために」という思いから毎日遅くまで学校に残ったり、自分の時間を犠牲にしたりする傾向にあります。この結果、知識労働をするための時間が削られています。これは、材料や燃料なしで生産しろと言っているようなものです。したがって、先生たちは時間管理の方法を学び、自分の働き方を見直す必要があります。

私が研究校に勤務していた当時は、先生たちは毎日、遅くまで学校に残って仕事をするのが当たり前の状態でしたが、私は夕方5時半ぐらいには学校を出て、6時までに家に帰っていました。子育てに関わる時間を確保するためです。

子育てのために早寝する分、教材研究や自己研鑽のための読書などは朝早めに起きてやっていました。当時の管理職は、私のこのような働き方を認めてくれていました。もちろん、人には様々な家庭の事情や価値観があり、私のような働き方を押しつける気持ちは全くありません。大事なのは、自分はどんな働き方をしたいのかを教師が自分で考え、その意思を表明することだと思います。

多忙な日々を送る先生たちには、マネジメントの知識を身につけることが役立つでしょう。そのためには、ビジネス書を読むことをおすすめします。ビジネス書は、成功したビジネスパーソンが組織のマネジメントや時間管理術などについて記したものが多くあります。これらの書籍は、学校の先生たちが直面するさまざまな課題の解決につながるヒントを提供してくれることでしょう。

この提案について、先生たちはよく「時間が足りなくて…」とおっしゃることがあります。もし本を読む時間が不足しているのであれば、その問題を解決するための方法を模索することが大切だと思います。自身の時間管理や優先順位を見直せば、本を読むためのスペースを確保する工夫もできると思うのです。

こうした変化を受け入れるのは簡単ではないかもしれませんが、「読書をすることは価値がある」という意識を持つことが大切だと考えます。教師は、自己成長と新しい知識の獲得に対して常に興味を持ち、変化を楽しむことができる人でありたいものです。自身の成長に向けて前向きな姿勢を持つことが、教師としての魅力を高め、子どもたちにも良い影響を与えることでしょう。

学校の課題を協創的な対話で解決していく

二つ目の重要な点は、学校の課題を解決するために、協創的な対話を進めることです。学校には様々な課題が存在しますが、これらを無視せず、先生たちの対話によって解決策を見つけ出すことが重要だと思っています。例えば、「総合的な学習の時間の実施がうまくいっていない」、「ICTを活用する先生と活用しない先生がいて差がついている」などの問題がある場合、先生たちが集まり、これらを解決するためのアイデアを出し合う場を持つことです。

このためには、校内研修の在り方を見直す必要があります。今までの校内研修は、講師を呼んで話を聞いたり、研究授業を行って協議会をしたりするのが一般的でした。しかし、今後は、それだけではなく、先生たちが共に議論し、アイデアを出し合う場に変えていくことが必要だと感じています。例えば、現在の総合的な学習の時間の課題をみんなで出し合い、それらをどうやって改善していけばいいのかといったアイデアを出し合うわけです。ICTの活用のしかたについても教師全員のスキルアップをするにはどうしたらいいかをみんなで考え、意見を出し合う場を設定するわけです。こうした先生たちによる協創的な対話による課題解決は、まさにカリキュラム・マネジメントの土台になるのではないでしょうか。

学校の「働き方改革」も、放置すべきではないことの一つです。具体的に何をやめたりどんな工夫をしたりするのかは、その学校の先生たちが共に考える必要があると思います。ある小学校の取り組みを紹介すると、職員間の連絡はすべてタブレットを使って行うこととし、職員朝会をなくすことで、20分の時間削減ができました。朝、子どもが登校したらすぐに授業が始まり、休み時間の長さもうまく調整して、午前中に5時間目までの授業ができるようにしたわけです。その後、給食の時間があり、6時間目の授業が終わるのは午後3時ごろです。そこから5時過ぎまでの約2時間に、授業の準備や打ち合わせを、余裕を持って行えるようになったそうです。これは先生たちが課題を自分事として考え、解決していった結果です。

重要なのは、先生たちが校内研修の時間に対話をすることによって、学校の課題を自分事として捉えていくことです。先生たちに意見を聞いてみると、いろいろなアイデアを出してくれるものです。そうやって自分たちの手で課題を解決していけば、協働する喜びが味わえますし、仕事へのモチベーションも高まっていくのではないでしょうか。

前田康裕著『まんがで知る 教師の学び3』(さくら社)

管理職自身が自分の在り方を考える

最後にお伝えしたいのは、校長先生自身が自らの在り方を見つめ直すことです。私がこれまで関わってきた学校で、先生たちが楽しそうに働いている学校の校長先生には共通点があります。それは、自分の学校の教職員を決して批判せず、むしろ先生たちに感謝の意を示していることです。そして、「私は何もしていません。先生たちが様々な課題を解決してくれています」と語ります。もちろん、校長先生は学校のビジョンを持っていますが、そのビジョンを実現する方法は、先生たち自身が考え、行動しているのです。求められているのは、管理職が決めたことを「こうしてください」と指示を出すのではなく、先生たちに課題解決をお願いするリーダーシップです。

同時に、管理職が社会情動的スキルを向上させることも大切です。社会情動的スキルとは、情熱を持ち、感情をコントロールし、他者と良好な関係を築く能力のことを指します。具体的には、前向きであり、いつも明るく穏やかで上機嫌でいること、教職員に対して敬意を持つことが含まれます。組織を変革しようと思う前に、まずは自身の変革が先決です。校長先生が先生たちとの信頼を築き、彼らの意見やアイデアを尊重する姿勢を持つことで、協働の喜びが芽生え、学校の課題は共に乗り越えられるでしょう。

教師としての価値を向上させ、学校全体の魅力を高めるためには、学校の要である校長先生のリーダーシップと自己変革が不可欠なのです。教育の現場で働く全ての人々が、お互いに尊重し合い、協力し合い、成長し合える環境を築くことが、真に意味のある教育を提供する第一歩だと思います。校長先生のリーダーシップがその礎となり、明るく前向きな雰囲気が醸成され、学校全体を活気に満ちた場所へと導いていくことでしょう。

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