新学期の学級づくりは、まず何をすればよい?<後編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#27】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学

前回、学級経営がうまくいかなかった先生が、どのようにリスタートを切ればよいか、具体的な方法を説明していただきました。今回は、授業の中でも意識すべきことや、「黄金の3日間」という考え方について「快答」していただきます。

 私は新任の教員でやっと1学期を終えたところですが、正直言ってあまり学級経営がうまくいかず、何となく落ち着かない雰囲気のまま1学期を終えることになってしまいました。先輩からは、年度当初や新学期当初の最初の3日間は「黄金の3日間」と言われ、学級づくりをする上でとても大事だと教えられました。新学期を始めるときに何をすれば、うまく学級づくりをすることができるでしょうか。また「黄金の3日間」の意味についても教えてください。(20代、小学校)

「黄金の3日間」に限らず、「主体性」「協働性」「信頼性」の徹底を継続

 前回、新学期にうまくリスタートするためのポイントについてお話ししましたが、そもそも学級が落ち着かなくなるきっかけは、ちょっとしたボタンのかけ違えのようなものが多いのではないかと思います。担任の先生が学級を悪くしようと思って取り組むことはありませんし、とりわけ若い先生は熱意に燃えているからです。

もちろん、子供たちも最初から「この先生は嫌いだ!」と思っている子は、まずいないでしょう。ですから、お互いのちょっとしたボタンのかけ違えが重なって、問題が生じるのだと思います。その意味では先生が学級集団を自分の思いのままに、「ああしよう、こうしよう」と思いすぎると関係がうまくいかず、反発を生むことはあるかもしれません。ある意味、先生は良かれと思っていたのに反対の目が出てしまう、ということはあると思います。

ですから、前回お話をした人間関係づくりやアイスブレイクなどの学習活動も、学年が上がってくれば、「自分たちがどんな学級にしたいの?」ということを共有してから、活動として位置付けることもできるでしょう。「自分たちがめざしたいクラス」や「自分たちがありたい姿」を学級で共有し、「じゃあ、そのためにみんなでこうやっていこうか」という話になっていけば、子供たち一人一人に意識化され、自覚的なものになると思います。低学年の場合はそこまで明確なイメージはないかもしれませんから、「じゃあ『仲良しクラス』になっていこうか!」と先生から声をかけてもよいだろうと思いますが、学齢が上がるにつれて、子供の思いや願いを受け止めながら進めていくことも大事でしょう。

前回確認したのは、子供同士の関係性や居心地や居場所といったことが中心でしたが、学校生活を自分たちがつくっていくとか、授業や学びを自分たちがつくっていくという感覚を子供がもてるような、教師の関わりが大事だということです。生活科や総合的な学習の時間(以下、総合学習)では、それが顕著に出ているわけですが、先に説明したようなクラスづくりのあり方が、他の教科学習の中でも実現できるとよいだろうと思います。算数の授業でも、国語の授業でも、先生がいつも一方的に強引に進めていく授業から脱却し、子供たちが自分たちはどのようにしたいのか、何を追究していきたいのかを考え、自ら主体となって学習を進めていると感じられるとよいでしょう。つまり子供たちが、「自分が学びの主人公だ」と感じられるような教師の関わり方とか、子供同士が互いを受け入れ、認め合えるような関係性ができてくると、子供たちも「このクラスで学ぶことが楽しいな」と思えるようになるでしょう。そのような、授業づくりの基本的な姿勢について、先生も考えておくことが必要だろうと思います。

子供たちが、自分たちで決めて学んでいると思えるような先生の授業づくりや関わり方が大切。

ただし、先生が若く指導力が十分にはないときに、何でも子供たちの思いで授業を進めようとすることで、かえって目標やねらいがバラバラになって統一感のない授業になる危険性も生じます。ですから、経験があまりない段階では、一定程度、教科書や関連テキストで進める教科がありながら、生活科や総合学習では子供主体で進めるとか、新学期の1週目は学級づくりや人間関係づくりに特化するなど、シフトのかけ方を考え、時期や教科等に応じて重点化をしていくことも大切だと思います。

指示に対して、確認し、評価し、ほめるということを常に行う

それから「黄金の3日間」についてですが、この言葉にはいくつかの解釈があると思いますし、時代による捉え方の違いもあることでしょう。「黄金の3日間」に、「鉄は熱いうちに打て」というような、学年や学期のスタート時期にしっかりルールや決まり、しつけを徹底させる、「そうしないと子供たちが野放図になったり、無秩序になったりする」というようなイメージがあるとすれば、少し注意が要るように思います。もちろん、何でも勝手にさせてよいとは思いませんが、私はルールやしつけを短期間で叩き込むようなことはしなくてもよいと思っています。

むしろ「クラスの主人公は君たち一人一人なんだよ」というメッセージを送ったり、「お互いが関係豊かに自分たちの考えを自由に出していいんだよ」と伝えたりして、「先生は自分たちのクラスの安心し合える関係をつくってくれる存在なんだ」と、子供たちが思えるような時間をつくることのほうが大事です。その意味では、それを3日間で獲得できるようにするという意味での「黄金の3日間」という解釈があるならば、それはあってもよいのかもしれません。

とはいえ、自分たちの学級や自分たちの学びは自分たちがつくるという「主体性」や、友達同士で互いに支え合って力を合わせていける「協働性」や、それらを支えてくれる経験豊かな先生がいてくれるという「信頼性」は、別に3日間に限って徹底させるものではないでしょう。それを先生が最初に伝えて子供たちが獲得することは悪くないけれども、むしろ、その後もずっと学校生活を送り、学ぶ上での基盤として日々、継続していくことのほうが大事です。

おそらく学級経営が不安な人にとっては、きまりやルールを組織として早期に獲得していったほうがよいと思うところがあるのではないでしょうか。しかし、それらは最初に教えたからできようになるというわけではなく、その後の授業や学習活動が安定的に行われていく過程で獲得されるべきものだと思います。例えば、「どんなふうに返事をする?」「どんなふうにノートや提出物を提出する?」など、最初に確認すべき約束事もあるでしょう。しかし、そこで「こうします」と確認をしたら、定着し継続するというものではなく、普段の授業や学習活動や学校生活の中で、ていねいに繰り返されていくことによって安定していくと考えたほうがよいと思います。

学級が不安定になると、指示が通らず、約束や決まりが不安定になるということがあるわけですが、そうならないために先生が日常の指導で行うことがあると、私は考えています。先生は日常の指導の中で、「~しましょう」と指示をすることが多くあります。この指示を出したら必ずしなければならないのは、指示がどのように実施されているかを確認することです。当然確認をしてみたら、「ちゃんとできているな」という場合もあるし、「まだまだだな」という場合もあるし、「がんばっている最中の子が多いな」という場合もあるでしょう。その確認をしたときには、状況を評価し、ほめるということです。「みんなちゃんとできているね」とか、「〇〇さんのやり方は参考になるね」とか、評価してほめるのです。

指示や決めた約束がきちんとできていたら、評価し、ほめることが大事。

このようにきちんと指示に対して、確認し、評価し、ほめるということを常に行っていれば、最初の3日間に強く明示していなくても、学習過程を通して先生の指導は確実に浸透するようになります。しかし、指示のしっぱなしになっている場合が多いのです。そのように放置しながら徹底しなくなったときに、「この学期の最初にルールを言ったよね」と言われても、子供たちは困ってしまうでしょう。ですから、指示を出したら実施されているかどうか確認して、確認したら評価し、できていたらほめる。若い先生は、こういうことをていねいにやっていくことが大事だと思います。特に、できていることをほめることを大事にしてほしいものです。

それは、決して学級にルールやマナーがなくてもよいということではありません。先生はある程度、実施しようとするルールやマナーのイメージをもっていたほうがよいのですが、頭ごなしに「これはこうしましょう」「こうしなさい」と決めつけないほうがよいということです。前半でお話をしたように、学年に応じてルールも子供とつくり上げていったり、学習活動の中で徐々に確立していったりするのでよいと思います。ただし、つくり上げ、確立していく過程ではちゃんと確認して、確認したことは評価し、きちんとほめていってほしいものです。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、9月14日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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