家庭との連携を行うためのポイントは?<後編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#20】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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國學院大學人間開発学部教授

田村学

先生方のご相談について、國學院大学の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回も、家庭との連携を行うためのポイントについて、前回とは少し異なる視点から説明していただきます。

 社会環境や家庭環境の変化で、子どもの困り感も多岐にわたります。学校で子供の支援をしても、家庭との連携の在り方次第で、支援が効果的になるかどうかが変わってくると思います。より効果的な家庭との連携を行うためのポイントは何でしょうか?(小学校、20代) 

まず発信してみる、学級の状況を進んで開示してみる

 前回、先生の側から積極的に情報発信して信頼関係を築いていくことが大切だとお話ししました。しかし、保護者と関係をつくるときに、若い先生からすると年上の保護者が怖くてうまく関われず、身構えてしまうこともあるのではないかと思います。人間も動物ですから、こちらが身構えると相手も身構えてしまうわけで、いったんそうなると、なかなか関係をほぐしていくことがむずかしくなっていきます。ですから、不安なところもあるかもしれませんが、まずは先生側からアプローチしていくことが必要です。

「最近、ベテランの先生方から『今の若い先生はまじめで、授業も上手に失敗せずにやれるけれども、失敗を怖がっていて自らチャレンジする、アプローチすることが苦手な人が多い』という声を聞く」との話を耳にしたことがあります。そのように失敗を怖がるため、保護者との関係づくりに一歩踏み出すことができないのではないかというのです。本当にそうなのでしょうか?

「今の若い人は…」というように世代間の違いがあるかどうかは分かりません。ただ、往々にして「昔は良かった」と言いたくなるように記憶はできているものだと思います。ですから、「今の若い人は…」と言った途端に、何らかのバイアスがかかっていて怪しいと思ったほうがよいのではないでしょうか。それに、「今の若い人はまじめで」と言われるのだとしたら、それはとても好ましいことだと思います。さらに、「授業を上手にやれる」のはすばらしいことだと思います。

そういった世代の問題ではなく、誰しも果敢に挑むとか、自ら進んで自己開示するといったことは、不安だったり、怖かったりするものでしょう。それができるかどうかは世代の問題ではなく、自分から人に声をかけたら、うまく関係を築けたとか、知らない人たちの勉強会に自分から飛び込んでみたら、最初は緊張したけれど、最後にはうまく溶け込めて力が付いたといった行為を通して、手応えをつかんだ経験の有無によると思います。そうした経験を通してポジティブな感情を獲得していないと、それを進んで行おうとは思えないはずです。

これまで知らなかった人たちの勉強会に飛び込み、緊張しながらも学び、手応えをつかんだという経験は、先生の授業力だけでなく、他者との関係づくりの力も育んでくれるのかもしれない。

そのような手応えやポジティブな感情をもつためには、まずは一歩を踏み出して取り組んでみることが必要になるわけです。当然、最初は不安もあることだとは思います。そのときに、改めて思い出してほしいのが、前回お話をしたように、元々、日本の社会には学校や学校の先生に信頼を寄せようという土壌があるということです。加えて、保護者にとって学校の中は見えにくく、情報を発信してほしいと思っているということもあります。つまり、先生がまず一歩を踏み出せば、それを受け入れようとする姿勢が、必ず保護者の側にあるはずだということです。

日本人には「何かあったらまず学校へ…」という気持ちがある

社会が保ち続けてきた学校への信頼を、国としてより今日的なものにしていくために取り組んできたのが「コミュニティ・スクール」ですし、「チーム学校」として取り組むのも、学校の先生だけでなく、多様な人が関わって教育を行っていきましょうということです。それは、昔は良かったということではなく、新しい時代の中で地域や保護者と一体になって子供を育てていこうということですし、学校を中心にしながらも、先生だけでなく、多様な立場の人が関わり合いながら子供を育てていこうということでしょう。それは、懐古主義のようなものではなく、より今日的な子供を取り巻く社会的価値観の醸成を目指しているということだと思います。
さらに今後のことを考えると、より持続的な社会を創るためには、学校という機能を社会全体に広げていくことが求められるわけです。子供たちが元気に町に出て足音がするような地域は、今後も存続していくでしょうけれど、その足音が途絶えると地域が存続しないという状況になってきています。これまで地方創生というと、すぐに工場誘致などという話が出てきていましたが、長期的に効いてくるのはやはり学校や教育の力だと思います。それは、多くの方々が感じているところではないでしょうか。

地域の中に学校があり、子供たちの足音が響いていることが、地域社会の存続にとっても重要だ。

私が地元新潟県の小さな学校に勤務していたときに、運動会が行われると、子供たちの数よりも多くのおじいちゃんやおばあちゃんが学校に集まってくるわけです。そしてわずかな数の子供たちを応援し、「赤勝て、白勝て」と応援するのです。
あるいは新潟で地震(新潟県中越地震)が起こったときに、私は教育委員会に在籍していたのですが、避難所開設のため学校に向かっていたら、地域の方たちが寒い中、毛布にくるまりながら学校に向かって歩いていたのです。その姿を見たときに、「人が追い詰められて困ったときには学校に行くんだな」と感じましたし、改めて学校への信頼を感じたことを覚えています。もちろん、学校が避難所になっているということはありますが、日本人の意識の底に「何かあったらまず学校へ…」という気持ちがあると思うのです。
そんな信頼が地域や保護者の中にはありますから、もし先生が保護者に対して多少の抵抗感のようなものを感じているとしても、まずは自ら関わり、発信してみる、学級の状況を進んで開示してみることから始めてみることが大事ではないでしょうか。先生が身構えずにそうやって一歩を踏み出せば、必ず保護者の側も身構えずに受け入れてくれると思います。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、7月27日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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