学級担任が考えておくべきカリマネとは? 前編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#17】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学
学級担任が考えておくべきカリマネとは? 前編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#17】

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、学級担任という立場の先生が考えておくべきカリキュラム・マネジメントについて説明していただきます。

Q12 本校の校長先生は、カリキュラム・マネジメントの必要性についてよく話をされています。まずは学校全体としてカリキュラム・マネジメントに取り組むことが必要なのだと思いますが、まだ経験の少ない私でも学級担任として考えておくべきカリキュラム・マネジメントとはどのようなものでしょうか?(小学校、20代)

まず考えるべきは、単元計画や年間指導計画をデザインしていくこと

 カリキュラム・マネジメント(以下、カリマネ)という言葉は多様な内容を含んでおり、あれもこれも考えなければならないため、何をすればよいのか、どこから手を付ければよいのか、困っておられるのだと思います。全体像がよく分からないのだけれど、学習指導要領の重要なキーワードの一つとして、あちこちで必要性について話がなされているため、「じゃあ、何をやればいいの?」ということで質問をしておられるのではないでしょうか。

何から取り組むかを考えていく前に、まずカリマネとはどのようなものかについて知ることが必要です。カリマネについては、3つの側面を文部科学省が示しています(資料参照)ので、これを基に簡単に紹介をしていきましょう。

【資料】文部科学省資料「カリキュラム・マネジメント」より、「カリキュラム・マネジメントの3つの側面」

カリマネの3つの側面の1つめは、内容の組織的配列です(教師が連携し、複数の教科等の連携)。学習指導要領に示された内容を、意図的、計画的、組織的に配列し、年間指導計画や単元計画を作成していくということです。2つめは、PDCAサイクルを回すことです(学校教育の効果を検証・改善)。そして3つめは、学校内外の多様な教育資源(リソース)を利活用しようということです(地域と連携し、よりよい学校教育)。

ポイントとしては、これまでカリマネというとPDCAばかりが言われてきたのですが、他の2つも視野に入れて考えてほしいということがあります。もう一つ、これまでのカリマネは、校長や副校長・教頭などのトップリーダーしかたずさわらないようなイメージがありましたが、担任の先生方みんなで取り組みましょうということです(教師が連携し…)。その意味では、担任の先生が「学級担任として考えておくべきカリマネは?」と言われるのは、ごく自然な疑問だと思います。

さて、このようにカリマネには3つの側面があるわけですが、現実に若い担任の先生が3つとも実現していくのはむずかしいでしょう。では、この中でまず何を考えるべきだと思いますか?

教育目標がカリキュラムに反映されるようにすることが大事

3つの側面の中で、若い担任の先生がまず何を考えるべきかというと、それは日々の授業と最も親和性の高い1つめの単元計画や年間指導計画をデザインしていくことだと思います。それには、1年間の学習全体を俯瞰するような全教科等の年間指導計画もあれば、紙の1枚ものになったような各教科の年間指導計画もあれば、各単元の計画もあるように、いくつかの階層があります。それらは直接、授業につながるものなので、それをデザインしていくことが担任の先生がまず取り組むべきカリマネと考えると分かりやすいでしょう。

ただ、これらはこれまで、教科書通りという形で実施されてきました。教科書が地域ごとに選ばれ、配られれば、その教科書には単元も構成されているし、年間指導計画も用意されています。つまり、そうした教科書の集合体による出来合いの状態だったわけです。それをもう少し、オリジナリティが生かせるもの、独自性のあるものとして準備していくことが、担任が最初に取り組むべきカリマネとして分かりやすいのではないか、と思います。

そのときに私たち教師が配慮すべきことは、学校ごとに定められた教育目標がカリキュラムに反映されるようにすることで、これがとても大事です。各学校では教育目標を基にして、年間約1000回もの授業を行うわけですから、当然、これがカリキュラムに反映されることが望ましいわけです。しかし、現実に教育目標をカリキュラムに反映させていくことはむずかしく、絵に描いた餅になりがちでした。それは、教育目標は知徳体で整理されたものが多く、それに対して各教科は「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの資質・能力で示されており、両者は異なる軸で語られているためです。

その異なるものをうまく噛み合わせていくためには、どちらかに揃えるのがよいわけですが、どう考えても日々の授業は学習指導要領の各教科の資質・能力の育成に向けて取り組むわけですから、急に「国語の時間には本校の教育目標で授業を行います」と言っても、むずかしいのは誰の目にも明らかですよね。ですから、学校教育目標を授業の水準に落とし込んでいけるよう、3つの資質・能力にブレイクダウンすることが求められるわけです。

やはり教育目標は昔から大事にしてきているものだし、保護者だけではなく地域の方々も知っている場合があるでしょう。それは長期目標であり、ある意味スローガンのようなものですから、それはそれで大事にして軽々に変える必要はないと思います。ただし、それを授業に落とし込むためには、知徳体のようなものを資質・能力の3本柱に短期目標としてうまくブレイクダウンすることができればよいだろうと思います。

例えば、「誰とでも関われる賢い子」と言うけれども、「子供たちの実態は言語を使った説明の根拠が曖昧だから、もう少し論理的な説明ができるようにしたいよね」とか、「子供たちは知らない人と関わる経験が少ないので、もっと多様な人と力を合わせて協働的に学習できるようにしたいよね」ということが明確にできれば、「根拠を明確にした論理的な説明」や「多様な人との協働的な学習」ということで、資質・能力の短期的な目標に落とし込むことができるのではないでしょうか。

そうすると、1年間の学習指導計画の中で、「国語のこの単元で『根拠を明確にした論理的な説明』の力を育めそうだね」と重点単元が明確になったり、「それについては国語のこの単元と算数のこの単元や理科のこの単元を関連付けられるといいよね」というように重点単元と関連単元の関係が明確になったりするだろうと思います。担任の先生は、まずそれくらいのことが考えられれば、十分にオリジナリティのあるカリキュラムになるのではないかと思います。全部をオリジナリティのあるものにしようと思うと大変です。しかし、それくらいのカリマネができれば、それぞれの学校に固有のカリキュラムや学習活動をつくることができるだろうと思います。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、6月22日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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