提言|専門家が指摘! 学校の同調圧力を弱くすることが重要 【緊急検証! 教員のなり手不足問題、私はこう考える! #5】

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緊急検証! 教員のなり手不足問題、私はこう考える!
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教員のなり手不足問題は深刻であり、日本の学校にとってその解決が目下の急務です。現在、文部科学省が進めている働き方改革や給特法に関する議論は確かに重要ではありますが、果たしてそれだけで解決となるでしょうか。教育関係者がその他にできること、するべきことは何かを考える7回シリーズの第5回目です。今回は、学校の同調圧力に注目します。『同調圧力の正体』(PHP新書)の著者で、日本における組織研究の第一人者として知られる同志社大学の太田肇教授に話を聞きました。

太田肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学博士(経済学)。日本における組織研究の第一人者として知られ る。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業 研究奨励賞本賞などを受賞。『何もしないほうが得な日本』(PHP新書、2022年)、『同調圧力の正体』(同、2021年)、『日本人の承認欲求』 (新潮新書、2022年)、『「承認欲求」の呪縛』(同、2019年)、『「超」働き方改革』(ちくま新書、2020年)など著書多数。

本企画の記事一覧です(週1回更新、全7回予定)
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 提言|専門家が指摘! 学校の同調圧力を弱くすることが重要(本記事)

学校の同調圧力が強くなりやすい理由

教員のなり手不足問題には、学校の同調圧力も関係していると思います。同調圧力とは、「本人の意に反して、1つの方向に向かわせる、有形無形の圧力」と定義されますが、もともと学校は同調圧力が強くなりやすいのです。その要因は2つあります。

1つ目は閉鎖性です。学校は外部の人の出入りが少なく、教員は児童生徒以外の人と接触する機会があまりありません。毎年教員の人事異動があっても、異動の範囲は市内か県内ですから、全く知らない人が異動してくるわけではなく、知り合いの誰かとつながっていることが多いと思うのです。しかも、外部の人からは、学校の中で何が行われているのかが見えにくく、校内は独自の論理で動いています。企業であれば、社内で不自然な行動、独特の行動をしていれば、取引先などが気づき、指摘されることがありますが、学校には児童生徒しかいないので、指摘を受けることはめったにありません。閉鎖的な組織では内部最適が追求されますから、内部にいる人たちの利益を守るために、しばしば組織本来の目的が後回しにされます。それでも、内部から閉鎖性を崩そうとする動きは出てこないのです。

要因の2つ目は、同質性です。大学を卒業したばかりの新人教員が、閉鎖的な学校に配属されて純粋培養されると、どうしても同質性が強くなっていきます。そのうえ、多忙化により、教員は学校で長時間一緒に過ごしているため、考え方や行動などが似てくるのです。そして、みんな同じような考えを持っているだろう、将来について同じような展望を持っているだろう、生活パターンも似ているだろう、などと暗黙のうちに一致する部分が増えていき、同質性のレベルが高くなっていくのです。

その結果、学校では夜遅くまで仕事をすることや、部活動の指導をすることがデフォルト(標準)になってしまうわけです。これが同調圧力です。今の学校は最初から同調させる初期値が高くなっていて、みんながそれに合わせていくので、ますます同調圧力が強くなっていくのです。

さらに、学校では、保護者のクレームが原因で同質性が高まることがあります。例えば、同じ学年で、「1組はこの指導しているのに、なぜ2組は同じ指導をしないのか」と、保護者からクレームが来たとします。そうすると、管理職の中にはクレームを避けるために、「全校が同じ指導をするように」と指示する人もいるのではないでしょうか。そうやって同質性が高くなり、同調圧力も強くなっていくのです。

同調圧力を弱めるための3つの方法

実は、同調圧力にはメリットもあります。それは、集団の同調圧力に従っておけば、摩擦もなく、気楽に過ごせることです。同調圧力に抵抗を感じない人にとっては、とても居心地がいいのです。そして、考え方が皆、似ているため、集団としてまとまりやすく、何かをするときにはスムーズに話が進みます。もしもいろいろな価値観を持つ人たちの集団だったらそうはいきません。調整が必要になりますが、同調圧力が強い集団ではその手間がかかりません。そういう意味では、同調圧力は、管理職にとっては都合がいい面があります。

しかし、「自分はこういうことをしたい」などの志をもって教員になった人にとっては、同調圧力のデメリットの部分が強く感じられるでしょう。そのデメリットとは、一人一人の個性や、考え方が反映されにくいことです。さらに、新しいアイデアが生まれにくく、革新もされにくくなります。これでは学生の目には魅力的に映らないでしょう。

実際に、学生たちに学校のイメージを聞いてみますと、民間企業と比べて、非常に窮屈で閉鎖的なイメージを持っています。それに加え、2019年秋に発覚した神戸の「教員いじめ事件」のインパクトが大きかったようです。今の大学生は当時、高校生でしたが、マイナスのイメージが今も残っているのです。

教員のなり手不足を解消するには、学校のイメージをもっと良いものに変える必要があります。「働き方改革」など、学校にはすべきことがいろいろあると思いますが、強くなりすぎている学校の同調圧力を弱めることも重要でしょう。そのために具体的に何をすればいいのかを、3つご提案します。

先ほど同調圧力が生じる要因は閉鎖性と同質性であると述べました。つまり、その逆のことをすればいいわけです。

1つ目は、学校をオープンな、外に開かれた組織にすることです。外部の人を招き、積極的に交流していくことも一つの方法ではありますが、教員たちが外で活動することを校長先生が支援するようなリーダーシップを発揮することでも、開かれた組織に変えることができます。例えば、働き方改革で業務の縮減を進めながら、「仕事を勤務時間内に終わらせて、自分の好きな活動を楽しんでください。それぞれの生活を大事にしましょう」という方針を、校長先生が打ち出せば、教員の視野も人間関係も、外の世界に広がっていき、結果として学校は外に開かれます。

2つ目は、教員一人一人の個性を大事にし、同質性を高くしないことです。多くの企業では、目標の達成度で社員を評価します。目標を達成しさえすれば、やり方は社員に任されるのです。学校も目標を設定したら、その目標を達成する方法は一人一人の教員に任せるべきだと思います。

もちろん、学習指導要領がありますから、教員はその内容に沿った指導を行わなければなりませんが、その範囲内で、学校の目標はこれで、この部分のルールは守り、目標に至るやり方は、一人一人が創意工夫できるようにするといいと思います。それにより、先生方の「やらされ感」がなくなり、だいぶ自由度は高まるはずです。

もしもそれぞれの教員が個性を発揮することで、保護者からクレームが来たとしたら、そのときは管理職が「この先生はこういう方法で、この目標を達成しようとしています」と説明し、教員を守ってやる必要があるでしょう。

3つ目は、フラットな組織にして対話を大事にすることです。学校は、以前は鍋蓋型の組織と言われていましたが、管理職の権限が強化され、今はピラミッド型の組織になりました。ピラミッド型の組織では、教員は管理職の指示に従う必要がありますから、その分、受け身になって同調圧力が強くなります。学校が教員一人一人の個性を大事にするには、基本は鍋蓋型のほうがふさわしいと思います。ただし、かつてと同じマネジメントをしていたら、教員が好き勝手をして、バラバラになるだけです。校長先生はフラットでも組織としてうまく機能するように工夫する必要があります。

学校の管理職と一般教員の間には権限の違いがありますが、人間としての立場は対等であるはずです。まずは、年齢差があっても、同じ学校を卒業した先輩と後輩であっても、普段から、対等に意見を言えるような環境づくりが求められます。それには、日常のコミュニケーションから、対等であることを心がける必要があります。おすすめしたいのは、言葉を変えることです。具体的には、誰に対しても、どんなときも敬語で話すというルールをつくります。先輩と後輩の関係でも、先輩が敬語で話すようにすると、パワハラは起きにくくなるものなのです。

そして、学校では「チーム学校」として教員が協力して課題を解決していかなくてはなりませんから、同調と協力の違いを認識することが重要です。同調は受動的であり、受け身です。それに対して協力は、一人一人の主体性から生まれるものです。つまり、主体性が、協力のキーワードになります。

例えば、チームとして、ある問題を解決しなければならないとしたら、最初に教員一人一人が、どうすれば解決できるのかを考えるところから始めて、解決に向けてどうやって貢献できるかを考えて行動するのです。それがないまま行動すると、同調しようという姿勢になってしまうからです。その際、管理職がすべきことは、意思決定をするときに教員の意見を聞く機会を設けることです。問題をどうやって解決するかについて、意見を出し合い、話し合って決めることが重要です。そうすれば、上下関係のないフラットな組織であっても、みんなが協力し合えるのです。 

同調圧力を生まずに新人教員を育てる

また、同調圧力を生まない方法で新人教員を育成することも重要です。学校では、大学を卒業したばかりの新人教員であっても、勤務初日から担任として子どもの前に立ち、一人前の教員として扱われるわけです。その分、学校側の丁寧なサポートが求められます。

とはいっても、中には新人でも自分でどんどん仕事を進めていける資質や条件を備えた人がいるかもしれません。その一方で、それができない人もいます。大事なのは、彼らを一律に扱わないことです。できない人のほうに合わせた対応をすると、できる人にとっては物足りないですし、できる人に合わせると今度はついていけない人が出てきます。

ですから、一人一人に注目して、各人に必要なサポートをすることが重要なのです。

最近では、1on1(ワンオンワン)ミーティングといって、上司と部下が月1回、30分から1時間程度、 1対1での面談を行う企業が増えてきています。同調圧力を生まないことを前提にしながら、一人一人にケアをするには、学校でも校長先生と新人教員が1対1でミーティングをするといいと思います。本心は、他の人がいる場所では出せないからです。

そのときに新人教員のニーズや希望を聞き、その人に合った研修を考える必要があります。 私はこんなふうに指導してもらいたい、将来はこんな教員になりたいと思っているなど、人それぞれ、背景が違い、考えも違うわけですから、それらを吸い上げてやるのは大事なことだと思います。

企業で多くの新入社員が困惑するのは、先輩から「自分で考えてやりなさい」と言われ、自分で考えてやってみると、「なぜ相談しないのか」と怒られることです。そうなると、彼らはどうしていいかわからなくなり、同調するようになっていくのです。学校でも同じことが起きているのではないでしょうか。

もちろん、仕事ですから、新人教員が好き放題にやっていいわけではありません。大事なのは、あらかじめ仕事の線引きをしてやることです。例えば、ここまでは自分でやりなさい、ここから先は相談しなさい、 これだけは必ず守るように、などと言ってやることで、新人教員は萎縮せず、主体性を失わずに仕事ができるはずです。

学校が就活中の学生にアピールすべき点は?

いまや人手不足で困っているのは、学校に限ったことではないのです。企業でも業種や職種によっては深刻な状況になっています。公務員も人手不足です。

ただ、教員の世界は、見方を変えれば、魅力的な職場になりうるのではないかと感じます。なぜそう思うのかといいますと、多くの企業や役所では、新人はなかなか1人前として扱ってもらえないからです。例えば、霞が関で働くキャリア官僚と呼ばれる人たちも、最近は採用倍率が下がり、すぐに辞めてしまう人が増えています。辞めていく人たちが挙げる退職理由の中に、「最初はコピーや使い走りばかりさせられて、それが嫌だから」というものがあります。

それに対し、教員は一年目からクラスの担任を任され、プロとして活躍できる仕事です。その点を学生に向けてもっとアピールしていけば、「最初から第一線で活躍したいと思っている、意欲的な人たち」が集まってくる可能性はあると思います。

ただし、そのような意欲的な若い人たちを集めたところで、彼らを生かせるような組織になっていなければ長続きはしないでしょう。

実際は、学校では「出る杭は打たれる」と聞きます。これも同調圧力のなせる業です。学校の場合は同調圧力が強いために、誰かが目立った行動をすると、周囲の人たちは「自分も同じことをやらなくてはならない」と考えてしまうのです。そう考えてしまうのは、日本人独特の発想だと思います。これも閉鎖性と同質性が基になっています。出る杭は、周りの人たちにとっては迷惑なのです。自分にもしわ寄せがくるからです。だから、打つのです。

出る杭が打たれないようにするために、大事なことは分化です。一人一人の役割や裁量などをきちんと決めて、分担を明確にしておくのです。「あなたはこれをする人」、「私はこれをする人」と、一人一人の分担が明確になっていたら、「その中であなたは好きなことをやったらいいよ」という発想になります。このように、周りにしわ寄せが行く構造をできるだけなくすことが重要です。

これは、先ほどお話しした、「目標を決めておいて、やり方は一人一人に任せる」という話にも通じています。人の行動を見て、「参考にはするけれど、自分のやり方は自分で考える」という発想に変えていくことが大切なのです。

管理職は教員の個性を生かすマネジメントを

学校の校長先生の失敗談を聞いていると、自分はこうしたい」、「自分はこんな学校をつくりたい」という理念が先行してしまって、一人一人の 教員に対する目配りが欠けているケースが多いと感じます。一時期、民間人の校長を積極的に登用していましたが、その多くがうまくいかなかったのは、そのパターンが多いようです。

企業では、利益を上げるという1つの目標がはっきり決まっていて、それを達成させるためにトップダウンで業務を進めていくわけですが、このようなやり方では、学校ではうまくいかないのだと思います。

学校の教員の場合は、一人一人がプロであり、「こんな教師になりたい」という志も将来の展望もいろいろですから、一人一人の意思、価値観、考え方を尊重し、それと学校の理念をうまく調和させることが一番大事なのではないかと思います。 それには、校長先生が自分の理念を押し付けるのではなく、学校の目標を示し、守るべきことをはっきりさせたうえで、実際に目標を達成するためにどんなやり方をするのかは、一人一人の教員に任せることが重要でしょう。校長先生がこのように一人一人の個性を生かすマネジメントをしていくことで、学校の同調圧力は弱まり、教員のなり手不足問題が改善するのではないでしょうか。

取材・文/林 孝美

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