学生から学校への「通知表」~若者が夢を持てる教育現場に~
今、教育関係者が頭を抱える問題の一つに、教職に就こうとする若者が少ないことが挙げられます。学校としてできることは、何でしょうか? やはり、教育に興味のある若者を少しでも増やしたり、そうした若者に魅力を感じてもらったりするようなことが大事なのではないかと思います。
今回は、教育実習などで学生を学校に迎え入れることについて、考えてみたいと思います。
【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #09
学校への「通知表」
夏休みが終わると、学校に教員ではない若者たちの姿が見られるようになりますね。
大学生が教員免許を取得のために教育実習にやって来たり、自主的に現場で学びたいと希望する学生ボランティアがいたりします。また、大学2年の学生たちが、先生の助手として現場を体験する、「先生の体験助手プログラム」を実施している大学もあります。私の学校でも、文教大学の学生さんを受け入れていました。
令和4年9月には2人の芸術系専攻の学生さんが、この体験助手プログラムで来てくれました。とても意欲的な学生さんたちで、1週間のプログラムはあっという間に終わった感があります。
そして最後に、「校長先生、大学で習った形式的な手紙ではなく、本音で書きました」と一言添えながら、お手紙をくれました。
それは、まさに学校への「通知表」でした。
「田畑校長先生
助手体験プログラム(9月6日~9月14日)でお世話になりました。文教大学教育学部2年のK・Sです。先日の土曜授業の日も受け入れてくださり、本当にありがとうございました。今回の貴校での先生助手体験を通して、現場の先生方の働く姿や、教育の実態、貴校の教育方針など数多くのことを学ばせていただき、自分の中の教育観が大きく変化しました。
プログラムに参加するまでは、日々の授業から『教師はブラック』というイメージが強く、プログラムに参加することが少し怖いとも思っていました。そして、学校で決められたことを子どもたちが行うという形が学校の当たり前だと考えていました。ですが、貴校の先生方の姿や、子どもたちの学習態度を見させていただいたことで、先生方の働きやすい環境作り、子どもの主体性の育成などは、行動力によって実現するのだと学びました。変わるべきだと判断したら、すぐに校長先生に相談し、よりよくなるように改善策を考え実行する。このようなことは簡単に行えることではないと思います。実際に実行されている貴校の先生方を見て、先生同士でお互いを信頼することがどれだけ必要なのかを思い知らされました。
教育に関しては、子どもの意見を尊重し、サポートをしていくという教育の方法を行い、子どもが楽しく学校に通えるように様々な工夫をしているというお話を聞いて、子どもたちは、やりたいと思ったことへの挑戦の心が折られることなく積極性が育まれます。主体的に物事に取り組む子どもの気持ちを大切にすることが、子どもたちにとってどれだけ重要なことであるか。
学校が子どもにとって安心できる場所である必要性など、たくさんのことを考えることができ、学んだことを踏まえて自分なりの教育観についてさらに考えを深めていこうと思います。
温かい職員室、笑顔いっぱいの子どもたちに囲まれた時間は絶対に忘れません。
このご縁を大切に、今後も勉学に励んでいきます。また、貴校の子どもたちに会いにお伺いさせていただきたいです。この度は貴重な経験をありがとうございました。
令和4年10月15日
K・S
「教師はブラック」。この言葉を若者たちは、様々な場面で繰り返し聞かされ、刷り込まれています。最初からネガティブなイメージを持って学校現場に来ます。これはとても残念なことです。
だからこそ、先生たちが生き生きと教育する姿、それに呼応するかのような子どもたちの笑顔を目の当たりにすることで、価値観がひっくり返るのです。
「あれー、何かイメージと違うなあ!」
そう、これこそ、現場に彼ら彼女らを迎え入れる醍醐味と言えます。
K・Sさんたちは、イメージが180°転換し、「教育は行動力によって実現させるものなのだ」と体感できたようです。
この体験が大学に戻り、何気ないおしゃべりの中で良き噂として広がっていくのです。「私が行った学校は、いい学校だったよ。だって……」と。
私の学校では、職員室での朝夕の顔合わせの時間に、日程や合同授業の打ち合わせ、教材分析の相談、子どもの相談事等、職責や立場に関係なく互いをリスペクトし、コミュニケーションを取りながら進めていました。学校は人が放つオーラが空気として伝わります。この温かい空気を肌で感じたのでしょう。職員室ではポジティブな言葉が飛び交い、笑い声でとても賑やかです。
また、勤務終了と同時に帰りやすい雰囲気があります。勤務時間外平均が年間を通して26時間です。私自身は、17時から17時30分には学校を出るようにしています。私なりの教頭先生や教職員への配慮です。
「変わるべきだと判断したら、すぐに校長先生に相談し、よりよくなるように改善策を考え実行する」。
実際、本校は、令和3年度学校教育目標の変更や、総合的な学習の時間を、3年生から6年生までの異年齢集団学習に変更したり、登校や下校時刻を年度途中の令和4年11月に変更したりしています。コロナ禍で見えてきた学校の課題に即今着手し、どんどん改革してきたのです。
子どもが提案するイベントや授業も狙いが明確であれば、可能な限り実施してきました。教育課程に子どもたちの意見が生かされる教育環境です。そこに、「学校の主人公としての感覚」を味わえ、ワクワク感が生まれるのです。
前年度作成してあった年間指導計画(案)を、実態に応じて、どんどん修正し、変更したりもします。
例えば令和2年度には、4月に実施予定だった「1年生を迎える会」を9月に実施しました。
コロナで一旦中止されたものを、6年生の提案で、この時期に行ったのです。もちろん、1年生たちは大喜びでした。
6年生の提案で2月に実施した「文化祭」も、4年生以上がチームを組んで、演劇、合奏、教育漫才、理科実験、ダンス、裁縫プレゼンなど、コロナ禍で表現する機会を失っていた鬱憤を、良い形で解消できました。保護者もお招きして、この様子を観ていただきました。
令和3年度には、5・6年生の代表委員会が提案し、7月に実施した「水かけ祭り」。夏の暑い日、コロナ退散を願っての全校水かけ祭りは、マスクの下から歓声がこだましました。
令和4年度には、5・6年生の代表委員会の提案で10月に実施した「ハロウィン学習発表会」。1年生から6年生の異年齢18チームに分かれ、日頃の学習の成果を発表し合いました。
また同年、中止となった市内陸上競技会の代わりに、6年生が提案して12月に実施した「校内陸上競技大会」。5・6年生の希望者が出場しました。出場を希望しない5・6年生は、計測係として大会を支えました。趣旨に賛同した先生たちは、下級生と共に校庭で応援しました。さらに保護者も駆けつけ、活躍を温かく応援しました。
以上はほんの一部ですが、子どもたちの意見を尊重した学校づくりが当たり前に行われています。だから、子どもたちは、笑顔で登校しているのです。
学校は、一人ひとりが心理的に安心して学び、表現できる環境でこそ楽しくなります。
ここが、学校経営の柱になります。安心すると笑顔が増え、会話が増えていくのです。すると、授業が活性化していきます。プラスのスパイラルに入るのです。
さて、2人の学生さんと私自身は、朝、校門での挨拶運動を一緒にしながら、ひとときのおしゃべりを楽しんでいました。
また、放課後には、16時15分から16時45分までの30分ほどですが、教育談義をしました。教室での学びで得た感動や質問等、日々考えている教育への疑問に答えていきます。
そして、一日の労をねぎらい、笑顔で別れます。それが、2人の翌日への元気につながっていったと思います。K・Sさんは、「自分なりの教育観」を新たに創造しようと意欲的になっています。
おわりに
この「先生の助手体験プログラム」の2人は、令和5年現在、大学3年生です。
先日、K・Sさんと電話で話したところ、「先生になること」を目標に頑張っているとのことです。なんと嬉しいことか。
学校現場で、先生たちが子どもたちと笑顔で楽しそうに向き合い、子どもたちが主体的に意見を言い合う授業をし、笑顔でおしゃべりを楽しんでいる姿を見たら、「先生」に憧れ、自分も先生になって頑張ってみようかなという思いになります。笑っている先生たち、おおらかに失敗を許してくれる先生たちのいる職員室。そんな職場なら、一緒に働きたいなあという気持ちが湧き上がってくるのではないでしょうか。
2学期、皆さんの学校にも、たくさんの教育実習生を始めとした学生ボランティアたちが、「教師はブラック」という不安を抱えながらでやってきます。その時こそ、笑顔でおおらかに迎えてください。その笑顔が、明日の教育を担う若者の心に希望をもたらすのです。
学校現場ができることは、自分たちが仕事を愛し楽しんでいる姿を、そして笑顔を見せることに尽きます。
さあ、「Let’s スマイル 学校づくり」です。
イラスト/坂齊諒一
前回記事はこちら
2学期の学校経営のポイント【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #08】
自然災害に負けない小学校になるため、考えよう、防災教育【タバティのLet’sスマイル学校づくり #07】
子どもたちの夏休み、魅力的にしていますか?【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #06】
保護者からの「いじめ」相談。どう対応する?【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #05】
夏休みの宿題、やめませんか?! 【タバティのLet’sスマイル学校づくり #04】
夏休み前に、これだけはやろう【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #03】
教育は、今じゃない 【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #02】
うまく回らないときこそ笑顔と対話で 【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #01】
<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
最新の教育活動についてはこちら(他サイトが開きます)。