思考ツールの活用法を教えてください<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#23】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、「思考ツール」を活用するための基本的な考え方について説明していただきます。

 私はまだ授業で思考ツールを活用したことがありませんが、子供の論理的な思考力を育むためには、思考ツールを活用することがとても効果的だと先輩に聞きました。その先輩から田村先生は思考ツールの専門家であると伺ったのですが、どんな教科のどんな場面でどのように使うと効果的なのか、活用の仕方をぜひ教えてください。(20代、小学校)

「思考ツール」とは、情報を処理し、再構成するためのフレーム

 今から10年ほど前、黒上晴夫先生(関西大学教授)と、小学館から「思考ツール」に関する本を出したときには、ここまで「思考ツール」という言葉が広がるとは思っていませんでした。最初は黒上先生と、現行学習指導要領への改訂も考慮すると「思考ツール」は必要なものなので、早く本を出そうという話はしていましたが、ここまで広く活用されることになるとは思っていなかったのです。

余談はさておき、まず「思考ツール」とは何かについて簡単に説明していくことにしましょう。「思考ツール」とは端的に言えば、情報を処理し、再構成するためのフレーム、枠組みです。「考える」というのは、情報を処理し、再構成するということだと思いますが、その枠組みであり、フレームが「思考ツール」です。

「考える」ということはとても重要なことで、現行学習指導要領への改訂時の本丸となるのが「思考力の育成」であり、この「考える」ということでした。それにも関わらず、「考える」というのはあまりにあいまいな言葉であり、授業のレベルで言えば、「考えましょう」とか「よく考えましょう」とか「真剣に考えましょう」という水準でしか言ってこなかったというのは、誰しも自覚するところではないかと思います。つまり、極めて重要なことでありながら、それを具体的に育成するための方法を我々はもってこなかったわけです。

その大きな理由は、「考える」というビッグワードを、そのままにしてきたからということです。「考える」というのはあまりに大きな言葉であるにも関わらず、そのまま「考えろ」と言われても、どうしてよいか分からないでしょう。ですから、「考える」というビッグワードを、何とか具体化してブレイクダウンすればよいわけです。先にも言いましたが、「考える」とは情報を処理し、再構成することなので、「比べる」とか「分類する」とか「関連付ける」とか「多面的に見る」とか「序列化する」とか「因果関係で考える」とか「構造化する」とか「統合する」などの具体的な情報処理の仕方があります。これを「思考スキル」と言うわけです。

この「思考スキル」に関しては、現行の学習指導要領で初めて、総合的な学習の時間の中に位置付けられていて、学習指導要領の水準だと「考えるための技法」という言葉になります(以下、資料参照)。それを、「思考スキル」と考えていただければよいと思います。

総合的な学習の時間
第3 指導計画の作成と内容の取扱い
2⑵探究的な学習の過程においては、他者と協働して課題を解決しようとする学習活動や、言語により分析し、まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにすること。その際、例えば、比較する、分類する、関連付けるなどの考えるための技法が活用されるようにすること。

(資料)小学校学習指導要領

つまり、「考える」というビッグワードを具体的にブレイクダウンして、自分たちが扱える水準のものにしようというのが、「比べる」とか「分類する」といった「思考スキル」です。このようにして、「比べましょう」とか「分類しましょう」と言えば、ただ「考えましょう」と言うよりも、ずいぶん前進しているわけですが、正直言って、それがすぐにできる子もいれば、できない子もいます。そこで、「比較しましょう」「分類しましょう」と言われてもできなかった子が、ベン図という「思考ツール」を使えば、比較、分類できることになるわけです。また「関連付けましょう」と言われてできなかった子も、ウェビングマップを使えば、「関連付ける」という思考が生まれてきます。「多面的に考えましょう」と言われてもできなかった子が、二次元表(マトリクス)を使うことで「多面的に考える」ことができます。

その意味では、ただ「考える」という言葉を、「思考スキル」の水準に具体化し、さらにはそれに対応する具体的な学習活動の水準としての「思考ツール」を用意することができれば、これまで皆目手に負えなかった「考える」ということが、我々でも扱えるものになるというイメージです。

「思考スキル」の水準で整理し、「思考ツール」をセットで用意

2つのものの相違点を読み取って表に整理するといったことは以前からも行われてきた。そうした学習のねらいや目的に沿って、より的確に「思考ツール」を活用することで「考える」ことの水準がより高度なものになっていく。

この「考える」ための「比べる」とか「分類する」というのは、頭の中で知識や情報を処理していくための「方法に関する知識」なのです。それは「手続的知識」と言われます。小学校の1年生ももっていますし、我々大人ももっています。ただし、小学校1年生の「比べる(比較)」は、具体物がないとできないとか、二者比較はできるけれどたくさんあるとできないとか、比べたときに違いは見付けられるけれども、同じところは見付けられないといった特徴があると思います。

しかし、大人になると、具体物がなくてもイメージだけで比較できるとか、2つだけでなく山ほど並んでいても比較できるとか、対比だけでなく類比といった類似点を見付けることもできるようになっていることでしょう。その意味では、ただ単に比べることを行うだけではなく、それがより自覚的に使えるようになったり、より多様な場面や状況で使えるようになったりすることが増えれば増えるほど、「比較する」ことが自由自在に使えるようになってきていると言えるのではないかと思います。

ただし、これまで我々は自覚的に「比べる」のではなく、何となく経験則で獲得してきたところがあったのではないでしょうか。ただ、それを後から言われてみれば、「『比べる』ことだったんだな」と思い返すのではないかと思います。それをある程度、学齢の低い段階から、「これは『比べる』んだな」と自覚していけば、より確かな形で自在に使える状況になる可能性が高まるのではないでしょうか。

おそらくその意味では、これまで何だか分からないまま「考えるぞ!」とやってきた大人に対し、「思考スキル」を自覚し、意図的に「思考ツール」を使って育った子供たちは、「比較する」「分類する」ということが分かった上で使いこなせるようになるので、「考える」とか「思考する」ことの水準が、より自覚的、より意図的、より高度なものになっていくということが言えると思います。つまり、より目的的に使用することができるようになるため、「今回の情報はどう処理し、整理しようかな」となったときに、「この情報は『ピラミッドチャート』がいいだろう。それは統合してまとめたいからだ」とか、「これは『同心円チャート』にしよう。それは変化をとらえたいからだ」というように、「考える」ことの目的との一致が、より的確になされるようになると思います。

私たち教師は、すべての子供に「考える」ことを確かな形で実現し、資質·能力としての「思考力」育成を図ることが求められています。そのためには、多様な学習の場面における「考える」ことを「思考スキル」の水準で整理し、そこに「思考ツール」をセットで用意することによって、すべての子供に「思考力」を確実に育成できる可能性が格段に高まることでしょう。

今回は、「思考ツール」について、「考える」ことや「思考スキル」との関係という、ごく基本的なことについて説明していただきました。次回は、もう少し具体的な教科の学習場面と関連付けながら「快答」していただきます。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、8月17日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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