拠点校指導教員の指導、その指導「あり」ですか?「なし」ですか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #61】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第61回は、<拠点校指導教員の指導、その指導「あり」ですか?「なし」ですか?>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
拠点校指導教員の指導の問題
2023年1月15日配信の「みんなの教育技術」(小学館)の特集「小学校教員の『学校における働き方改革』特集!」の<問題提起>「若手教員の困り事を解決するためにも管理職はソーシャルサポートの充実を」において、拠点校指導教員の問題を指摘させていただきました。その部分の内容を再掲させていただきます。
「1年目の教員の数人が、『拠点校指導教員の言うことを聞く気にはならない』と言っています。理由は『信頼関係がないから』です。『時々学校に回ってくる、よく知らない異性の年配教員に昔の話をされても参考にならない(モデルにならない)し、ダメ出しをされても指導を受け入れる気にならない』と言うのです」と指摘し、拠点校指導教員の指導のあり方を改めて考えるべきだと提言させていただきました。
一方的な書きぶりで不快な思いをされた方がいたら申し訳ございません。これは、私が2022年に初任者20名ほどに聞き取り調査をした際に聞かれた言葉です。こうした問題は、なかなか声を挙げることができないため、勢い余って少々強い表現になっているのかもしれません。こうした拠点校指導教員の問題を、公刊された文書の中でほとんど見付けることができませんでした。しかし、和井田・亀山(2011)※が小学校の新任教員へ聞き取り調査を通して困難感を時期毎にまとめた研究報告書に、その一端を見ることができました。それによると、初任教員の困難に関して次のようなことが指摘されています。
①5月連休明け~6月は精神的に危機に陥りやすい
採用から1か月経ち、新しい環境に慣れてきたこの時期に、ほとんどの新任教員にとって最も困難感が高まっていた。
②新任教員の困難感の中心は、生徒指導と児童理解、事務仕事である
ほとんどの新任教員に、生徒指導や学級秩序の問題に悩む時期が見られた。また、事務仕事に時間を取られて教員になる前に描いていた子どもと共に喜び、悲しむという教職イメージから離れていくことに悩んでいた。特に学級秩序の問題は、自身の教員としての資質が評価されるという思いがあるためか、他者に相談しにくい傾向が見られた。
③初任研指導教員は、新任教員の適応状況に影響を与える
指導教員との関係が悪かったり、その教育観や指導方針に同意できなかったりした場合、新任教員の不適応感は強くなる。また、指導員は評価する立場にいるために、「本採用前だから我慢する」ことを選んでストレスをため込んでしまう傾向がある。
今、ゴールデンウィーク明けに調子を崩す新任教員が多いと聞きます。この傾向は10年以上前からあったことがわかります。また、新任教員の困難は、多くの場合、学級の秩序形成、子どもとの関係づくりなど学級経営の問題であることが指摘されています。そして、この研究で初任研指導教員と記される拠点校指導教員の指導は、やはり新任教員の職務遂行に無視できない影響力をもっていることがわかります。この研究では、5~6月の最も困難度が高まるときに、初任研指導教員との関係に悩むこと、それだけでなく周囲の教員が忙しそうで相談できないことも指摘されています。新任教員は、タダでさえ右も左もわからない状況のなかで環境や採用条件などから孤立感を深めており、危険な状態にあることがわかります。
ある拠点校指導教員の挑戦
拠点校指導教員と折り合いが合わず休職したり、「授業乗っ取り」などの不適切な指導がきっかけとなって辞職したりする若手の話を聞く一方で、実に素敵な取組を耳にしました。学級担任として確かな手応えを感じていたT先生でしたが、年度が変わると拠点校指導教員を任じられました。彼は新しい仕事に、最初は大きなショックを受けたと言います。しかし、彼が非凡だったのは、新任教員を学級の子どもたちのように大事に育てようとすぐに決意したことでした。そして1年。初めての拠点校指導教員を終えて、担当する新任教員が最後にくれた色紙に書かれたメッセージを一部(5人のうち2人)紹介します。
● 1年間ありがとうございました! 授業ではたくさん褒めていただき、自信が付きました。いろんな事件が起きましたが、相談にのっていただいたり、子どもたちと全力で遊んでいただいたりと、木曜日がとても楽しみでした。また悩みや相談事があったら聞いてください。指導教員がT先生で本当に良かったと思っています! ありがとうございました。
● 授業を見て、優しくアドバイスしてくれたことや褒めてくれたこと。初任研では、ご指導だけでなく、相談にのってくださったこと。そして、授業を見学させていただいたこと。毎週金曜日が本当に勉強になりました。これからも、定期的に「ちーむT先生」で集まってみんなで愚痴を吐いて楽しくやっていきたいと思います! T先生も来てくださいね。
これらを読むと、T先生が、新任教員の強みにフォーカスし、それを言語化して伝え、自信が付くように指導を重ねて来たことがわかります。また、指導だけでなく、弱音や愚痴もたくさん聞き、相談にのっていたようです。教師としての職務遂行能力の向上のための指導だけでなく、新任教員との関係づくりや心理的メンテナンスも丁寧にやっていることがわかります。また、自分と新任教員の関係づくりだけでなく、「ちーむT」という言葉からわかるように、5人の初任者同士の関係性も育てていることが伝わってきます。
T先生が何をなさったのかをお聞きする機会がありました。最初に取り組んだことは、新任教員との信頼関係づくりでした。研修や授業参観の機会には常に上機嫌でいるようにしたそうです。そして、それぞれのよさ、強みをお便りで伝え、信頼関係をつくりながら、その関係性に応じたレベルの課題を伝えたとのことです。また、学級経営につまずかないように学級経営の基本的な考え方を伝えました。それは教えるというよりも共有するというイメージだったようです。学級経営チェックリストなどを使いながら、新任教員の出来ているところを承認する形で伝えていたそうです。そして、先程も指摘しましたが、新任教員同士をつなぐことを意図的にやってきました。力量形成は自分だけではできないことがあると共にメンバーの力を信じる謙虚なT先生の信念とお人柄が窺われます。
T先生のような実践があちこちで繰り広げられたならば、今よりも休職や辞職は減るのではないでしょうか。
<参考文献>
※ 和井田節子・亀山有希「新任教員の適応および初任者研修に関する研究」名古屋女子大学総合科学研究 第5号、2011、pp.1-10 」
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会、共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。