教員のメンタルヘルス 【わかる!教育ニュース#31】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第31回のテーマは「教員のメンタルヘルス」です。
目次
2021年度に精神疾患で離職した公立小・中・高校の教員数が過去最多
まじめで仕事熱心な人ほど、自分が心身の限界を超えて働いていると気付けず、心の病をわずらうと言われています。そういう人は教員にも多いようです。
2021年度に、うつ病などの精神疾患で離職した公立小・中・高校の教員が953人に上り、過去最多になったことが、文部科学省の調査で分かりました(参照データ)。
学校種ごとに見ると、小学校が前回調査の18年度と比べ、114人多い571人、中学は35人増えて277人、高校も22人増の105人で、いずれも過去最多です。定年退職を除いた離職者に占める割合は、小学校8.1%、中学校7.6%、高校5.2%。人数でも割合でも、小学校の厳しい状況が目立ちます。
調査は、教員の採用や離職の動向、年齢構成などを把握するため、3年ごとに行っています。これとは別に、懲戒処分や病気による休職など教員の人事行政に関する文科省の調査でも、精神疾患を理由に休職した公立小・中・高校教員が、21年度はこれまでで最も多い5897人でした。
背景について、永岡桂子文科相は8月1日の定例会見で「教員の業務の質の困難化、教職員間の業務量や内容のばらつき、保護者などからの過度な要望などがある」と語りました。これまで、管理職による教員の不調把握、相談対応、休職後の職場復帰の支援、ストレスチェックの実施を各教育委員会に促してきたと説明した上で、「働き方改革やメンタルヘルス対策にしっかりと取り組んでいかなければ」と、改めて表明しています。
休職の原因分析と、セルフケア促進やICTの活用などでメンタルヘルス対策
「セルフケアの促進とともに、校長や副校長・教頭、主幹教諭などの『ラインによるケア』の充実が必要」「役割明確化、業務縮減・効率化、相談体制の整備などを図る」これは教員のメンタルヘルス対策を巡る文科省の有識者検討会が、2013年にまとめた提言の一部です。
それから10年。心の病による休職や離職に、歯止めはかかっていません。危ぶんだ文科省は、本年度から教員のメンタルヘルス対策に関する、新たな事業に乗りだしました。5つの教委を対象に、専門家や企業と協力しながら、休職の原因分析と、セルフケア促進や情報通信技術(ICT)の活用など、メンタルヘルス対策を進めます。研究や成果の検証を通じ、効果のある対策を各地に広げていく考えです。
教員のメンタルヘルス対策は、教員の不足や働き方改革に絡む問題です。ただでさえ人手の足りない中、休職や離職が止まらないままでは、現場の負担が増すばかり。長時間労働が絶えず、さらなる休職や離職を招く上に、教員を志す若者も減ってしまいます。 10年も前から取り沙汰されてきても事態が好転しないのは、問題の根深さや複雑さもあるでしょう。とはいえ、もう待ったなしの状態。原因分析や効果的な取組を探る文科省の事業も、スピード感をもって臨まねばなりません。
【わかる! 教育ニュース】次回は、9月15日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子